『ドリーマーズ』        原作・坪田 爽  脚色・玉村 徹 -------------------------------------------------------------------------------- 【キャスト】    つばさ    まみこ    JRC部部長    部員1    まみこの母    ゆみちゃん    あすなろ園の先生    生徒数名 -------------------------------------------------------------------------------- −学校− まみこ  「英会話クラブ。」 つばさ  「放課後、外人の先生とお菓子を食べる女子の集団。」 まみこ  「放送部。」 つばさ  「昼の放送で、ラジオのDJのさるまねはやめてよね。聞いてる方が恥ずかしくなる。」 まみこ  「野球部。」 つばさ  「7時の朝練から始まって家に帰りつくのは毎日夜の9時。もう勉強どころじゃないわね。でも甲子園って、本当にあなた達の青春なの?」 まみこ  「物理部。」 つばさ  「パソコンおたく。」 まみこ  「バスケ部。」 つばさ  「新入生がたくさん入ってよかったね。さあ、これからスラムダンクは漫画だってこと、教えてあげなきゃ。」 まみこ  「ブラスバンド部。」 つばさ  「式典の時、校歌を演奏するのはもうやめたほうがいいんじゃない。あれじゃピアノだけの方がまだましだ。」 まみこ  「サッカー部。」 つばさ  「カズダンスの練習してどうする。」 まみこ  「茶道部。」 つばさ  「部員いるの?」 まみこ  「演劇部。」 つばさ  「最低の変態の集まりね。何が悲しくて、あかんぼあかいなあいうえお、なんて、人前で叫ばなきゃならないのよ。」 まみこ  「つばさ・・・」 つばさ  「ねえ、あたしたちまだ若いんだよ。いくらでも自由があって、時間があって、大人になったら絶対できないことだって、今なら何だっでできるんだよ。なのに、このいい加減なクラブは何?みんな、自分の夢を全然大事にしてないね。 あたしは、夢を大事にしていたいんだ。自分のすべてを賭けられる夢。あたしだけのかけがえのない夢。いつか、そんな、本当の夢を手にいれて、そのためだけに生きるんだ。」 まみこ  「あのね・・」 つばさ  「何?」 まみこ  「うん、私・・・見てみたい部があって・・・・でも、つばさも、もう疲れちゃったよね。いいの、もう」 つばさ  「まみこ、言いたいことがあったら、さっさと言って。そりゃ疲れたけど、あと一つくらいはつきあうわよ。」 まみこ  「ええとね、JRCっていうんだけど」 つばさ  「JRC? ・・・へえ何それ。」 −JRC部室− JRC部長「ちょっと散らかってるけど、適当に腰掛けてよ。うん、僕が今年、JRCの部長になった河原です。で、入部希望なのかな」 まみこ  「ええ・・・」 つばさ  「いえ、ちょっとお話を伺おうと思っただけです。まだ入部するとは限りません。どんなことをするところかもわからないし。」 JRC部長  「ふうん・・・はっきりしてるんだね」 つばさ  「私達、無駄なことに青春を浪費するつもりはないんです。何かするんなら、それだけの価値のあることでなくっちゃ」 まみこ  「つ、つばさ、ちょっと」 つばさ  「何よ、まみこ。あたし、何か間違ったこといってる? 人生なんて何があるかわかんないんだから、後で後悔するような時間の使い方してちゃ、駄目なのよ。」 まみこ  「でも、ちょっと部長さんに失礼・・・」 つばさ  「もう。そういうとこ、いらいらするのよね。まみこはどうしてそう 遠慮ばっかり・・・」 JRC部長  「まあまあ。そんな、ここ来て喧嘩なんかしないでよ。まみこさんだっけ、僕の方は全然気にしてないしさ。それに、こちらさんの言うこと、もっともだよ。人生は大事にしなくっちゃね。で、何が聞きたいの。何でも聞いてよ。」 つばさ  「まず、JRCという言葉の意味を教えて下さい。」 JRC部長  「おお、基本から来たね。JRCってのは、ジュニア・レッド・クロスの頭文字を取ったものなんだ。日本語で言えば青少年赤十字」 つばさ  「赤十字?」 JRC部長  「そ。でね。君達、赤十字って言葉から何連想する?」 つばさ  「試験ですか。・・・ナイチンゲール、白衣の天使」 JRC部長  「いい線だね。じゃ、君は」 まみこ  「同じですけど・・・アンリ・デュナンとか」 つばさ  「誰それ?」 JRC部長  「やあ、君、勉強してきたね。なかなかでないんだ、普通の人からは、その名前」 つばさ  「ふうん。有名な人じゃないんですね」 JRC部長  「まあね。確かにナイチンゲール女史の方が有名だよ。でも、実際に赤十字運動を組織したのはデュナンの方なんだ。 彼が生きていた頃のヨーロッパでは、生き残るためには敵をたくさん殺せばいい、そんな考えがまかり通っていたんだね。ところが彼は、敵味方の区別なく、とにかく傷ついた人々は助けるべきだ、と考えた。そしてそのための組織を作った。それが後のレッド・クロス、赤十字、というわけだ。」 まみこ  「素敵ですね」 JRC部長  「うん、まあ、尊敬してるよ、はは(照れている)」 まみこ  「私も尊敬してます、本当に」 つばさ  「・・・でも、そのデュナンって人、無駄なことをしたんじゃないですか。」 まみこ  「つばさ!」 つばさ  「敵味方の区別なく・・・って立派なことみたいに聞こえるけど、そうやって命が助かった人は、また戦場に引き出されて、それから殺し合うんじゃない? 結局、戦争をする人がふえるだけ・・・そんなの意味ないよ。」 まみこ  「ひどい・・・じゃあ、つばさは目の前で死にかけている人がいても、ほっておいたほうがいい、っていうの?ただ死んでいくのを見てればいいっていうの?」 つばさ  「何むきになってんだよ、まみこ。ただの話だろ。それも大昔の」 まみこ  「た、ただの話って・・・!」 JRC部長  「おいおい、ここ来て喧嘩なんかしないでくれったら。つばささんの言ってることも理屈としては、まあ、わかるしさ」 つばさ  「理屈じゃない。ほんとのことだよ」 JRC部長  「はいはい。じゃ、見解の相違、と言っておこうか。僕も自分の考えが絶対に正しい、とは思っていないしね。 はい、議論はここまで。とにかく、部の紹介だけさせてよ。いいかい? ええとね、偉そうなこと言ったんだけど、JRCはあくまでも青少年の活動組織だからね、戦争とかなんとか、地球的規模の活動は手に余るわけ。で、実際にやってることは、地味〜で、日の当たらな〜い活動が多いんだ。・・・おーい、部員1」 部員1  「はーい」 JRC部長  「そこのジュースパックと、テレホンカードと、募金箱持ってきてくれ。ああそうだその絵本も。いろんな回収運動、それから募金が今んとこ、一番の活動です。集まったお金はみんなでパーティを・・・」 部員1  「何ゆーてまんねん!(ぱかっ)」 JRC部長  「というのは冗談で・・・君達、ベトちゃんドクちゃんは知ってるだろ。ベトナム戦争で使われた枯れ葉剤のせいで奇形に生まれてしまった子供達だ。ところがなんと、その日本でただ一つの支援組織がこの福井にあってね・・・」 (身を乗り出すまみこ。うんざりした感じのつばさ) −まみこの部屋− (10日ほど学校を休んだまみこを見舞いにきたつばさ。) つばさ  「こんちは・・・おじゃましまーす」 まみこの母「あら、いらっしゃい。つばさちゃん。」 つばさ  「あ、どうも、おばさん、こんにちは。今日の分のノート、持ってきたんですけど」 母    「いつもありがとう。つばさちゃんにはいつもお世話になりっぱなしね。ほんとになんてお礼を言ったらいいか・・・」 つばさ  「まみこは大事な友達だし、当たり前のこと、してるだけ。それより、今日で十日目なんだよね、休んで」 母    「ええ、ちょっとした風邪なんですけどね、こじらせてしまったみたいなの」 つばさ  「今日は、会えるの?」 母    「ええ。でも・・」 つばさ  「あんまり長居はしないように、でしょ。へへ、わかってますって」 母    「ま、なんでもわかっちゃうのね、つばさちゃんには。それじゃ、あとからケーキか何か持っていくわね」 つばさ  「やったあ。それじゃ」 母    「御願いね」 −まみこの部屋− つばさ  「おーす。元気しとるかあ。」 まみこ  「わあ、つばさ。今日もきてくれたの。ありがとう。」 つばさ  「何の何の。・・・ほら、これ今日の授業のノート。ただし、数学に関しては保証の限りではないぞ。なんせ、五時間目だったから、はは、なにやってたんだか全然意識がない」 まみこ  「ごめんね、迷惑掛けちゃって・・・私、身体弱いから・・」 つばさ  「ほらほら、そういうとこが駄目なんだよ。病は気からって言うじゃない。まみこ、もっと気持ちを強くもたなきゃ。」 まみこ  「うん・・・」 つばさ  「あたしらは若いんだからね。夢に向かってゴー! あれ、ゴーって死語かな」 まみこ  「あはは・・・もう口癖ね、つばさの「夢」っていうの。そうだ、つばさ、つばさは結局、あれからどこの部に入ったの。」 つばさ  「ええと、陸上だろ、バドミントン、柔道、剣道、華道、映画研究会、科学部、中国文化サークル、・・・」 まみこ  「すごい・・・そんなにたくさん・・・」 つばさ  「でも、全部やめた。みんないい加減なクラブばっかでさ。」 まみこ  「全部? ねぇ、どうしてそんなに簡単にやめちゃうの? そんなんじゃ、いつまでたっても夢なんて見つからないんじゃ・・・」 つばさ  「ずいぶんなこと言うじゃない。あたしはね、本当の夢をさがしてんだから。中途半端なところで妥協したくないだけなの。」 まみこ  「じゃあ、JRCはどう。」 つばさ  「JRC? ああ、あれ? あれは全然ダメだね。」 まみこ  「どうして? いろんな人の役にたてるとっても素晴らしい部じゃない。」 つばさ  「テレホンカードの回収運動? 赤い羽根募金? あたしに言わせれば、そんなの、自己満足だよ。」 まみこ  「自己満足・・・」 つばさ  「使いおわったテレホンカードを何千枚も集めて、それでいくらになる? 学校で募金していくら集まる? そうね、何万円かにはなるかな。でも、それっぽっちのお金でたくさんの貧しい人たちが本当に暮らしていけるようになる? なんだかね、JRCじゃ今度、施設訪問をするんだって。身体の不自由な子供達が一杯いるんだって。それで、手作りのクッキーを配ったりするんだって」 まみこ  「わあ、いいなあ・・・行きたいなあ」 つばさ  「それがジコマンだっての。クッキー食べると手足が動くようになるわけ? 見えなかった目が見えるようになるわけ?」 まみこ  「そんなの・・・」 つばさ  「そんなの無理じゃない。結局、その人の運命は、その人のものなんだから、どんなに手助けしたって駄目だと思う。そもそも助けてあげようってのが、傲慢だよ」 まみこ  「それはそうだけど・・・」 つばさ  「もっと言えばね、まみこ。いろんな障害を持っている人が、障害を持っているからって、誰かに助けてもらったりするのって、おかしいよ。甘いと思うよ。あたしたちだって、いろいろ辛いことはあるじゃない。あるけどあたしたちは、それにそれに一人で立ち向かって、生きているんだからさ。」 まみこ  「理屈はそうかもしれない。そうかもしれないけど・・でも、つばさの考えは冷たい。冷たすぎるよ。私、つばさがそんな人だなんて思ってもみなかった!」 つばさ  「何・・・どうしたの? またむきになって・・ただの話じゃない。ちょっと変だよまみこ、この間から」 まみこ  「・・・なんでもないわ」 つばさ  「何かあったの? 言ってごらんよ、あたしに何か出来ること、ない?」 まみこ  「・・・助けられたりするのって甘いんでしょ。辛いことには一人でたちむかわなくちゃいけないよのね」 つばさ  「やあだ、まみこのこと言ったんじゃないよ。わたしたちは親友じゃない。なんだって言ってよ」 まみこ  「わたし、風邪じゃないの」 つばさ  「え?」 まみこ  「私、心臓に障害があるの。だから過激な運動は絶対しちゃいけないの」 つばさ  「だけど、それは身体が弱いだけだって・・・」 まみこ  「スポーツもできないし、部活動だって負担になるから、本当は止められてるの。みんなに簡単にできることもろ、私にはできないの。このあいだも発作が起きて・・・」 つばさ  「え、ええと・・とても辛いことだよね」 まみこ  「辛いですって! あなたに私の気持ちの何がわかるの。健康なからだがあって、なに不自由ない暮らしをこれからも続けて行けるあなたに」 つばさ  「・・・・わかるわ! わかってるわ!」 まみこ  「へえ、そう。本当。嬉しい。じゃあ、私のお願い、聞いてくれるわね」 つばさ  「え? お願い?・・・いいわよ。あたしに出来ることだったら何だってするわよ。ほかならぬまみこのためだもん」 まみこ  「つばさって本当にいい人ね。・・・お願いってね、まみこ、あなたの身体がほしいの」 つばさ  「ええ?」 まみこ  「やだ、大声出さないで。お母さんに聞こえちゃうじゃない。・・・私、一度でいいから、おもいっきり走ってみたいの。一度でいいからおもいっきり笑ってみたいの。思いきり、生きてみたいのよ。ううん、なにもずっと、って訳じゃないわ。あなたが私のかわりに死んでしまったら大変ですものね。ほんのしばらくだけ。ね?」 つばさ  「ちょっと、まみこ、本気にしちゃうよ・・・」 まみこ  「あら、本気よ、私。」 つばさ  「でも、そんなの不可能だし」 まみこ  「いいえ、案外簡単なの。・・・二人の手のひらを合わせて、心の中であるキーワードを唱えるだけで・・・ (あわてて手を引っ込めるつばさ) どうしたの? 不可能なんじゃなかった? 怖いの? なんでもしてくれるって言ったのは嘘?」 つばさ  「嘘じゃない・・・嘘じゃないし、怖くもないわ・・・」 まみこ  「そう、それでこそ私のつばさよね・・・さあ、その手をこっちへ」 つばさ  「うん・・でも、どうしてまみこの手は真っ白なの。」 まみこ  「つばさに暖めてもらうためよ」 つばさ  「どうしてまみこの目はそんなに光ってるの」 まみこ  「ずっとつばさを見ていたいからよ」 つばさ  「じゃあ、どうしてそんなに笑ってるの」 まみこ  「・・・とうとうあなたの身体が手にはいるからよ!」 (二人の手がかさなる。まみことつばさ、ぐったりと倒れ込む。つばさが立ち上がり、まみこを黙って見おろす。) 母    「あら、もうお帰り? 今ケーキもっていくところだったのに」 つばさ  「あ、おか・・・おばさん。私、ちょっと用を思い出したので、もう帰ります。まみこさんはもう眠ってしまってますから、起こさないでください」 母    「まあ、眠ってしまうなんて、困った子ね。ほんと、ごめんなさいね」 つばさ  「いいえ、まみこさん、疲れているんですよ。ええと、学校で待ってます、速く元気になって下さい、とお伝え下さい。それじゃ、失礼します。お邪魔しました。」 (なんか変だなー、という顔の母) −あくる日− 生徒1  「わー、体操服、忘れちゃったあ!」 つばさ/まみこ  「よかったら私のを使って」 生徒1  「えー、そしたらあんたどうすんのよ」 つばさ/まみこ  「私は、多分、体育出られないと思うの」 生徒3  「つばさ、どっかぐあいでも悪いの?」 生徒2  「そういや、なんだか元気がないような・・・」 つばさ/まみこ  「ううん、そんなんじゃないの。ちょっと用事があるのよ。それで体育の時間はお休み、ってわけなの」 生徒1  「だいたーん。エスケープしちゃうの? いいよ、センセには適当にいっといてあげる。ゲリで保健室へ行きました、っていえば、あのセンセ、何にもいえなくなっちゃうから。じゃありがたく使わせてもらうね」 (ばたばた去って行く。一人教室にのこるつばさ/まみこ。そこへ息を切らし、辛 そうなまみこ/つばさがやってくる。) つばさ/まみこ  「遅かったじゃない。」 まみこ/つばさ  「あ、あ、あ」 つばさ/まみこ  「一応私の身体なんですからね、もっと大事に扱ってもらわなくちゃ。まあ、とにかくおかけなさい」 つばさ/まみこ  「この間発作を起こしたばかりなんだから、まだ安静にしてなきゃ駄目なのに・・・あんまり無茶するとすぐとまっちゃうわよ、シ・ン・ゾ・ウ」 まみこ/つばさ  「・・・もう、やめて」 つばさ/まみこ  「え? 何か言った?」 まみこ/つばさ  「もう、許して。あたしの身体返してよ」 つばさ/まみこ  「つばさ、まだ1日もたってないわよ。」 まみこ/つばさ  「だ、だって・・・」 つばさ/まみこ  「ね、私、とっても素敵な気分なんだ。つばさの身体って、まるで背中に羽が生えてるみたい。走っても走ってもちっとも息が切れないの。これなら、どんなスポーツだってできるわね」 まみこ/つばさ  「それはどうもありがと。だけど・・・」 つばさ/まみこ  「ねえ。私とつばさは親友でしょう。少しくらい貸してくれてもいいじゃない。へるもんじゃないんだし。それに、私の身体だって結構便利なのよ。バスとかなら席を譲ってもらえるし、学校休んでも誰かさんみたいにお見舞いにきてくれるし」 まみこ/つばさ  「でも・・・今でも胸が苦しくて」 つばさ/まみこ  「あなたもしかして、道を走ったりしたんじゃない? 駄目よ、私なんかもう何年も走ったことなんかないのよ。」 まみこ/つばさ  「走れもしない身体なんて、嫌だよ」 つばさ/まみこ  「あなた、私の気持ちがわかるって言ったじゃない。あなた、なんでもしてあげる、って言ったじゃない。あなた、人間はみんな一人で生きて行くんだ、って言ったじゃない。あれは嘘だったの?あなただったら、心臓くらい弱くったって、自分の夢を追いつづけられるのよね。あなた、そう言ったじゃない」 まみこ/つばさ  「・・・・・・・・・・・」 つばさ/まみこ  「私、JRCに入ろうと思うの。私なら、障害を持っている人の気持ちが完璧にわかるから・・・どう、適任でしょう。今までは身体のせいであきらめてきたけど、もう大丈夫。つばさ、ほんとに感謝してるわ。」 まみこ/つばさ  「・・・わかったわよ。もう、からだのことは言わない。でもね、よく聞いて。あたしはまみこみたいに、からだのせいで夢が追いかけられない、なんていいわけはしない。このくらいのことで、あたしは夢をおうことをあきらめたりしない。」 つばさ/まみこ  「まあ、それでこそ私のつばさだわ。お話することが二つあったんだけど、もうよすわね。」 まみこ/つばさ  「何。何よ」 つばさ/まみこ  「大したことじゃないわ。あなたには素敵な夢があるんでしょう?それがいちばん大事、他のことはどうだっていいわけだし」 まみこ/つばさ  「言って! 言いなさいよ!」 つばさ/まみこ  「やだ、怖い。あのね、あなたには悪いんだけど・・・死ぬの」 つばさ  「え?」 まみこ  「その体、もうすぐ死ぬの」 つばさ  「ちょっと、まみこ、冗談だったら・・・」 まみこ  「私がそんな冗談言わないこと、知ってるでしょう。その体、後何ヵ月ももたないの」 つばさ  「ちょっと・・・」 まみこ  「私ね、お医者さんがお母さんと話をしているところをこっそりテープに録音したの。だれもほんとのことを、私に話してくれないから。どう、あなた、聞いてみる? (テープを入れてボタンを押す) ・・・手術をすることはできないんですか? 危険が大きすぎます。手術に耐えられるだけの体力がありませんから じゃあ いったいどうしろと 正直なところ ここまで保つとは思わなかった まみこさんの心臓は、身体に見合っただけの大きさがないんです ちょうど大型バスに軽自動車のエンジンを積んだようなものだ 過激な運動はもちろんできないしそれどころか長年の無理が積み重なってであの子の心臓はもうぼろぼろです 一〇〇才の老婆の心臓みたいにいつ止まっても不思議じゃない うすうすわかってはいたのよ。このごろ父さんと母さんは、夜遅くまで起きてしゃべっているし、きまって朝は母さんの目、真っ赤だし。」 つばさ  「まみこ・・・」 まみこ  「あとね、心の交換は、お互いがそれを望まなければできないの。つまり、私が元に戻りたいと思わなければ、あなたはこれから一生そのからだの中にいなくてはいけないの・・・そう長い一生でもないと思うけど」 (つかみかかるつばさ。軽々とよけるまみこ。そのまま床に倒れるつばさ) (すがっても取り残されるまみこ/つばさ。学校が消えたとき、舞台に現れるのは、 狭く、わびしいまみこの部屋。) (看病する母親。  まみこ/つばさ、病気のことを尋ねる。  驚く母親。答えようとしない。  すがりつくまみこ/つばさ。  母親、首を横にふっていたが、テープを見せられ、とうとう答える。  まみこ/つばさ呆然とし、ついで暴れ出す。  荒れ狂うまみこ/つばさ。壁紙をはぎ取る。ベッドカバーをひきむしる。  なだめようとする母親を、まみこ/つばさ、追い出す。  軽い発作。倒れ込むまみこ/つばさ。 生徒   「聞いたか。」      「あのまみこが」      「かわっちまったらしい」      「まるで、不良になっちまった」      「ほんとか、それ」      「デマじゃねえの」      「しんじられねえ」      「まみこっていえば」      「薄幸の美少女、だよな」      「身体弱くってさ」      「いつも静かにわらってて」      「お嬢様って感じ」      「不良だなんて似合わないぞ」      「やっぱデマだろ」      「いや、隣のクラスの山田がみた。」      「どこで」      「片町のゲーセンだ」      「山本がみた」      「どこで」      「大通りで、男のバイクの後ろに乗ってた」      「実は僕も見た」      「どこで」      「スーパー。」      「アホ、そんなのかまわねえだろ」      「いや、一緒にいた仲間が悪い。4組の出口、前田、久守、それに渡辺だ」「げげ。極悪グループじゃないか。」      「からまれていただけなんじゃないか」      「いや、それにしちゃまみこの様子がおかしい」      「おかしい?」      「髪の毛はまっかっか、口紅べったり、・・・」      「どうして、突然まみこが?」      「まったくだ。何があったんだ、彼女に」      「うーむ」      「謎じゃ」 −JRC部室− JRC部長  「いたいいたいいたい。部員1、なにもモップでぶたなくても いいじゃないか」 部員1  「そのくらいせな、部長わからんみたいやから。ほら、また!」 JRC部長  「いや、だからさ、万が一クッキーが失敗してたら大変じゃないか。人間は過ちを犯すものだからね。だから部長の私が自分の身をていして最終チェックを行ってだね・・・」 つばさ/まみこ  「よく、つまみぐいにそれだけの理屈が付けられますね。さすがは部長。」 JRC部長  「やあ、つばさ君、君だけだよ、私を理解してくれているのは」 (またも手を伸ばす) 部員1  「いーかげんにしなさい(ぱかっ)」 (てなことをわあわあやる。施設へ持っていく人形劇の道具やクッキーを箱に詰め はじめる。ノック。まみこ/つばさ。) 部員1  「あれ、だれやろ・・・わ」 (絶句する。結構荒れているまみこ/つばさ。) 部員1  「あんた、何の用? ここはJRCの部室やけど・・・」 まみこ/つばさ  「知ってる。そこのまみ・・・じゃない、つばさに話があるんだ。」 部員1  「ここはあんたみたいな人が来るところやない。あんたみたいな人は一歩でもこの部屋の中に入れる訳には・・・」 JRC部長  「どうしたの、部員1。・・・あら、まみこ君だったっけ。久しぶり。・・・で、なんか用かな。」 つばさ/まみこ  「お久しぶり。まみこ、身体大丈夫? なんだか具合わるそう」 まみこ/つばさ  「・・・あんたに話がある」 つばさ/まみこ  「私にはないわよ」 まみこ/つばさ  「なんだと!」 つばさ/まみこ  「私、忙しいのよね。今日はJRC部で施設訪問に行く日だし。悪いけど、この次にして下さる」 まみこ/つばさ  「次っていつだよ」 つばさ/まみこ  「さあ。明日になるか明後日になるか。あなたならよくご存知だと思うけど、自分の夢にすべてをかけるってほんとに大変なのよね」 まみこ/つばさ  「よおし、わかった。・・・そんならあたしも行く。いいだろ、部長さん」 JRC部長  「へ?」 まみこ/つばさ  「行くんだろう、施設に。あたしも連れて行ってくれ」 部員1  「なにかと思えば、・・・あんた、そのなりで「あすなろ園」行ってなにするつもり。みんな恐がってようそばよらんわ。」 まみこ/つばさ  「うるさいんだよ、お前は。あたしは部長に話しているんだ、外野は黙ってな」 つばさ/まみこ  「そうはいかないわ。みんなが同意しなければ、あなたを連れていくことは出来ない。そして、私も反対よ。あなた、うちへ帰って休んだほうがいいわ。まるで死にそうな顔色よ」 まみこ/つばさ  「ま・・・つばさ、お前にそんなこと言われたくない!」 つばさ/まみこ  「私こそ、あなたにお前よばわりされたくないわね」 まみこ/つばさ  「・・・あれから、一ヶ月だ、一ヶ月。こっちはもう限界なんだ!」 つばさ/まみこ  「まあ、何の話?」 まみこ/つばさ  「こ、この・・・」 JRC部長  「ストップストップ。ここ来て喧嘩しないでくれよ・・・ってなんか前にも言ったような気がするな。ここは部長の独断と偏見ということで・・・いいよ。一緒においでよ、まみこさん。」 部員1・つばさ/まみこ  「部長!」 JRC部長  「いーじゃない。自分から行きたいっていってるんだし、ボランティアの基本はそこだろ。それに、考えていたんだ、お菓子を配る人間がもう一人いてもいいなって。うーん、ラッキー」 部員1  「ラッキーって、ああもうこのお人は・・・」 −養護施設「あすなろ園」− 施設の先生  「ありがとうございました。子供達もとっても喜んでます」 JRC部長  「いや、そんな、ははは・・・ええと、、どうでしょう、今日は天気もいいし、これから庭を散歩する、というのは?」 先生    「そうですね。それじゃ、みなさんには、自分で歩ける子と、車椅子が使える子達をお願いします。他の子は機能訓練の時間になりますから。」 JRC部長  「はい、お任せを。おーい、みんな。仕事だぞー」 (四人で子供達を動かす。まみこ/つばさは車椅子に乗った女の子・ゆみを担当す る。ゆみは耳も聞こえないから、声がちょっと変。) (最初、ふてくされたまみこ/つばさはろくにゆみの面倒を見ない。しかし、ちょ っとした障害物で車椅子は動かなくなる。まみこ/つばさ、どけてやる。) ゆみ    「アリガトウ オネエチャン」 まみこ/つばさ  「あ、ああ。いいんだ、簡単だよ」 ゆみ    「ユックリ ユックリシャベッテホシイ アンマリジョウズニ クチビルヨメナイ」 まみこ/つばさ  「ごめん・・・ええとね、かんたんなことだから、きにしないで」 ゆみ    「ワカッタ。アリガトウ。・・・オネエチャン、キイテモイイデスカ」 まみこ/つばさ  「いいよ。何だい」 ゆみ    「オネエチャンノカミハドウシテアカイノ」 まみこ/つばさ  「ああ、これ? 別に理由はないんだけど、ちょっと嫌なことがあってね。染めてみたら気が晴れるかと思ったんだけど、全然駄目だった」 ゆみ    「デモ、オネエチャンノカミハトテモキレイ」 まみこ/つばさ  「はは、そお? ありがとう、ゆみちゃん」 JRC部長  「おーす、ゆみちゃん。ひさしぶりでした」 ゆみ    「オニイチャン。ユミ、コンナニゲンキダヨ」 JRC部長  「そうだねー。ゆみちゃんは偉いねー。おにいちゃんがもう十才若かったら」 ゆみ    「ダメ、ユミハアツシクンノオヨメサンニナルンダカラ」 JRC部長  「あらら、ふられちまったか。でも敦君が相手じゃおにいちゃんに勝ち目はないなあ。でも結婚式にはよんでくれよ」 ゆみ    「ウン」 JRC部長  「ふー、良かった。やっぱ子供はたくましいなあ。立ち直りがすごい。・・・」 まみこ/つばさ  「たちなおりって?」 JRC部長  「ああ・・・ゆみちゃんね、最初から車椅子じゃなかったんだ。去年のいまごろだったかな、交通事故にあってね。」 まみこ/つばさ  「事故・・・」 JRC部長  「うん。ほら、お母さんがちょっと目を話した隙にさ。車道に出ちゃって。で、あの子、耳が聞こえないだろう。車が来てもわからないんだ。 ところが運転手の方はまさか聞こえてないとは思わないから、当然よけると思って・・・」 まみこ/つばさ  「ひどい・・・」 JRC部長  「結局、脊椎損傷・下半身麻痺。まず一生、動けるようにはなれないね」 まみこ/つばさ  「まさか、そのこと、知らないでしょうね?」 JRC部長  「ゆみちゃん? ・・・いいや、ちゃんと知ってる。ここの方針でね」 まみこ/つばさ  「そんな残酷な・・」 JRC部長  「うーん、そうかもしれない。でも、こればっかりは、どうにかして、あの子自身が折り合いをつけなくちゃ仕方がない。僕らには、ゆみちゃんを励ましてやることしかできないのさ。がんばれ、ってね」 (ゆみの前に歩み寄る) まみこ/つばさ  「ゆみちゃん、一つ聞いていい?」 ゆみ    「ナンデスカ」 まみこ/つばさ  「ゆみちゃん、ゆみちゃんは自分が歩けないことを知っていますか」 ゆみ   「シッテイマス」 まみこ/つばさ  「辛いと思ったことはありませんか」 ゆみ   「アリマス・・・デモ」 まみこ/つばさ  「でも?」 ゆみ   「アシハウゴカナイケレド、テガウゴキマス。アツシクンモ、センセイモ、オカアサンモ、オトウサンモ、オニイチャンモ、カミノキレイナオネエチャンモイマス。ワタシハソウイウトキ、ツラクアリマセン」 まみこ/つばさ  「ゆみちゃん・・・」 ゆみ    「オネエチャンモ、カラダガヨワインデショウ」 まみこ/つばさ  「ゆみちゃん、どうして知ってるの?」 ゆみ    「アッチノ、ツバサオネエチャンガイッテイマシタ。オネエチャンモガンバッテクダサイ。ソレカラマタ、キテクダサイ。くっきー、トッテモオイシカッタデス」 (にったり笑ってJRC部長、寄ってくる) JRC部長  「ね、ここにきてよかったでしょー。まみこちゃん」 まみこ/つばさ  「うるさいな、ロリコン親父。・・・さ、ゆみちゃん、今度どこ行こうか?」 (楽しそうにゆみちゃんを押して走るまみこ/つばさ。遠くでじっと見ているつば さ/まみこ) (ささやき声、この情景にかぶさって) 生徒  「おい」      「お前、こないだなんて言いやがった?」      「え、何の話」      「まみこさんのことだ。」      「まみこさんが不良になっただと」      「あ、あのこと」      「ゲーセンだ?」      「いーかげんなデマとばしやがって」      「とんでもねえ野郎だ」      「どうしやすかい、親分」      「おう、簀巻きにして大川へたたっこんじまえ・・・ってやめろよな、こういうギャグ」      「好きなんだよ、銭形平次」      「鬼平もいいぞ」      「ばかやろ、時代劇の王道はやっぱ、水戸黄門に決まってるだろうが」      「待て、話題がずれたぞ」      「問題はまみこさんのことだ」      「全然不良なんかじゃないじゃないか」      「というより、いよいよ美少女に磨きがかかって」      「前もかわいかったけど」      「今の彼女は、なんか違うんだよな」      「うんうん。なんていうか」      「雰囲気、あるよな」      「大人の色気?」      「このすけべ」      「いや、このすけべの言うことにも一理ある」      「うむ。確かに。このすけべのいうとおりだ」      「待て。俺はすけべなんて名前じゃないぞ。名前で呼んでくれ」      「駄目だ」      「どうして」      「俺達はちょい役だから名前がない」      「くそ。手抜きしやがって」      「また論点がずれてるぞ」      「いかんな、どうも」      「とにかくだ」      「うんとにかく」      「やっぱりまみこさんはまみこさんだよなあ」      「可愛い」      「まったく」      「うんうん」      「・・それにしてもさ」      「なんだ、なんか気になるのか」      「いったい何があったんだろうな、まみこさんに」      「うーむ」      「謎じゃ」 (発作を起こすまみこ/つばさ。あすなろ園は騒然。じっと立ち尽くして見ている つばさ/まみこ。) (音楽高まる。) (数名の看護婦が舞台両袖から登場。ロボットのような冷たいうごきであすなろ園 のセットをこわしていく。長い、真っ白な布が床に敷かれていく。冷たく、死を 暗示する舞台。) (中央に寝かされるまみこ/つばさ。) −病室− まみこ/つばさ  「おば・・・お母さん」 母    「まみこ! よかった、気が付いたのね!」 まみこ/つばさ  「あたし・・・」 母    「大丈夫、大丈夫よ。それじゃお母さん、お医者様をよんでくるわ」 まみこ/つばさ  「待って、行かないで」 母    「まみこ?」 まみこ/つばさ  「ええとね、・・・いろいろ心配かけて、ごめんね」 母    「え? 何のこと、いきなり」 まみこ/つばさ  「うん・・・ほら、夜遊びしたこととか、髪を染めちゃったこととか・・・」 母    「ああ、そのこと。あのくらいでお母さん驚いたりしないわよ。大体、夜遊びくらい、あたしだって」 まみこ/つばさ  「お母さんが?」 母    「お母さんも、高校生くらいだったかなあ、まみこ、グループサウンズって知ってる?」 まみこ/つばさ  「あのスパイダースとかブルー・コメッツとか・・・」 母    「そう・・・それでね、あたしはジュリーの大ファンだったの。ほら、沢田研二さん。今も素敵だけど、あのころはもっと素敵だった。輝いてた。お母さん、今でいう、おっかけだったのね。とにかく、ジュリーのそばに行きたくて、それだけで自分も輝けるような気がして」 まみこ/つばさ  「青春だったんだ・・・」 母    「そう。青春。・・・でも無断で学校やすんじゃって、テレビ局の前とかに行ってたからね」 まみこ/つばさ  「おば・・・お母さんも、不良だったんだ」 母    「だからね、まみこ、あれくらいのことじゃお母さんちっとも驚かない。・・・今思うとね、あのころがいちばん、お母さんの人生充実していたかな。何時間も局の前でまってて、やっとジュリーの姿を見つけた時なんか、もう、いつ死んでもいい、くらいに思ってたわね・・・これ、お父さんには内緒よ」 まみこ/つばさ  「・・・あたし、なんか、元気が出てきたみたい。」 母    「あら、良かった。それじゃ行ってくるわね」 まみこ/つばさ  「うん。・・・おばさん、ごめんね」 母    「え、なに。なにか言った?」 まみこ/つばさ  「ううん、なんでもない。なんでもないの」 −夜− (夜。ひっそり、つばさ/まみこ、入ってくる。まみこ/つばさは意識がない。) (静かに音楽。「モドモアゼル・モーツァルト」なんかがいいですね) つばさ/まみこ  「私、あなたが大嫌いだった。つばさ、あなたを憎んでた。 私、あなたが大好きだった。かけがえのない友達だと思っていた。 ・・・・もう、どっちが本当の気持ちか、わからない。 つばさ、あなた覚えてる? あなた、言ってたわね。      「いくらでも自由があって、時間があって、大人になったら絶対できないことだって、今なら何だっでできるんだよ。」 そんなあなたが大好きだった。 でも、あなたにわかるだろうか、夢を持つことの許されない者の痛みが。いつか、あなたを憎むようになった私の気持ちが。 ああ、今はわかるわね。 あなたも私を憎んでいるでしょうから。 今の私の心は、この闇よりも暗いわ。 みんな、みんな呪われてしまえばいい・・・。 ・・・なんだか不思議ね、こうやって自分の顔を見るのは。まるで、死んで行くのがあなたじゃなくて私みたい・・・ ああ、私は本当はあなたを愛していたのかしら。それとも憎んでいたのかしら。 それはもう、どちらでもいいんでしょうね。 私はあなただし、あなたは私なんだから。 じゃあ。 おやすみなさい、つばさ。 (かがんで顔を近づけていく、つばさ/まみこ。照明おちる。) −学校・JRC部室− 部員1  「部長! あたしらがいくら作っても、部長が次から次から食べてしもうたら何にもなりませんやん。いーかげんにしてください」 JRC部長  「いやさ、君達、お菓子づくりの天才だね。このチョコ味のなんか、もう、実にうまい。なんてのかな、うーむ、まったりとしてこくがある」 部員1  「まったり、なんてもう死語ですよ。・・・こら、やめんかと言うとろうが(ぱかっ)つばさ、あんたからもちょっとゆうたって・・・あれ、どうしたん、ぼーっとして。また死んでしもたあの子のこと、考えてたんか」 つばさ  「え。・・・ああ」 JRC部長  「こらこら、部員1、どうも君はデリカシーってものに欠けるところがあるね。そうなんでもズバズバ、口にするもんじゃないよ。・・・まそこが、あなたの・いい・と・こ・ろ」 部員1  「あのねそやから、そういうのはもうふるいんですってば」 (ナレーションとして、つばさの声、かぶさる。) つばさ  「まだ、長い夢を見ているような気がします。あの晩、確かに、あたしの方が病院のベッドにいたはずなのに、目がさめたときには、自分の家で、朝を迎えていました。 あとからわかったことですが、その日の明け方近く、最後の発作が起きて、まみこは息をひきとっていました。 どうして彼女は身体を返してくれたんだろう。 あのまま、生き続けることだって出来たのに。 まみこは、本当はどうしたかったのだろう。 結局、あたしにはなにもわからない。 今日はまた、あすなろ園に行きます。 ああ、ゆみちゃんに、いろんな話をしてあげたい・・・。」 (ふたたびJRC部のざわめき。荷物をまとめて、部室を出る。誰もいなくなった 部室。) −幕−