『河を渡って木立を抜けて』        〜親愛なる友、ジャンヌ・ラ・ピュセルの思い出に〜(改訂版)                  作・玉村徹 -------------------------------------------------------------------------------- 【キャスト】  伊藤真一  演劇部部長だが気が弱い。  斎藤智恵  副部長だが気が強い。実質的な部長。脚本家志望。  宮本アキラ 部員。智恵の幼なじみ。  山田太郎  部員。普段は無口。  野上陽子 部員。おとなしいが演技派。  竹本裕之  助っ人。  黒衣の者達 コロスです。セリフがとても少ない。できれば三名以上欲しい。 -------------------------------------------------------------------------------- *緞帳が上がる。 舞台は暗い。ホリゾントに適当な色。 ゆるやかな音楽。 舞台奥に設定した平台(高足つき)の上を舞台袖・左右からゆっくり歩いてくる黒衣の人影たち。シルエットになる。黒衣たちは等間隔に平台の上に並ぶ。威圧的に。 中央にサスを落とす。 浮かび上がる白衣の少女。音楽ストップ。顔を上げ、セリフ。     「白衣」「黒衣」は二メートル×一メートル程度の布。これをかぶって衣     装とする。なお、この大きさの布を何種類かの色で用意しておく。     舞台は、奥に平台と箱足で高い台を作り遠景とする。平台の上、及びその     前方に、ちょうど小学校の校庭にある鉄棒のようなモノをたくさん作って     おく。ちょうど「コ」の字を立てた柵のようなモノと考えて下さい。大き     さはさまざま、背丈を超えるくらいのもあっていい。これに使わない布を     かけて組み合わせることで、時には部屋ともなり城ともなる。また、役者     は自分のかぶっている「布」をこれにかけて、別の布を身にまとえば別の     役柄になることもできる。たとえば、白を着ればジャンヌ、青を着ればシ     ャルル王太子、という具合です。     「できれば」だけど、柵をくぐると同時に衣装と役柄が変わっている、く     らいのスムーズさが欲しいです。 「柵」自体は黒く塗ること。 ジャンヌ ええ、お母さん。私は元気にやってます。・・・って言っても信じて下さらないでしょうけれど。こうしていても、お母さんの怒った顔が目に浮かんできます。女だてらに馬になんか乗って、剣を振り上げて・・・私って、親不孝してますね。でも。私は元気です。とっても。 *黒衣の人影は、なにか動作をして(手を振り上げるとか、なんでもいい。シルエットで表情とか見えないから、発言するときはオーバーにアクションしないと観客にわかりづらくなります)、セリフを言うこと。 黒衣1 わが祖国は、あの忌まわしい魔女の悲惨な害毒に感染している。 ジャンヌ 今は、国中どこに行っても戦争、戦争、戦争・・・でも、安心して下さい、お母さん。それももうすぐ終わります。 黒衣2 苦痛、病気、そして戦争。われらフランス国民を一〇〇年戦争に引きずり込んだのも魔女の仕業だ。 ジャンヌ こっちの人はみんな親切。いい人ばかりです。思いやりがあって、勇敢で。そうなの、私、結構うまくやってるのよ、お母さん。 黒衣3 魔女を放っておくことなど出来ない。ならば、今我々がするべき事は一つ。 ジャンヌ パリはとても素敵なところです。しゃれたお店がたくさんあって。綺麗なリボンを見つけました。きっとお母さんにも似合うと思います。綺麗な青いリボンです。 黒衣4 悪魔をまことの神と呼び、悪魔の命令に従った罪。シャルル王太子殿下の心を惑わした罪。そしてなにより、神聖なる教会をないがしろにした罪。 ジャンヌ でもやっぱり村が一番。朝、ベッドで聞くニワトリの声。干し草の匂い。きっともうすぐ帰ります。あの懐かしいドン・レミの丘に。河を渡って木立を抜けて。 黒衣5 神の息子たちよ、キリストの兵士達よ、十字架の敵、真理と純潔を腐敗させる敵に向かって立ち上がれ。今こそは勇気を奮い起こす時。身を隠して暗がりを歩く者どもの、その正体を暴き出してやるのだ。 *黒衣たち、舞台奥の平台から降りて、ジャンヌを取り囲む。 黒衣1 指に万力をあてがい、肉を裂き骨を砕け。 黒衣2 焼けたペンチで肉をちぎりとれ。 黒衣3 熱した鉄の長靴をはかせよ。ときにはその靴をはかせた足をハンマーで叩きつぶせ。 黒衣4 食べ物を与えてはならない。眠らせてはならない。牢屋の中を監視を付けていつまでも歩かせよ。 黒衣5 逆さに吊って水の中に沈めよ。何度も何度も沈めよ。 *黒衣1〜5まで、このセリフを何度も繰り返しながらジャンヌのまわりを回る。 ジャンヌ いいえ! いいえ! 黒衣1 ドン・レミ村、父ジャック・ダルク、母イザベルの娘、ジャンヌ・ダルク、われら異端審問裁判所はお前を異端と認める。我らはお前を魔女と認める。我らはお前こそこの世界から消し去られるべき存在であることを認める。 黒衣1〜5(声をそろえて) ジャンヌの手を縛れ。 十字架に縛りつけよ。 火を放て。 肉を灰に、 骨を塵に。 この女によって汚された大地を聖なる炎で清めるのだ。 *轟音。赤のホリ。 倒れ臥すジャンヌ。 *轟音高まる。ジャンヌへの明かり弱まり・・・ややあって舞台全体が明るくなる。全員が衣装(布)を取って棒にかける。下は制服でも普段着でもなんでもかまいません。ぶつぶつ私語があってもいいね。   ここまでの配役は、ジャンヌ・・・斎藤智恵 黒衣1・・・・宮本アキラ 2 伊藤真一 3 野上陽子 4 竹本裕之 5 山田太郎 智恵 みたいな感じで。どうかな? ・・・あ、太郎ちゃん、いい感じだったよ、ちゃんとしゃべれるんじゃない。ねぇ? アキラ そうそう。結構乗ってただろ。 陽子 うん、怖かったぁ。 智恵 普段全然口きいてくんないから、あたしてっきりあんたは・・・。 太郎 ・・・。 智恵 ・・・やっぱり無口なのね。ま、いっか。 ええとね、ちょっと聞いて。こんな感じではじめようと思うわけ、今度の劇は。迫害にもくじけず信念を貫き通したオルレアンの乙女、ジャンヌ・ダルク。中世フランスを舞台に波瀾万丈の歴史絵巻を描く、なんて感じにしたいと思って。まあ、五人ぽっちで波瀾万丈ってのもアレだけど・・・どう? 裕之 どうっていわれてもなー。 智恵 なに? なんか意見でもある? 裕之 いや、別に、意見なんて。 智恵 はっきり言ってよ。 真一 ちょ、ちょっと。 裕之 ないよ。ほんとに。 智恵 その顔はあるって顔よ。なんなのよ。 真一 まあまあ。 アキラ 裕之、こいつ、しつこいから気をつけなって。 智恵 なんだって。 陽子 ちょっと智恵。 真一 まあまあ。 アキラ なんたって小学校中学校を通じて無遅刻無欠席無早退、その上朝のラジオ体操まで一度も休んだことがないっていう、とんでもない奴だからな。 智恵 アキラ、そういうあんたは何。学校に来たって授業は寝てばっかり、ノートは真っ白試験は真っ赤、まともに起きてるのは部活の時くらい・・・だいたいあんたがいるからうちの演劇部、イメージ悪くなってんだからね。 アキラ イメージわりいのはどっかのヒステリー女のせいじゃねぇか。 智恵 そういうこというと、小学五年生までおねしょしてたのバラすよ。 裕之 もうバラしてるって。 アキラ てめえこそ、四年生の時、理科室横の階段の上からずっこけてスカートへそまでまくれあがったまんま気絶してやがったこと、こいつらにいっちまうぞ。 陽子 もう言ってるって。 智恵 アキラ〜。 アキラ 智恵〜。 *智恵とアキラにらみ合う。真一、おろおろする。太郎、無視してる。 真一 まあまあ。 裕之 ・・・なんかとんでもないとこにはいっちまったような・・・。 智恵 そうよ。だから聞きたかったのよ。 裕之 へ? 智恵 季節はずれの新入部員、竹本裕之君。あなたなら客観的な目でうちの劇を見られるはずだわ。あたしたちには気がつかないような・・・ね、さっきの質問だけど、どうだった? ぜひ感想とか意見とか聞かせて欲しいんだけど。 裕之 新入部員ねぇ・・・俺としちゃただの助っ人のつもりなんだけど。俺、ほんっと素人だぜ? 智恵 いいんだって。ね、何か気がついたこと、ある? 裕之 気がついたっていうか・・・わからねえことならあるけど。 智恵 なになに? 裕之 さっきのあんたがやってたアレ・・・誰だい、ジャンヌ・ダルクって? *太郎以外、全員ずっこける。 智恵 あのね。 アキラ まったくお前らしいよ。 裕之 だって俺、世界史選択じゃないし・・・フランスかどっかの話だろうってのはわかったけど・・・そのジャンヌって女が魔女だったわけ? 陽子 違うわよ。ジャンヌは魔女なんかじゃなかったんだけど、無理矢理宗教裁判にかけられて。 裕之 しゅうきょう・・・さいばん? 智恵 じゃさ、マンガの「ベルサイユのバラ」って知ってる? 裕之 へ? 智恵 ほら、アンドレとかオスカルとか出てくる。 裕之 ああ、あらいぐまの? 智恵 あれはラスカル! 裕之 じゃ、犬の。 智恵 それはパトラッシュ。 裕之 中華料理の上手な・・・。 智恵 それは特級料理人マオ、って何で日曜アニメ劇場の話になるのよ。 アキラ ほらみろ。オレの言ったとおりだろ。 裕之 え? 智恵 うるさいぞ、アキラ。 アキラ だーれも知りゃしないって、ジャンヌ・ダルクなんてさ。マイナーだって。 智恵 アキラ。 アキラ なんで昔の、しかも「おフランス」の話をおれたちがやんなきゃいけないわけ。おれたちゃ日本人だぞ。だいたいオレは・・・な、裕之、知ってるか、オレの役。名前がピエール・コーションだぞ。オレのどこが「ピエール」だっつーの。 裕之 ま、まあな。 アキラ そんでもって、あっちの部長がシャルル王太子殿下で、太郎はボードリクール将軍閣下だ。笑っちゃうだろが。 裕之 そりゃひでえや。 智恵 あのね。そのことはちゃんと話し合ったじゃない。今年、うちはこれで行くって、みんなで決めてそれで・・・ね、部長? 真一 そ、そうだよ。斎藤さんの脚本をやろうって、き、決めたよ。うん。決めた。 陽子 そうよね。 アキラ けどさ、お前らだって・・・。 智恵 けどじゃないわよ。うちが今どういう状況かわかってる? 公演まであと一ヶ月、なのに通し練習どころか読み合わせだってまともにやってない。部員はやっと五人に増えたけど、今日みたいに全員そろうことの方が珍しい・・・どっかのだれかさんがなんだかんだ理由付けてさぼるからよ。 アキラ うるせえ。男には男の事情ってのがあるんだ。 智恵 ふん、どうせ数学の追試かなんかでしょ。 アキラ あ、当てずっぽうで当てるなよ。 *太郎がふと顔を上げる。 智恵 あらそう。・・・(裕之に向かって)えとね、ジャンヌ・ダルクというのは、一〇〇年戦争でイギリスとフランスが戦っているとき、フランス軍を率いて勝利をおさめた少女なの。もちろん実在の、よ。 時代はさっきの「ベルバラ」より三〇〇年くらい昔・・・今度、うちの演劇部はこのジャンヌ・ダルクを主人公にして劇をやることになったわけ・・・どうしたの? 太郎 もう一度言ってくれ。 裕之 おお、しゃべった。 智恵 え? どういうこと? 太郎 もう一度。 智恵 だからジャンヌで劇を。 *太郎、首を振る。 智恵 フランス軍を率いて勝利した少女? *太郎、首を振る。 アキラ どうしたんだ、山田のやつ。 智恵 待って。・・・一〇〇年戦争で・・・違うの? なに? 私なんて言った? 裕之 ええと、どっかのだれかがさぼるから? アキラ 悪かったな。どうせオレは悪役だよ。 裕之 わりい。 真一 ・・・えと、部員がやっと五人に増えたけど・・・え? 智恵 役者が・・・。 裕之 五人。 陽子 どうかしたの? アキラ うちの部はもともと四人・・・。 陽子 あ。・・・裕之君入れて五人のはずよね。 *驚く部員達。 部員達 一人多い! *暗転。音楽。部員達退場。やがて騒然とした群衆の声を音響で。悲鳴。何かが壊れる音。軍馬のいななき。 舞台袖(下手)に置いた横方向の照明をつける。色は赤かな。戦争の色、ということで。 部員が一人ずつ、叫びながら、登場。身体半分だけ照明に照らされて、表情など細部は見えないまま。真一と太郎は舞台奥の平台に駆け上がる。智恵と裕之は舞台前。立ち位置に高さの変化を付けよう。 なお、配役(後述)に応じた衣装の布は登場の段階ですでに着ているものとする。着替えは大変です。舞台袖にサポートの人が欲しい。 裕之 イギリス軍だ! やつらが攻めてきたぞ! 真一 もう、オルレアンはお終いだ! 俺達は皆殺しにされるんだ。 智恵 あんた、この街を捨ててはいけないよ・・・どうしたらいい? 太郎 王太子様は! シャルル様とその御家来衆はどうさなってるんだ! おらたちを守ってくれねぇのか。 *サスが舞台下手前に落ち、陽子が浮かび上がる。ナレーターである。 陽子 時は一四二九年五月一〇日。所はフランス中部・オルレアンの町。今まさにここは戦場となろうとしていた。イギリスとフランス両国の間で一〇〇年の長きに渡った戦いの、これは一こまであり・・・ジャンヌ・ダルクが歴史上初めてその姿をあらわしたところでもあった。 真一 そうだ、シャルル様だ。われらがフランスの王太子、シャルル様ならなんとかして下さるんじゃないか。 太郎 俺達の税金を絞れるだけ搾り取ってんだ、そのくれぇやってもらおうじゃねぇか。 智恵 あたしたちを助けて! 裕之 俺はまだ死にたくねぇ! *高まる轟音。照明アップ。ここから配役が変わる。役者は演技を切り替えること。    真一・・・王太子シャルル 太郎・・・シャルルの腹心の家来ロベール・ボードリクール 智恵・・・民衆 裕之・・・同じく    アキラ・・ジャンヌ 智恵 王太子さま! シャルル様! 私たちをどうかお助け下さい! 裕之 (ケガをしている)イギリス軍が! やつら、すぐそこまで・・・ああ、もう駄目だ! 太郎 ・・・騒がしいことだ。 智恵 え? 太郎 生まれの卑しい者どもはこれだから・・・(振り返って見上げ)ねぇ、殿下。 真一 ま、まあ。 太郎 話のむきはわかった。ええと。 智恵 シモーヌ。シモーヌ・ロッシュ。亭主はそこの通りで鍛冶屋をやっております。 太郎 そうか、ではシモーヌ。お前達の窮状はよくわかった。いずれフランス国を治める王となる身として、殿下が国民の危機を見過ごすなどということは、もちろんない。・・・しかし。 智恵 しかし? 太郎 しかし、残念ながらこたびはお前達の願いを聞き入れることはできぬ。 智恵 なんだって? 太郎 よいか、我々は殿下の兵士だ。故に、我々の任務は、殿下を安全な地までお移し申し上げることなのだ。・・・ああ、もちろん、しかる後にこのオルレアンに戻りイギリス軍を蹴散らしてやろう。それでよいな。 智恵 そんな・・・その頃にはあたし達は。 裕之 (うめくだけ) 太郎 さ、殿下、参りましょう。 真一 う、うむ。 *真一、太郎に手を取られて台から降りてくる。 裕之 俺達は見殺しか・・・! 智恵 ああ、神様。 真一 ど、どうだろう、ロベール、この者達の。 太郎 殿下。(小声で)あのような卑しい者ども、お気になさることはありません。(裕之に向かって大声で)お前達もクリスチャンであろう。我らなどではなく、いと高き御方にすがったらどうだ。 裕之 どういうことだ? 太郎 神に祈るがいいさ。あっはっは。 *つかみかかる智恵、だが太郎に平手打ちを食らって倒れる。四人全員ストップモーション。 陽子 いつの時代も戦争は悲惨なもの。そしてなによりその悲惨さは貧しい者、弱い者がその多くを引き受けなくてはならないのだった。貴族や政治家や軍人が本当に民衆の味方をしてくれたことは、悲しいかな、ほとんど例がない。だからこそ、人々は神を信じる、神にすがる・・・答があった覚えなどないのだけれど、そうするしかないのだから。 しかし。 この時は違った。天にまします父なる神はその娘をこの地上に使わしたのだ。その名はジャンヌ・ダルク、当年とって一七歳の少女。 *ド派手なファンファーレ。ピンスポ。 アキラ、白の布をまとって舞台奥の台・下手に登場。アキラは怪しい扮装。 アキラ おまちなさい! かわいそうなこの方達を見捨てるなんて、月に代わってお仕置きよ! *ここは決めポーズを忘れずに。 太郎 ・・・おいおい。 裕之 今時セーラームーンかよ。 アキラ あたしが来たからにはもう安心、ジャンヌにおまかせよ! おーっほっほっ。 裕之 おまえ、大丈夫か、頭。 アキラ 大丈夫なわけないじゃない。あたしがジャンヌなんて、もうやけくそよ!おーっほっほっ。 智恵 やめな、気持ち悪い。 アキラ なによ、あんたが言いだした事じゃないの、斬新なジャンヌ像を作り上げたいって。 裕之 確かに斬新だよな。けど、フランス大使館から殺し屋が派遣されて来るぞ。 智恵 殺していいよ、こんな化け物。 アキラ なによお、あたしのどっこが化け物なのよお。智恵ってば嫉妬してるのよね。美しすぎるって、つ・み☆ 智恵 あのねアキラ〜。 アキラ なによ智恵〜。 真一 まあまあ。 裕之 時間ないんだろ。だったらやっぱりジャンヌ役はオーソドックスにいこうぜ。・・・って、こんなこと、新人に言わせんなよな。 アキラ それって、あたしじゃ駄目って事? やぁだチョーむかつくぅ。 裕之 やめろ妖怪。・・・いるじゃないかよ。ほら。 *裕之、陽子を指さす。 アキラ・智恵 え? 陽子 あたし? あたしは駄目よ。 裕之 なんで? この中では一番ぴったりだと思うけど。駄目なのか? 陽子 だって、あたしは・・・。 智恵 ほんと、なーんで思いつかなかったんだろ、今の今まで。・・・だったら最初っからこんなの、使わなくて良かったんだよねー。 アキラ なんだよ、こんなのって。 陽子 ちょ、ちょっと。 裕之 部長もそれでいいだろ? ・・・だってさ。決定だな。 陽子 駄目だって。あたしなんか、そんな大役無理だってば。 智恵 お願い、陽子。 陽子 だって・・・ほらセリフとか覚えてないし。 智恵 いいよ、脚本持ったままで。本番もなんだったらプロンプター付けるから。 陽子 でも・・・。 アキラ 頼むよ。俺からも。 裕之 大丈夫だって。 真一 う、うん。 陽子 でも、そんなつもりじゃなかったし。 *太郎が前にゆっくり進み出て陽子の目を見つめ・・・みんなが注目する中、陽子の肩をポン、と叩いて元の位置へ戻る。 アキラ そんだけかー! 陽子 わかった。あたし、やってみる。 アキラ なんでだよー! 智恵 ありがとう! 感謝感謝! よおし、んじゃ、さっきのシーンからね。ジャンヌが初めて民衆の前に現れて人々を救うところ。スタンバイ、いい? ・・・スタート。 *立ち去ろうとする真一と太郎。床に倒れている裕之と智恵。現れる陽子。最初は脚本を持っているが、やがて見ないでセリフを言いはじめる。 陽子 お待ちなさい! この方達を見捨てることを、主はお許しになりません! アキラ そうよそうよ。ひとでなしー。 太郎 ・・・なんだ、小娘。 陽子 ジャンヌ、ジャンヌ・ダルクと申します。ここより南、ドン・レミ村から参りました。 太郎 だからなんだ。要らぬ差し出口はためにならぬと教わりたいか。 陽子 みなさんをお助けしたい。それが私の望みであり、主のご意志なのです。 太郎 ふん、世迷い言を。・・・参りましょう、殿下。 陽子 私はいろいろなことを知っています。たとえば、シャルル王太子殿下をお守りすると口では言いながら、その実、攻め寄せるイギリス軍にはとうていかなわぬと見て、おのが命惜しさに卑怯にも逃げだそうとしている家来のこととか。 太郎 な・・・。 真一 ロ、ロベール? それはまことか? 陽子 そうそう、こんなのはいかがですか。もし敵軍に脱出を気づかれ、追っ手がかかったとしても、いざとなれば王太子殿下には使い道がある・・・。 真一 ロベール、そなた・・・。 裕之 何の話なんだ? 智恵 黙って! 太郎 殿下! 数年来おそば近くお仕え申し上げたこの私と、どこのものともわからぬ怪しげな小娘と、どちらを信用なさいます! 真一 それは。 裕之 なぁ、これはいったいどういう事なんだ? 智恵 もしかしたら・・・もしかしたら、助かるのかも。 裕之 何言ってる? 智恵 この人は・・・この方は。 太郎 そもそもこのようなときに殿下の前に現れることこそおかしい。こやつこそ、実のところ、イギリス軍のスパイではありますまいか? 真一 な、なるほど。 太郎 というわけだ、ジャンヌとやら。お前もこやつら同様、神のみもとに送り届けてくれよう。 陽子 軽々しく主の御名を口にするものではありません、ロベール・ド・ボードリクール将軍。 太郎 私の名前を、どうして知っている! 智恵 やっぱり! 裕之 お、おい。 太郎 小娘! *剣を振り下ろす太郎、しかし、ジャンヌがかざした手の前に剣ははじかれる。 真一 な、なんだ・・・? 太郎 奇跡、なのか? 智恵 そうだよ! この方こそ神様の御使い、天使さまだよ! 裕之 天使・・・。 *サスがさらに陽子に落ちる。音響は賛美歌。 陽子 ・・・イギリス軍は確かに比類なき軍隊です。でも、私たちにはさらに偉大な天の軍勢が味方して下さいます。あきらめることはないのです。絶望することなどないのです。 殿下、将軍、力を貸して下さい。 デュラン、ピエール、仲間の人々に呼びかけて下さい。 このフランスのすべての国民が力を結集するときが来たのです。侵略者から祖国を奪い返すときが、長きに渡る戦乱を終わらせ、平和な日々をこの手につかむときがやってきたのです。 主は、われらとともに、いませり! 全員 主は、我らとともに、いませり! *歓声。照明ダウン。ただし、陽子のサスが最後まで残る。 陽子 (独り言のように)みんなに、主のご加護を・・・。 *暗転。賛美歌、静かに流れる。 明くる日の午後。蝉の声。がらんとした舞台(前)に、智恵が座り込んでなにやら書いている。そこに、裕之登場。 裕之 おっす。みんなは? 智恵 ちょっち、待って。・・・んとんとんと・・・ここんとこで敗走するイギリス軍を出さなきゃなんないんだから、ええと、手が空いてるのは、太郎ちゃんと部長と。 裕之 なにそれ。 智恵 え? ああ、一人二役・・・どころか三役も四役もしなくちゃいけないのよ、今度の劇は。なんたって歴史絵巻だかんね。 裕之 なんだかわかんねぇけど。 *智恵は書き物をしてうつむいたまましゃべる。 智恵 裕君、あんた才能あるよ。初めてであんなにしゃべれて動けるなんて・・・正直、そこまでは期待してなかったもん。 裕之 そーかね。 智恵 ほんと感謝してる。今ね、書き直ししてるとこなんだけど、裕君の出番、ぐっと増えたからねー。 裕之 おいおい。 智恵 大丈夫。いざとなったらプロンプター付けてあげる。 裕之 それ、陽子にも言ったろ。・・・そういや、陽子は? 他の連中は? 今日は練習しないのか? 智恵 ・・・あのね、しないわけないでしょ。現に脚本兼演出のあたしがここにこうしているんだから。 裕之 けどほら。 智恵 アキラの馬鹿はまた追試。部長・・・真一君と太郎ちゃんは予備校の特別講習なんだって。 裕之 なんだ、練習になんないじゃんか。 智恵 ・・・あっさり言うわね。 裕之 あ。 智恵 いいって。バカみたいでしょ、あたし。だーれも来ないのにこんなとこでこんなことしてる。 裕之 斎藤・・・。 智恵 いいんだって。わかってるんだ、自分でも。なんかね、あたしっていっつもこうらしいのよ。わーって突っ走って、それはいいのよ、それは。先生なんかにはほめられるのね。「斎藤、お前はなんでも積極的だな」なんて。で、あたしもその気になっちゃってどんどん加速が付いちゃうのね。もう、ターボで駆け出しちゃうわけ。でも気が付くとあたしの後ろには誰もいない・・・みたいな。 裕之 そんなことは。 智恵 ほら、よくあるじゃない。掃除とかさ、一生懸命やってると、いつの間にか友達はみんないなくなってて、結局ぜーんぶ一人でやらなくちゃならなくなるなんて話。・・・でさ、この話の一番嫌なところは、最後にはその子、意地になっちゃうところよね。サボった友達を憎んで、自分だけは真面目だった、なんて寂しいプライドを抱え込んで。最初はただ、教室を綺麗にしたかっただけなのにさ。でも、そんな気持ちはとっくの昔にすり切れて埃と一緒にどっかに消えちゃってて・・・ね、バカでしょ。 裕之 だったら・・・だったら、オレもバカだ。 智恵 え? ああ、裕くんのことじゃないよ。そんな意味じゃないって。今日は来てくれて、ありがと。ほんと感謝してる。 裕之 ・・・そんなんじゃねえよ。 智恵 え? 裕之 いや、その、・・・た、大変だよな、演劇って。オレ、ここ来るまで全然知らなかった。 智恵 まぁね。特にうちは人数が少ないしね。たったの五人・・・んと、じゃなくて、六人か。 裕之 あ、あれ。なんだか変な話なんだって? 智恵 ん。確かに四人だったのよ、うちの部。それは間違いないの。で、それじゃあんまり少なすぎるから、誰かいい人いないかってことになって、裕君に来てもらったわけだから。 裕之 とすると一人多いわけだろ。あんたとアキラ、陽子に真一、それから太郎。・・・で、誰も余計な奴はいない? 智恵 まあね。 裕之 昔話になかったか、こういうの。座敷ワラシだっけ? みんなで遊んでると、いつの間にか一人増えてて、だけどだれが増えたのかわからない。・・・なぁ、こんな、劇なんかやってていいのか? 智恵 どうして? いつの間にか部員が増えてるなんて、こんなありがたい話はないわよ。 裕之 そうじゃなくて。これって凄く怖い話なんじゃないか。 智恵 上演さえ出来るんなら、【キャスト】がもののけだろうかたたり神だろうがかまやしないわよ。・・・んーっと、もうちょっとふくらませるとすると・・・。 裕之 すげえな・・・。 *ここで、智恵と裕之はストップモーション。サス消える。 上手奥にサス。アキラ一人芝居。追試を受けている感じ。 アキラ センセ、もういいっしょ? いくら時間があったって、わかんないモノはわかんないって。え? はいはいはいはい・・・・そりゃね、センセ、おっしゃるとおり、努力の大事なことはわかりますって。 けどね、いっくら努力したって出来ない事っていうのもあるんじゃないですか。はっきり言って、僕には微分とか積分とか言うのは無理ですって。 だいたい、こんなの何になるんですか・・・はあ? これで。三角形や長方形だけやなくて、曲線で描かれた図形の面積もきちんと正確に計れるようになる? はあ。それで? それだけ? センセ。高校の勉強なんて、やっぱ無駄じゃないですか。全然役に立たないし。まあ、受験とかには必要だろうけど。 ・・・え? 将来のこと? 僕ですか? そりゃもちろん、役者、俳優に決まってるでしょ。だいたいイヤだって言ったって、これだけのルックス、芸能界がほっておきませんって。も、すぐテレビデビューね。タイトルは「沈黙の森でボーイハントするパパは板橋マダムス!」、共演は飯島に広末に紀香に・・・。 ・・・はいはい。そりゃね、本気じゃないっすよ。んなの。俳優なんて。そりゃ部活はやってますけどね。それなりに。でも、それ、進路にはならない。食ってけないっすから。親も駄目だっていってるし。 こないだね。ちょっと言ってみたんすよ。したら、なんていったと思います、うちの親? 頼むから大学に行ってくれ、だって。近頃はあれっすかね、親が頼むもんなんすかね。大学行って、会社入ってサラリーマンして。ちゃんとした道を進んで欲しいんだそうです。はは。 でね。なんかね、それ言ってる親の顔見てたらね。なんか・・・イヤんなってきちゃって。こんなもんかな、人生って、みたいな。はは。人生だって。は。 ・・・ね、センセ。 仕方ないんですかねぇ、これって。 *アキラ、ストップモーション。サス消える。アキラ退場。 舞台下手奥にサス。真一と太郎。夏期講習の感じ。並んで椅子にすわっている。椅子はボックスで作り、最初から置いておく。出し入れはみっともなくなりますから。音響で予備校の教室のザワザワを。 太郎、講義を聴くマイム。 真一、講義を聞き始めるがなんだか集中できない様子。 太郎 話してみろ。 真一 え? 太郎 話してみろ。 真一 な、なにを。 太郎 いいから。 真一 あ、えと、むかしむかし、あるところにおじいさんとおばあさんが。 太郎 (冷たい視線)・・・・。 真一 あ、ごめん。 太郎 (顔を真一に向ける。無言)・・・。 真一 ・・・言うよ。言います。前から思ってたんだけど。こんな、こんな勉強なんかしてていいのかなって。勉強なんかってのも変だけど。・・・昨日さ。部活が終わってから、7時ごろかな。・・・公園突っ切って帰ったの。ほら、僕の家、その方が早いから。暗いけど。で、あそこ、はじっこの所ちょっと丘になってるじゃない。町がちょっと見下ろせる・・・。 太郎 (講義を聴いて、前を向いたまま)小山谷公園だな。 真一 う、うん。たいした高さじゃないけど。駅前のビルとか見えるわけ。明かりがついてて、まだ仕事してる人がいっぱい見えた。ワイシャツの袖まくって、電話かけたり書類書いたり。若い人やお父さんくらいの人や女の人やお年寄りの人も。一生懸命働いてた。がんばってた。でも、それは、その様子は、まるで。 太郎 巣の中のはたらき蜂。 真一 ど・・・どうして、わかんのさ。なんで。 太郎 続けろ。 真一 う・・・うん。蜂みたいに見えた。巣の中のはたらき蜂。いつだったか理科の時間にビデオで見た・・・くるくるくるくる走り回ってる蜂。あ、でも、蜂がいけないってことじゃなくて、蜂は蜂なりに頑張ってるわけだから、だから。 太郎 でも、虫けらだ。 真一 そんな、僕は、そんなこと。 太郎 ・・・。 真一 そんなつもりで言ったんじゃないんだ。僕は、僕はね。 太郎 ・・・。 真一 ただ・・・ビルの中にいる大人達が虫けらなら・・・その大人になるために、僕らは勉強して、部活して・・・。 太郎 ・・・。 真一 だとしたら・・・だとしたら、この世界には、虫けらしかいないんじゃない? 僕もみんなも、どこまでいってもずっと。 太郎 ・・・。 真一 太郎ちゃん! 黙ってないでよ! 太郎 真一。 真一 なに。 太郎 俺だって神様じゃない。 真一 え? ・・・あ。 太郎 (にっこり笑って)講義。 真一 あ。・・・ああ。だよね。 *教室のザワザワを音響で。 真一と太郎、ストップモーション。サス消える。真一と太郎退場。 再び智恵と裕之に照明。 裕之 あのさ。 智恵 なあに・・・うーん・・・。 裕之 好きなんだなぁ、斎藤。 智恵 なにそれ、皮肉? 裕之 いや、やっぱり好きなんだよ、劇のことが・・・オレはちょっと。 智恵 ちょっと、何よ。 裕之 ちょっと・・・うらやましい・・・ってさ。 智恵 なんでさ? 裕之 だってさ、俺なんか、そんなに好きなものないもんな。 智恵 (不自然なほど明るく)なにいってんの。ここにいるあたしは未来の大作家なんだよ。ここが(と、部室を指して)あたしの夢の出発点・・・そしていつか世界中が感動して泣いちゃうような本を書くんだよ。 裕之 斎藤。 智恵 ・・・ね、一つ聞いていい? 裕之 なんだい。 智恵 裕くんはどうしてうちの部に来てくれたの? その気なら断れたでしょ? だいたいここはこのざまなんだし。 裕之 オ、オレ? 智恵 以前から演劇が好きだったんだ、なんて言わないよね? アキラにお金でも借りてた? それともよっぽど暇をもてあましてる? あ、もしかして、あたしの美しさに心打たれてとか? 裕之 バ、バカ、何いってんだよ。ひ、暇だったんだよ。俺は就職組だから・・・家継ぐんだ、酒屋。 智恵 酒屋? 裕之 ああ。オヤジも年だし。卒業したら、店に出ることになってる。 智恵 そう・・・なんだ。 裕之 二十歳になったら来いよ。・・・安くしてやる。 智恵 あの。 裕之 つうわけで、今日も明日もその先もずーっと暇だ。劇、つきあってやるよ。 智恵 あ・・・ありがと。 *静かな音楽はいる。照明変化。部員達が出てきて劇の準備を始める。こそこそしないこと。動きはレストランのウェイターのようになめらかでありたい・・・なんてね。 智恵 ・・・あ、アキラ、布はもっとこう・・・そうそう。音響の方はいい?・・・ナレーション、入ります。 *照明アップ。戦闘の音楽。 智恵はナレーションと演出を兼ねる。 智恵 時に一四二九年六月二日、ジャンヌたちはついに立ち上がった。奇跡の少女の名はすでに国中に広まり、武器を手にはせ参じる名もなき市民は日毎にその数を増していた。ロワール川を西に昇る朝日を東に、目指すはオルレアンを包囲するイギリス軍。いよいよ戦いは始まったのだ。 *みんなで音楽にあわせて剣を振り回す・・・はずだが、全然駄目。このへんはわざと下手くそに、もたつく感じでやってね。息切れするヤツとか、コケるヤツとかいてもいい。 智恵 駄目駄目・・・ぜんっぜん駄目。 *音楽、ダウン。アキラ、着替えはじめる。 智恵 とても戦闘シーンには見えないよ。もっとはじけた演技してくれなくちゃ。えとね、もう一遍やるから・・・ちょっとアキラ! アキラ なんだよ? 智恵 なんだよ、じゃなくって、もう一遍通してやるから・・・。 アキラ あ、パス。オレ、もう時間なの。 智恵 時間って。 アキラ 男の事情。わりいね、みんな。 智恵 ちょっと。 真一 あ、僕らも・・・。 裕之 おいおい。おまえらも? 智恵 困るじゃない。 真一 このあと、太郎ちゃんと、その。 智恵 そんな、何考えてんのよ、もう時間もあんまりないのに。 アキラ 任せるって。智恵なら大丈夫だろ? 智恵 アキラ、あんたね、ちょっと。 アキラ しかたねぇだろ。いろいろあんだよ。じゃあな、あとはヨロシク! 智恵 ちょっと待ちなさいよ! 陽子 駄目よ、智恵。・・・頑張ってね、追試。 アキラ え? 陽子 英語、苦手でしょ。佐々木先生は怖いし? アキラ あ、あんなの、なんてことねぇよ。 陽子 そう。・・・真一君も太郎ちゃんも大変よね、予備校。 真一 う、うん。 陽子 でもさ、もし早く終わったら、また戻ってきてよ。あたしら、待ってるからさ。ね、智恵? 智恵 え? 真一 ・・・ごめんね。 *アキラ、真一、太郎、下手に退場。立ちつくす智恵。 裕之 さて、どうする? これから。 智恵 ・・・三四ページ。 裕之 え? 智恵 ・・・とりあえず三四ページ。次の場面やろう。 裕之 でも、人数たりねぇんじゃねぇか? 智恵 やるの。やるのよ。 陽子 大丈夫? 智恵 なにいってんのよ、あんたが。 裕之 そうだ。ちょっとごめん。・・・へっへっへ。 智恵 へ? 裕之 考えてたことがあって。ちょっとごめん。 智恵 裕くん! *裕之、退場。陽子、智恵と二人だけになる。 智恵 ・・・なんだかもう、みんな。 陽子 智恵。 智恵 ・・・。 *陽子、舞台の準備を始める。「柵」に布をかけ、位置を移動させる。智恵、立ちつくしている。 智恵 ・・・もういい。もうやめた。劇なんかもう知ったコトじゃない。 陽子 何か言った? 智恵 ああ、聞こえた? 陽子 聞こえるように言ったんでしょ。 智恵 ・・・そうよ。 陽子 らしくないじゃない。 智恵 あんたは・・・陽子は、どーしてそう涼しい顔してられんの? 陽子 あたし? *陽子、準備を続ける。 智恵 もうやめていいよ。こんなの無駄。二人しかいないのに・・・やめなよ。 陽子 大丈夫。帰って来るって。 智恵 何馬鹿いってんの。 陽子 「三日間の日限を与えて下さい。たった一人の妹に、亭主を持たせてやりたいのです。三日のうちに村で結婚式を挙げさせ、私は必ずここへ帰ってきます。」 智恵 なにそれ? 陽子 走れメロス。「そうです、帰ってくるのです。私は約束を守ります。」 智恵 ・・・「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのはお前達だ。人の心はあてにならない。人間はもともと私欲のかたまりさ。信じてはならぬ。」 陽子 「人の心を疑うのは、もっとも恥ずべき悪徳だ。王は、民の忠誠をさえ疑っておられる。」 智恵 「馬鹿な、とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰ってくるというのか。」 陽子 「そんなに信じられないならば、よろしい、この町にセリヌンティウスという無二の親友がいます。彼を人質としておいていこう。私が逃げてしまって三日目の日暮れまで、ここに帰ってこなかったら、あの友人を殺して下さい。そうしてください。」 智恵 ・・・智恵。 陽子 なに? 智恵 あんたはセリヌンティウスじゃないし、あいつらだってメロスじゃない。 陽子 そうだね。だから? 智恵 何であんなヤツラの肩もつのさ。 陽子 違うよ。 智恵 なにが。 陽子 あたしはどっちかっていうと、智恵の味方してるつもりなんだけど。(大道具の布を持って)ほらね。 智恵 だからそんなのは。 陽子 王は人を信ずることが出来ぬというのです。人のはらわたの奥底にみにくいものばかりが見えるというのです・・・大丈夫だよ、智恵。 智恵 え。 陽子 信じていいよ。智恵が思うほど、ひどくないよ。 智恵 でもね。 陽子 これまではそうだったかもしれない。でも、もう一度くらいは信じてもいいんじゃない。 智恵 陽子。 陽子 それにね、みんなだって進路とか勉強とか、一生懸命考えているわけだから・・・それっていいことじゃない。 智恵 いいことって、あのね。 陽子 確かに劇の方はちょっと困るよね。けど、みんないい加減なヤツなんかじゃない・・・これっていいことでしょ? ・・・あたし、なんか変なこと言ってる? 智恵 ・・・そんなことは、ないけど。 陽子 自分だとわかんないの、ね、なんか変? 智恵 いいよ、もう。気が抜けちった。・・・なんだか、あんたって人間にはじめて会ったみたいな気がしてきた。 陽子 なによそれ。 智恵 ほんと、ジャンヌってぴったりかも。・・・さあて、始めよっか。 時は戦いの後、所は勝利にわくオルレアンの町。人々は歓声を上げてジャンヌを迎えたのだった。 *音響で歓声を。ジャンヌ、手を挙げて応える。裕之登場。背中に棒(二、三メートル)を横にして背負い、その棒に等身大の人形が五、六体ぶら下がっている。裕之が手を振ると連動して人形の手が動く、などというおマヌケな仕掛けがあるといいね。 裕之 ジャンヌさま、ばんざぁい! 天使さま、ばんざぁい! 智恵 ・・・裕君。 裕之 ジャンヌさま、ばんざぁい! 天使さま、ばんざぁい! 陽子 こらえて、智恵。 裕之 ジャンヌさま、ばんざぁい! 天使さま、ばんざぁい! ・・・どうした? 智恵 ・・・ったくもう。 *思わず笑い出す智恵、陽子。憮然とする裕之。 暗転。緩やかなメロディを音響で。上手にサス。音響停止。 アキラ センセ、もういいっしょ? いくら時間があったって、わかんないモノはわかんないって。え? はいはいはいはい・・・・そりゃね、センセ、おっしゃるとおり、努力の大事なことはわかりますって。 けどね、いっくら努力したって出来ない事っていうのもあるんじゃないですか。はっきり言って、僕には過去分詞とか未来完了とか言うのは無理ですって。 だいたい、こんなの何になるんですか。はあ? 英語は国際語だから。はあ。これさえ身につけておけばどこの国に行っても困らない。・・・ね、センセ。中学高校と勉強してきて、だけどちゃんと英語しゃべれる人ってあんまりいないじゃないですか。やっぱ無駄じゃないですか、高校の勉強なんて。これって、受験とかのため、ですかね。 ・・・え? 将来のこと? 僕ですか? そりゃもちろん、役者、俳優に決まってるでしょ。だいたいイヤだって言ったって、これだけのルックス、芸能界がほっておきませんって。も、すぐテレビデビューね。タイトルは「奇跡のソムリエは徳川慶喜だっちゅーの!」、共演はパイレーツに和久井に森光子に・・・。 え? そのあと親の話になって、人生ってこんなもんかな、なんて泣き落としでくるんだろうって? どうしてそれ・・・い、いや、どっからそんなこと。え? 数学の福嶋先生から聞いた? これだから演劇部のヤツは信用できない? ちょ、ちょっと、そりゃ邪推ってもんですよ。 だいたい僕は演劇なんて、マジでやってるわけじゃなくって・・・確かに入れ込んでるヤツはいますけど。そいつなんかだともう「演劇命」って感じで、ほんとに。で、またこれが、女のくせにやかましくて偉そうで気が強くて、ほんとにどーしよーもないヒステリー女で・・・けどね、よく見るとほら、結構胸とかはちゃんとしててね・・・(しばらく宙を見てニタニタしている)。 ・・・え? なんですか? ああ、今やってるのは、ジャンヌ・ダルクをネタにしたヤツで、公演は来月の二四日、センセもぜひ・・・してますよ、練習は。そりゃ一応部員だし。こんなのさえなけりゃ、今日だって練習してたんで・・・。はいはいはい。悪いのは僕ですよ。わかってますって。勉強しない僕が悪い、努力しない僕が悪い。はいはい、そのとおりでございます、お代官さま。 ・・・けどね。ほんというとね、センセ。僕は劇とかそういうの、結構気に入ってるとこもあるんですよ。進路にするつもりはないけど。まあ、このルックスだしね。俳優なんて・・・何わらってんです、センセ。 でもね。劇ってみんなで作るもんなんですよ。わかります? これってちょっと嬉しいじゃないですか。なんていうか、その、自分が必要とされてるっていうか・・・自分の居場所があるっていうか。へへ。 で、いよいよ上演の日になるでしょ。メイクして衣装を付けて舞台に立って、・・・緞帳越しに客席のざわめきが伝わって来て。それからベルが鳴って、静かで張りつめた空気を微かにふるわせながら、幕がゆっくりと上がっていって・・・その時、ほんとに今ここで、この瞬間、オレは生きてるぞ、っていう熱い思いが心の中にわき上がってくるんです。 ・・・え? その手は食わない? このプリントやらないと今日は帰らせない? あのね、これで感動しないなんて、センセ、心が渇いてるんじゃありませんか? あ。もしかして、お家で何かあったんじゃ。奥さんとケンカしてるとかなんとか。 あ、痛い。ちょ、ちょっとセンセ、駄目、暴力はいけない。痛い。痛い。あ、ちょっと。 *サスを下手に切り替える。アキラ退場。ご苦労様。下手には太郎と真一。並んで椅子にすわっている。音響でザワザワを。 太郎 話してみろ。 真一 え? 太郎 話してみろ。 真一 な、なにを。 太郎 いいから。 *真一、太郎からちょっと身体を「離す」。 太郎 (冷たい視線)・・・・。 真一 あ、ごめん。 太郎 (顔を真一に向ける。無言)・・・。 *真一、元の場所に戻る。 真一 ・・・言うよ。言います。昨日さ。部活が終わってから、7時ごろかな。・・・また公園突っ切って帰ったの。ほら、僕の家、その方が早いから。暗いけど。 太郎 (自信たっぷりに)小山谷公園だな。 真一 それ、こないだも。 太郎 なんだと。 真一 な、なんでも。・・・したらね、前を歩いている人がいるわけ。僕の前を。家に帰る途中の中年サラリーマン。よれよれの背広に書類カバン。頭の毛とかはだいぶ薄くなってて、ちょっと太ってて、シャツの前のボタンがはじけそうになってて。それで。 太郎 それで。 真一 それで、並んで歩いたんだよ、もちろん。 *太郎、真一を見つめる。 太郎 並んで? 真一 公園の中をゆっくり歩いて。むこうが「よぉ」って言うから、こっちも「うん」って返事して。「学校、今帰りなんだな。」って言って肩に手を掛けてくるから、「まあね」って返事して。 *太郎、身を引く。 真一 「座るか?」って言うから「うん」って言ってベンチに腰おろして。二人で夜景見たんだ。いつかの、ほら、駅前のビルとかも見えたよ。明かりがついてて、まだ仕事してる人がいっぱいいて。ワイシャツの袖まくって、電話かけたり書類書いたり。やっぱり虫みたいに見えた。 太郎 そ、そうか。 真一 どうしたの? 太郎 い、いや。続けろ。 真一 でね、しばらく黙ってたの。向こうもなんか考えてるみたいで。したらね、手を握ってきて。 太郎 て、手? 真一 なに大声だしてんのさ。太郎ちゃん。 太郎 い、いや、なんでもない。 真一 どうしたの? 汗かいてない? *真一、太郎に手を伸ばす。太郎、パニくる。 太郎 な、なんでもない。話、話の続きはどうなった? 真一 ・・・えと、どこまで話したっけ。 太郎 て、手を握ってって。 真一 ああそうだ。でね、手を握って、「冷たいじゃないか。コーヒー、おごってやるよ」っていって、自販機の缶コーヒーを一つ、僕にくれるの。で、僕がそれ飲んでると、自分の分は買わないで、こっち見てるわけ。「どうしたの?」って聞くと、「今月はちょっと苦しくてな。節約してるんだ」って笑うんだ。それで僕も、「でも、こないだお小遣いくれたじゃない。苦しいならそう言えばいいのに」って。 太郎 お小遣い! 真一 うん。したらね、「お前はそんなこと気にしなくていいんだよ。カネのことなんか・・・オレにはお前が必要なんだから」なんて言うんだよ。ね、すごいでしょ。もー、そうまで言われたらこっちも言うっきゃないよね? 太郎 言うってその。 真一「僕もだよ」って・・・あは、言っちゃったぁ。 *太郎、立ち上がって、ボックスに足を取られその場でこける。 真一 なにやってんの、さっきから。 *真一、手を貸そうとするが、太郎、こけたまま後ずさる。 太郎 い、いや、いい。 真一 ま、話はそれだけなんだけどね。なんかね、それから気持ちが楽になってきてさ。人間って不思議だよね。たった一杯のコーヒーなのに。 太郎 真一。それでお前。 真一 なに? 太郎 それからどうしたんだ? 真一 それからって、そりゃ、一緒に家に帰ったんだよ、父さんと。・・・どしたの? 太郎 ・・・父さん? *こけたまま呆然とする太郎。ストップモーション。サス消える。 音楽。照明変化。ホリはさわやかに青空、エフェクトで雲の動きを。 智恵 賭けは陽子の勝ちでした。真一君に太郎ちゃん、それにアキラまでもがその日、部室に戻ってきたのです。ただ、いつもポーカーフェイスの太郎ちゃんがどこか動揺しているようでしたが、彼はあいかわらず何もしゃべりません。 とにかく、私たちの劇は少しずつ前に進んでいきました。ちょうど、ジャンヌたちの戦いのように。 *アキラ登場。 アキラ 待て待て待てい! 呪われた魔女め、神に代わってお仕置きじゃあ! 裕之 おいおい。今度は誰なんだ。 アキラ われこそはルーアンの司教、ピエール・コーションなり。 裕之 コーション? アキラ 主の名をかたりフランス国民を惑わす魔女よ。これ以上お前を野放しにはしておけんのだ。おとなしく罪を告白し悔い改めればよし、さもなくば。 智恵 なによ、ジャンヌ様は魔女なんかじゃないよ! 真一 そうだそうだ。 裕之 どうみてもお前の方が悪役に見えるぞ。 アキラ 魔女に魂を奪われたものたちめ。私の力を甘く見るな。超能力シンクロナイズド・ボディ! はっ! *アキラ、真一に「気」をぶつける。真一にサス。びくん、と震える真一。以下、アキラと真一は同じ動作をする。 アキラ これでお前の身体は私とシンクロされた。(手を挙げたり屈伸運動をしたりして)もはやどんな恥ずかしいポーズであろうとも拒むことはできないのだ。 真一 な、なんだと。 アキラ ほれ、「コマネチ」。ほーれ、スキップスキップらんらんらん。 真一 ああっ、身体が! アキラ さあ、今日は彼女と初デート。(髪をなでつけ、キザにターンして)ふっ、遅いなあ。(タバコに火を付け一服すってむせかえり足でふみにじって)ハチ公前に一〇時のはずなんだけど(腕時計を見て)、うーん、トイレに行きたくなったぞ(もじもじ)。いいや、ここでやっちゃお(股間に手をあてる)。 真一 それだけはやめてくれー。 アキラ ふっふっふ。ならば悔い改めるか。 裕之 負けるな。 智恵 負けちゃ駄目よ。男でしょ。 真一 が、頑張るよぉ。 陽子 あのー、ちょっと、わたしは・・・。 アキラおお、今度は「大」の方がしたくなってきたぞ。どっこいしょ(うんこすわりする)。 真一 勘弁してくれー! 裕之 おそるべし超能力! 智恵・陽子 いやああ! アキラ さあ、やっちゃうぞ。女の子が見てる前だぞ。オムコにいけなくなるぞ。そーれ。 真一 うわあああ・・・あれ? 裕之 どした? 真一 シンクロってことは・・・コーション、あんたも。 アキラ ・・・ちっ。よく気が付いた。敵ながらあっぱれ。 智恵 っていうか、あんたが馬鹿なだけじゃない? アキラ ならば第二弾! 超能力思い出きらりんテレパシー攻撃! 裕之 なんなんだそのネーミングは。 アキラ (太郎に)はっ! 太郎 (あっさり受け止めて投げ返す)超能力テレパシー返し。 アキラ へ? *アキラにサス。 太郎 小学生の頃。 智恵 (子供の声で)あのね、ピエールくん。ピエールくんのこと、嫌いじゃないのよ。 アキラ (これも子供の声で)あ、シモーヌちゃん。 智恵 でもね、ピエールくんってなんだか暗いから。すぐにカミサマだとかイタンだとかテンバツだとか言うでしょう。あたし、ああいうの駄目なの。っていうか、はっきり言うと、ピエールくんってチョーまじげろとっちゃんぼうやって感じ? あ、気を悪くしないでねー。 アキラ 悪くするよおお。 太郎 高校生の頃。 陽子 コーションくん、お話って言うのはね。 アキラ はい、先生。 陽子 言いにくいことなんだけど・・・。 アキラ 何でも言ってください、先生。先生のためなら僕。 陽子 じゃ言うわ。球技大会の時、敵のチームに呪いをかけるのはやめてちょうだい。それからテストの点数が悪いのはあなたが勉強をしないからで、悪魔のせいじゃありません。あと、授業中に守護霊とおしゃべりするのも禁止。クラスメートが気味悪がってるわ。 アキラ でも、それは。 陽子 最後に。おとといの夜、私の部屋から下着が盗まれたんだけど、あれは。 アキラ あ、守護霊が僕を呼んでいる! 陽子 待ちなさい、コーションくん! *照明もとに戻る。 アキラ というわけで、残念だが、私は行かねばならぬ。だがこれで済んだわけではないぞ。 裕之 あのなぁ。 アキラ ジャンヌ、必ずお前の正体を暴いてやる。それまで、首を洗って待っておれ。お前は十字架にかけられて死ぬ定めなのだ。いいか、忘れるな。わはははは・・・。 *アキラ退場。 真一 なんだったんだ、今の。 裕之 ただの馬鹿だろ。 陽子 さあ、急ぎましょう。馬鹿のおかげで思わぬ時間を無駄にしました。 真一 はい、天使さま。 智恵 しかし、コーションはただの馬鹿ではなかった。のちにこの馬鹿は異端審問官となり、教会の力を背景にして強大な権力を身につける。そして馬鹿は、悪意ある噂をながし世論を操作し、ついにはジャンヌを追いつめ、彼女を魔女として死に追いやる張本人となるのだった、この馬鹿は。 *アキラ下手より入ってくる。このあたりで「なんとなく」劇中劇が終わる。照明が普通になる。 アキラ おいちょっと、そこまでいうか。 智恵 あらいたの、馬鹿。 アキラ あのな。・・・けどよ、こんなんで苦情こねぇか、教会とかほら。 裕之 また殺し屋が来るとかな。 アキラ うん。 智恵 大丈夫、そういうのは全部あんた一人が背負ってくれることになってるから。 真一・裕之・陽子 なーるほど。 アキラ おいおい。 *みんな、ほのぼの笑う。 智恵 ジャンヌ達は勝ち続けました。フランスの国土はゆっくりとだけれど、敵の手から取り戻されていきました。人々の心には、失われて久しい、希望という言葉がよみがえってきました。 ・・・(にっこり笑って)それに・・・それに、一人じゃない、というのは、なんだか素敵な気分なのでした。 *照明変化。やや、不気味に。 智恵 ・・・そして、とうとう最後の戦いの日がやってきました。 *陽子、登場。 陽子 さあ、みなさん、用意はいいですか? 裕之 ああ、天使さま。お待ちしておりました。 陽子 私は天使などでは・・・。 アキラ な、なあ、いよいよなんだな、おい。 裕之 何だ、いまさら。あんた、天使さまが信じられねえのか? 陽子 あの、それは。 裕之 ったく、情けねぇなあ。・・・天使さま。こいつはこのとおりの根性なしですけど、天使さまのおそばにいりゃ、なんかの役に立つでしょ。弓矢の的にでもして、せいぜいこき使ってやって下さい。 アキラ ばかやろ、オレはだな・・・な、なんだ、いよいよだって思ったら、この膝のヤツがふらふらしてきやがってよ。 裕之 それを根性なしっていうんだよ。 *太郎と真一登場。 太郎 ・・・ふん、素人はいい気なものだな。 陽子 将軍。 裕之 おやまあ、これはこれはシャルル殿下に、腰抜け将軍さまでねぇか。 アキラ お、おい。 裕之 かまやしねぇって。 太郎 ・・・次の戦いはな、これまでとはワケが違う。いよいよパリ・・・われわれの都を奪い返すのだ。勝てば平和が訪れる、それは間違いない。けれどイギリス軍にしてみれば、どうだ。ヤツラにはもうあとがない。負ければ、海に叩き出されることになる。 真一 ちょっと、ロベール。 アキラ こ、腰抜けのあんたが何を言ったって。 太郎 これだけ言ってもまだわからんか。・・・怖いぞ、必死の敵はな。今日これから、お前たちか、あるいはイギリス兵か、必ずどちらかかが死ぬ。そして生き残るのはお前たちとはかぎらんのだ。 アキラ ・・・。 裕之 ・・・ば、バカ言ってんじゃねぇよ! このお方を誰だと思ってんだ。ジャンヌ・ダルクさま、天にまします我らが主が、この世におつかわしになった天使さまだ! その天使さまがついてらっしゃるんだ、俺達が負けたりするもんか! アキラ け、けどよ・・・。 裕之 なんだ、怖くなったのかよ! アキラ いや、その、オレはだな・・・。 裕之 ああ、なさけねぇ、オレはもう・・・天使さま、このロクデナシに何か言ってやって下さい。 アキラ な、なあ、ジャンヌ様、オレは。いや俺達は。 裕之 天使さま! 陽子 あ、あの。 アキラ ほんとに勝てるのかい、なあ? 裕之 天使さま! 陽子 わたしは。 太郎 やめておけ。その小娘に未来が見えるというわけでもあるまいに。なぁ、ジャンヌ? 陽子 あ。 太郎 そうだろう、ジャンヌ? お前に未来が見えるわけではないだろう? *太郎、わざとらしく柵に寄りかかってみせる。 陽子 ・・・そ、その木に。 裕之 え? 陽子 その木にもたれてはなりません。その場所は悪魔に呪われた場所。 太郎 馬鹿もたいがいに・・・。 智恵 その時、将軍の立っている場所に一本の矢がつきたった。 *音響で弓の音。真一、太郎を突き飛ばす。 真一 ロベール! 太郎 な、な・・・。 裕之 天使さま! アキラ イ、イギリス軍だ!。 陽子 わたしには未来は開いた本のページのようなもの・・・さあ、いよいよ戦いがはじまります。勝利に終わる戦いが。みなさん、私を信じて下さいますか? 裕之 もちろん! アキラ おお! ジャンヌ様さえいればなんも怖くねぇぞ! ・・・おい、将軍さま、いつまで腰抜かしてるんだ。 太郎 あ、ああ。 * 戦闘の音楽。智恵、ナレーション。 智恵 人々にもはや迷いはなかった。数の劣勢を高まる興奮が吹き飛ばした。力の劣勢を、信じる心が圧倒した。平和な市民は勇猛果敢な戦士となり、敵兵に殺到したのだった。ジャンヌの言ったとおり、未来は開かれたページのようにあきらかであり・・・勝利はまさに約束されていた。 陽子 ・・・さあ、ラッパを。神のみわざを行うときは今。正義を行い、祖国を取り戻すのです。みなに神のご加護を! *全員で適当に決めポーズ。戦闘の音楽、終わり。照明ダウン。クロスでサスが智恵に。 陽子と智恵を残して他の者はいったん退場。 智恵 ジャンヌは英雄になった。しかし運命は皮肉なもの・・・戦争が終わり、平和がやってきたからこそ、彼女の存在をめざわりに思う者達が、動き出した。 *不気味な音楽。智恵・陽子以外の者で黒布を準備。裁判シーンである。以下は作業しながら。 *サスが二本、智恵と陽子をそれぞれ照らす。夢の中の情景みたいにしたい。陽子が下手で振り返る。 なお、この時、「黒衣の者」役の人たちは柵の裏にそっと入って下さい。 陽子 智恵? 智恵 (脚本をチェックしてうつむきながら)なぁに? 陽子 ひとつ、聞いていい? 智恵 なぁに・・・ええと。 陽子 どうして、ジャンヌだったの? 智恵 え? なんていったの? 陽子 どうして、ジャンヌだったの? 智恵 え? 陽子 どうして、この劇をやろうって思ったの? 智恵 どういう意味?。 陽子 どっか遠い国、ずっと昔の話・・・そうじゃない? 智恵 まあね。 陽子 ジャンヌなんて、マイナーで誰も知らない、それが普通じゃない。ね、どうして? 智恵 アキラみたいなこと言うんだ。・・・小学生の時にね、読んでたの。ジャンヌの伝記。白い馬に乗ってる女の子の絵が表紙になってるおっきな本。お気に入りだった。・・・けどね、その頃は気が付かなかった。 陽子 気が付く? 智恵 うん。高校生になって、押し入れの奥からその本が出てきて、それで・・・ジャンヌってね、私らと同い年なのよ。一七歳。なんだかね、不思議な気持ちだった。あのジャンヌと同い年になるなんて。それから。 陽子 それから? 智恵 彼女は、その若さで死んでしまうわけよね。でも私は、多分、もっと長生きする。私は、彼女を追いかけてきて、今追いついてしまった。けど、すぐに追い越しちゃう。年とって、きっと忘れてしまう・・・もう、二度と会えない。・・・変だね、そんなこと考えたら、どうしても劇にしたくなった・・・うーん、うまく言えないね。 陽子 智恵。 智恵 なに? 陽子 あたし、そろそろ行かなくちゃ・・・。 智恵 ああ、そだね。 陽子 会えて良かった。 智恵 え? 陽子 ありがと。 智恵 え? ・・・陽子? *智恵が振り向く前に、陽子、サスからはずれて退場。とまどう智恵。舞台袖からアキラの声。 アキラ おーい、まだかよー。 智恵 う、うん。・・・ナレーション、入ります。 *照明変化。アキラ登場。舞台は異端審問裁判所。台の上から見下ろすアキラ。ただし、黒衣(頭巾をかぶらない)・不気味な仮面(口の所だけあいている)を付けている。 智恵は舞台下手に立つ。サス。一応普段着の上に布をかぶっている。脚本を手に持つ。 智恵 運命の日、一四三一年二月二一日。ルーアンの町にて、宗教裁判は開始された。被告はジャンヌ・ダルク、一九歳の少女。 アキラ 私、ピエール・コーションは、ここに誓う。真実を、ただ真実のみを明らかにせんがため、裁判を主催することを。予断を持って特定の個人を断罪することは私の望むところではない。お集まりの諸君同様、公明正大が私の目指すところである。 *アキラ、合図をする。真一・太郎・裕之は黒衣(頭巾をかぶる)・仮面の姿で登場。陽子を引き立ててくる。 注意! しっかりした衣装を付けること。布からジャージやズックなんかが見えたら台無しです。 アキラ さて、魔女ジャンヌ・ダルクよ・・・。 陽子 これはいったいどういう事です? 私がなぜこのような仕打ちを。それにいったいここはどこ・・・。 アキラ 被告は勝手に発言してはならぬ! 陽子 あなたは。 アキラ 廷吏! この者を打ち据えよ! 最初は肩を、息が止まる程度、だが死なぬように打て! *裕之に棒で打たれる陽子。 アキラ わが法廷の秩序と権威は守られた。それでは、この者に対する告発を。 *太郎が進み出る。 太郎 一つ、女の身でありながら男装し戦場に赴いたこと。 二つ、その戦場において多数の兵士を死に追いやったこと。 三つ、悪魔の技を行い、人々を堕落させたこと。・・・以上です。 アキラ ジャンヌ。どうだ、何か言い分があるか。 陽子 言い分も何も、すべて悪意に満ちたでたらめです。このような告発になど、まったく意味はありません。 アキラ では身に覚えはないと。 陽子 はい。 アキラ 証人は前へ。 *太郎、頭巾をはねのけて前に進み出る。 太郎 この女は魔女でございます。なんとなれば、大の男が振り上げた剣を素手ではねのけましたれば。 アキラ おお、素手で。無論、その際、血など流れはしなかったのであろうな。 太郎 無論。魔女の身体に血などありませぬゆえ。 アキラ さもあらん、さもあらん。 陽子 ・・・将軍? ボードリクール将軍では? アキラ 被告は発言してはならぬ! ・・・ 次の証人、前へ。 *真一、同じく進み出る。 真一 こ、この女は、ま、魔女である。かの戦いの折り、敵陣より飛来せる弓矢を、よ、予言した。 アキラ ほう、弓矢を・・・無論、人に出来ることではありませんな? 真一 む、無論。ひ、人にはできぬ。 陽子 殿下! シャルル殿下では。 真一 い、いや、私はそのような。 陽子 殿下、あれはあらかじめ打ち合わせてあったこと、それも殿下の方から。 アキラ 黙れ、魔女! 陽子 いいえ、黙りません! 戦いに赴く前、兵士達がおびえておる、ついては手を貸してくれないか、奇跡の一つも見せてやればあの者達もその気になるであろう、そうおっしゃられたから・・・剣の件もそうでございます、将軍と示し合わせて。 アキラ この魔女を打て! 打ち据えよ! *打たれながら、陽子は言い募る。 陽子 人々をあざむいたこと、それは罪でございましょう、ですが、そもそも私がこのような役割を演じることになったのも、すべては・・・。 アキラ 黙れ、黙らぬか! *打たれる陽子。うーん、残虐。ややあって。 陽子 ・・・わ、私は・・・。 アキラ 判決を言い渡す。 陽子 なんと・・・言われました? アキラ 判決。ここなる女、ジャンヌ・ダルクを、本法廷は魔女と断定する。しかるが故に魂の救済はあり得ず、火あぶりの刑に処するものとする。以上。 陽子 なんと・・・審議は? これはどういう冗談なのです? アキラ お前はこれから、自ら認めることになるのだ、魔女であることをな。 *照明を落として人物をシルエットに。サスが智恵を照らし出す。 智恵 尋問が始められた。最初からコーション司教にジャンヌを救うつもりなどなかったのだ。もちろん将軍にも、シャルル殿下にも。彼らはどうあってもジャンヌを殺さなければならなかった。教会の権威を守るため、自らの地位を守るため。ジャンヌは魔女として死ななくてはならなかった。 *アキラ以下、頭巾をかぶる。 以下のセリフは劇の冒頭のモノと変わりませんが、照明などは、「より怖い」感じにしていただくとよろしいかと思います。 音楽。映画「オーメン」のサントラあたりに、適当なの、ないかな。 アキラ 神の息子たちよ、キリストの兵士達よ、十字架の敵、真理と純潔を腐敗させる敵に向かって立ち上がれ。今こそは勇気を奮い起こす時。身を隠して暗がりを歩く者どもの、その正体を暴き出してやるのだ。 *舞台に置いた柵から死神(黒衣の者)たちが立ち上がる。柵にかけた布を身にまとうようにして出現するので、後には骨だけになった柵が残る。ここで、人数が増えるので、「異世界」の雰囲気が出る・・・と、期待してます。 このへんで、十字架(人間を磔にするくらい大きなもの)を舞台奥・中央におろす。吊りものです。 降りてきたら、舞台に隠れてだれか十字架の下を持っていて下さい。ぶらぶらするとヤですから。 黒衣1 指に万力をあてがい、肉を裂き骨を砕け。 黒衣2 焼けたペンチで肉をちぎりとれ。 黒衣3 熱した鉄の長靴をはかせよ。ときにはその靴をはかせた足をハンマーで叩きつぶせ。 黒衣4 食べ物を与えてはならない。眠らせてはならない。牢屋の中を監視を付けていつまでも歩かせよ。 黒衣5 逆さに吊って水の中に沈めよ。何度も何度も沈めよ。 智恵 ちょ、ちょっと、どういうことよ、これ? 黒衣1 指に万力をあてがい、肉を裂き骨を砕け。 黒衣2 焼けたペンチで肉をちぎりとれ。 黒衣3 熱した鉄の長靴をはかせよ。ときにはその靴をはかせた足をハンマーで叩きつぶせ。 智恵 あんたたち、みんなうちの部員・・・ってことはないわよね。いったいこれって。 *智恵、止めようとするが、黒衣の者に捕まる。 智恵 なによ、なにするのよ! *智恵、夢中で黒衣の者の頭巾をはぎ取るが、そのしたには恐ろしげなメイク(適当に考えてね)をした見知らぬ男が。 智恵 だ、誰よ、あんた! アキラ さあ、一言でいい。私は魔女でした。それだけでいい・・・そうすれば、命だけは助けてあげよう。もう二度と神の使いだなどと言いふらしたりはしない、そう誓ってくれればね。・・・どうだい、ジャンヌ。 智恵 何いってんのよ、アキラ! *ゴン、と後ろからどつかれて、智恵、うずくまる。黒衣の者、智恵の台本を手に取り、読み上げる。 黒衣の者 遂にジャンヌが打ち倒されるときがきた。運命はこの少女にあまりに過酷すぎたのだ。いかに神の子とはいえ、いたいけな少女に何が出来るだろう。強大な権力の前に、いったい誰が立ち向かえるというのだろう。 アキラ さあ、言うのだ、ジャンヌ。 陽子 ・・・いいえ。 アキラ なに? 陽子 いいえ。・・・私は魔女ではありません。 智恵 陽子・・・。 アキラ なんと強情な。意地を張ってどうなる。 陽子 いいえ、いいえ! アキラ 愚か者め・・・やむをえん、このまま処刑を行う。よいな。 *はりつけにされる陽子。智恵は呆然として押さえつけられている。 陽子 ・・・。 智恵 誰か、説明してよ。太郎ちゃん? 真一? アキラ? アキラ もう一度だけ尋ねよう。これが最後だ。よく考えて答えるのだ。・・・お前は魔女だ、そうだな? 陽子 いいえ。私は・・・魔女では・・・。 アキラ (ちょっと慌てた様子で)死ぬのだぞ? このまま・・・死ぬのだぞ? 助からぬのだぞ? なのに、なのになぜ、お前はあきらめないのだ? 陽子 私は・・・。 アキラ おお、私は。 陽子 声を聞きました。 アキラ いよいよ白状したか。悪魔の声を聞いたのだな。 陽子 その声は。 アキラ なんだ。なんと言ったのだ、その悪魔は? 陽子 一人じゃないのはなんだか素敵な気分・・・。 アキラ なんだと? 陽子 人間って不思議ですね。たった一杯のコーヒーなのに。 アキラ 何を言っている? 陽子 嬉しいじゃない、自分が必要とされてるってことは。 アキラ なんなのだ、それは。 陽子 裁判長さま・・・あなたには自分の居場所がありますか。 アキラ ま、魔女め! *音楽。 アキラ ドン・レミ村、父ジャック・ダルク、母イザベルの娘、ジャンヌ・ダルク、われら異端審問裁判所はお前を異端と認める。我らはお前を魔女と認める。我らはお前こそこの世界から消し去られるべき存在であることを認める。 黒衣の者達 (声をそろえて) ジャンヌの手を縛れ。 十字架に縛りつけよ。 火を放て。 肉を灰に、 骨を塵に。 この女によって汚された大地を聖なる炎で清めるのだ。 *轟音。赤のホリ。下から赤の照明。身をよじり苦しそうなジャンヌ。黒衣の者達、静かに退場。取り残される智恵。 智恵 ・・・ジャンヌ? 陽子(ジャンヌ) ・・・(うわごとのように)こっちの人はみんな親切。いい人ばかり・・・。 智恵 ジャンヌ・・・。 陽子(ジャンヌ) 思いやりがあって、勇敢で・・・。 智恵 ・・・パリは・・・パリはとても素敵なところです。しゃれたお店がたくさんあって。綺麗なリボンを見つけました。きっとお母さんにも似合うと思います。綺麗な青いリボンです・・・。 陽子(ジャンヌ) ・・・でもやっぱり村が一番・・・ベッドで聞くニワトリの声。干し草の匂い・・・。 *二人、声をそろえて。 陽子(ジャンヌ)・智恵 ・・・きっともうすぐ帰ります。あの懐かしいドン・レミの丘に。河を渡って木立を抜けて。 *陽子、智恵の方を見て微笑む。その時、轟音。赤のサス。炎のエフェクト。 智恵 陽子! 陽子! *轟音高まる。暗転。やがて轟音がゆっくりと終息をむかえる。ややあって。照明戻る。そこはがらんとした部室に戻っている。倒れている智恵、そばに布(ジャンヌの白)。下手からアキラが入ってくる。 アキラ ・・・おい。起きろよ。おい。 智恵 ・・・。 アキラ なんだ? なにいってんだ、こいつ。・・・おーい、おきろー。 智恵 うーん。 アキラ たく、しょうがねえな。おい。 *落ちている布(ジャンヌの白)をかけてやる。 智恵 ・・・あ。 アキラ こんなとこで、なにやってんだ。 智恵 あ。 アキラ 何やってんだよ、市場のマグロじゃあるまいし、よだれ垂らしていびきかいて。 智恵 あ、あ、アキラ。 アキラ なんだ、どした? 智恵 さっきはよくも、この、この! アキラ へ? 智恵 この人でなし! あんたなんかね、あんたなんかね。 *裕之が入ってくる。 裕之 こいつがどうかしたのか? アキラ さあ? わかんねぇんだけど。なんなんだよ。 智恵 なんだもなにも・・・あれ? 裕之 どうしたんだ? 智恵 その・・・ええと・・・なんだっけ。 アキラ なんだ、寝とぼけかよ。ったく、人を巻き込むなよな。 智恵 ええと・・・ごめん。 アキラ だいたいね、言わなくちゃならないセリフがあるだろが。風邪引かないようにそれ、かけてやったのは誰だ? 智恵 あ、ありがとう・・・。 *真一、太郎入ってくる。 裕之 それは、俺に言ってくれよな。逃げ出しかかってたコイツを、ここまで連れてきたのは俺なんだから。 アキラ 人聞きの悪いこと言うな。いつおれが。 真一 まあまあ。せっかくそろったんだし。 アキラ 練習でもってか? ・・・そうだな。そうするか。 裕之 なんだ、素直だな。 アキラ 悪いか。 *みんな劇の準備にはいる。涙が出そうになる。 アキラ どうした、智恵。 智恵 ・・・な、なんでだろ。あたし。 アキラ さっきからなんか変だぞ。へんな夢でも見たか。 裕之 変って? 智恵 なんだか・・・覚えてない・・・んだけど・・・。 アキラ なんだよ、らしくないぞ。 智恵 うるさい。・・・じゃ今日は通し、やってみるよ。せっかく全員そろったし・・・。 アキラ めずらしいもんな、五人そろうなんて。 裕之 とんでもねぇ部だな。 真一 やっと五人ですけど。 智恵 ・・・五人よね? *全員口に出して、なにかはっとする。しかし、はっとした理由がわからない。しばらく沈黙のまま目を見合わせる。 *静かに音楽が入りはじめる。 太郎 ・・・天使が通った。 智恵 え? 太郎 たしか、こういうとき、西洋ではこう言うんだ。「天使が通った」。 裕之 フランスでもそうなのか? 太郎 多分。 アキラ 天使ね・・・(智恵のほうを見て)どうした? 智恵 ・・・うん。何か、聞こえたみたいな気がしたの。 *智恵、ジャンヌの白い服を身にまとう。ゆるやかに音楽が流れる中、みながポーズを取り、緞帳が降りる。                               −幕− ***********参考文献**************       「ジャンヌ・ダルク」     (堀越孝一 清水書院)       「ジャンヌ・ダルク」     (村松 剛 中公新書)       「魔女狩り」         (森島恒雄 岩波新書) 「走れメロス」        (太宰 治 筑摩書房) 「マーク・トウェインのジャンヌ・ダルク」         (マーク・トウェイン 角川書店)・・・ただし表紙のみ。  ○なお、作品の都合上、時間の推移・人物名・肩書き等をいーかげんに   変更してます。まさかフランス大使館から殺し屋が差し向けられるこ   とはないでしょうけど。