北海道美瑛高等学校平成12年度 上川支部演劇発表大会参加作品 「リキシャ」 作 岩川 光一朗 −登場人物− 一.竹吉(初代亀衛門) 二.梅 三.松っつぁん 四.雅さん(刀商人) 五.異人さん (シーン1) 舞台の幕が開く。江戸の町の雑踏のSE。ホリゾント幕に、生の照明。舞台中央奥に男が立っている。そこにサス。人物はよく見えない。 亀衛門 遅くてうまいかめのこ煎餅。遅くてうまいかめのこ煎餅。はいよ、いっちょあがり。いつも待たせてすんません。・・・いやー。機械はちょっと。うちは一枚一枚手で焼き上げるってーのが、ポリシーでして。そうポ・リ・シー。はいよっ。おまたせっ。 舞台中央前に汽車に乗った女性。SE汽車の音。ホリに景色が流れる。サスが当たる。 女性 ぷっつり。ほんとぷっつり、どっかへ行ったと思えば、また、評判になってるなんてねぇ。所詮、あの人は、静かな世界に身をおけないんだねぇ。まったく、あいつは勝手な奴だよ。ほんとに自分勝手でわがままで。最低のいい男だよ。。。 と去る。女のセリフの余韻を残し・・・ (シーン2 脱兎山運送の1日) 突然音楽。ハードロックなどがよい。舞台に照明が入る。吊りものに「脱兎山リキシャ運送」と書かれた派手な看板が下りてくる。移動可能の舞台セットが、次々に運び込まれてくる。舞台中央に人力車が置いてある。そこは脱兎山リキシャ運送整備部屋。竹・梅・松適当に踊る。音楽がとぎれて。 竹 ・・さー今日は、何から手をつけるかな。ここんとこ商売敵が増えすぎて、仕事になんねーからな。 竹。机に座って、帳簿らしきものをぺらぺらとめくる。梅。人力車に乗る。 松 こら、梅、つぶれるだろ。 梅 ・・え? 松 つぶれる。 梅 もいっぺん言ってみ。 松 何度でも言ってやら。つ・ぶ・れ・る・ぞ。ぺしゃ。 梅 そんなわけないでしょ。 松 ま、俺の手がけたリキシャだからな。ま、他の奴が手がけた奴だったらまずつぶれるな。 梅 私が乗ってつぶれるリキシャなら。ありが乗ったってつぶれるわよ。 と、リキシャから降りて。竹の机の所に行く。 松 あー、そうですね。 梅。あっかんべーする。 梅 どう?竹?「儲かりまっか。」 竹 なんじゃそりゃ。 梅 こないだの客が教えてくれたの。私がね。わたしが、「儲かりまっか」って言ったらね、 竹 儲かってます。 梅 違うの。「儲かりまっか」って言ったら・・・ 竹 「儲かり真っ青」 梅 もー。何なの。 松 おー、梅。 梅 松つぁん。あのね。私が「・・・ 松 そこの、雑巾とってくれ。 梅 むか。 梅。雑巾をつかみおもむろに。 梅 とりゃー。 と、松に力の限り投げつて、去る。 竹 何だいつにまして機嫌悪いな。 松 まったく。これだから女は。 梅、出てきて。 梅 女は何? 松 かわいくってたまんね。いーか。 梅 良し。お茶入れてきます。 梅、去る。 松 貧乏暇無しとはよく言ったもんだ。 竹 ま、来月は、巻き返すからな。ちゃんと整備しとけよ。 松 俺が手を抜いたことあるかよ。まかしとけって。 竹 (妙に感情を込めて)信用してるよ。まっつぁん。(棒読みで)「俺はお前が整備したリキシャじゃないと、まともに走れないんだよ。」 松 なんでそんな、棒読みなんだよ。 竹 いいってこと。 松 最近は、だいぶ客が減ってきたけど。俺らの評判は上々だな。 竹 そうか?(まんざらでもない素振り。) 松 竹吉のリキシャは早い! 竹吉のリキシャは揺れが少ない。 それは松っぁんの整備がっ。よっ。(松。耳をすます。) 梅入ってくる。 梅 お茶ぁっ! 竹 ありがとさん。こっち持ってきてくれっ。 竹吉お茶を取ろうとするが、梅が取ろうとしたのと違うのを差し出す。 竹 おおっ旨そうだ。 梅 そりゃ私が入れたお茶だからね。 …と、梅さっきのお茶を選びそうになるが。違う。方を選ぶ。 松 それは、まっぁんの… 梅 早く。竹吉と違っていつも遅いんだから。 松。哀しそうに。お茶を取りに来る。 梅 ほらっ。 …と、お茶を差し出す。松お茶を手に取る。 松 こ、これわぁーーっ。 竹・梅 何だ?何だ? と、集まってくる。 松 茶柱だーーーっ。 竹 何だそんなことか。 竹吉、松をぶったたく。 梅 驚いて損しちゃった。 松 こらっ。お前ら。茶柱をバカにするな。茶柱はな…。茶柱はなぁ。うちの死んだばあちゃんの友達の爺さんの春吉さんに言わせるとな。茶柱が立つと今日は一日いいことがあるんだぞ!知ってたかーー。うらやましいだろー。換えてくれって言ったって換えてやらないもんねー。 梅 誰? 竹 さあ? 竹 しってるよな。 梅 ばかばかしい。 松 じゃぁこれは知らないだろ。茶柱が立ったお茶をなぁ一息で飲むと。その日は、もうそれはそれは完璧な幸せに包まれるんだぞ。 竹 それは知らなかった。 梅 松つぁんは、物知りね。 松 よかよか。 と、松。幸せそうな表情。急に真剣な表情で茶をおもむろに掴んで。 梅 あっ。(熱い…) 松 (飲んで)熱―い。うえに、何だこりゃ、おえっげへっげへっ。何だこのお茶。げぇー喉が焼ける。うげぇ。ごほごほ。 と、松のたうち回って死ぬ。竹、蹴飛ばす。梅、ふきんを顔にかぶせる。ムーディーな音楽。 梅 やっと二人きりになれたね。竹吉っつあん。 竹 そうだね。邪魔なやつも死におうせて。この美しい世界は僕らのものだよ。 梅 ほら、今まであんなにくすんでいた木々の葉の色も、全てが輝いて見える。 竹 それだけじゃないよ。あっ。君の瞳の中のお星様がおいでおいでと語りかけている。 梅 竹吉っつぁん。 竹 ところで梅さん。なんで、松っつぁんはあの世にいっちまったんだい。 梅 それは…。 竹 僕らの間に隠し事は。ノンノン。だよ。 梅 わさびを。わさびを入れたのです。あの方、日々刺激を求めていらしたから。 と音楽切れて。 松 こらーーーっ。茶にわさびを入れるたぁ何事だー。わさび茶漬けならいざ知らず。わさび茶とは…。こらー!たたっ切ってくれる。そこになおれーーっ。 音楽。梅、松に背を向けて座り刀に粉を打つしぐさ。 梅 何を騒いでおる。気づかずに飲み干す自分の修行の足りなさを棚に上げて。なんたる師に刃向かう愚行。私の親心が分からぬのかぁ。 竹 ははぁ。 梅 (切り替えて)よしっ。竹吉っつあん仕事だよっ。 松 (梅に)こらっ。逃げるのか? 竹 仕事だって。 と、竹吉松をぶったたく。 松 いくら気に入らないからってわさびはねぇよな。俺嫌われてんのか…(とぶつくさ。)今日はどこだって? 竹 今日は。…どこだっけ梅ちゃーん。 梅 今日は板橋だよ。 竹 板橋か、また道の悪いところだな。客を振り落とさないように。優しく行かなきゃな。 松 ああ、せいぜい優しく行ってください竹吉が優しいのは、客を乗せてるときと女の相手をしてるときだけだからな。 竹 それだけで充分だろ。 松 はいはい。 竹 帰ってきたら今のけんか買ってやる。さ、今日もへっぽこ整備士のリキシャが壊れないことを祈るだけだ。 松 お前の優しい引き方ならば、一生使っても大丈夫だ。 竹 ありがとよ。最高のほめ言葉だ。じゃ、行って来るぜ。 と、竹吉は、人力車をひいて行ってしまう。 梅 さ、男どもがけがした、茶碗を洗ってこよう。♪女はいつも、待ちくーたーびれぇてぇ男はいつも、それに疲れるぅ。 梅、去る。松、道具箱を持ってきておもむろに開く。照明セピア色・又は夕焼けのイメージに変わる。松、色んな部品を取り出し色々といじる。竹吉舞台前方を走って来て元の位置で止まる。梅、竹吉の汗を優しく拭く。松「俺は?」っていう素振り。梅、ごしごしと松の顔を拭く。松いじける。竹吉大きくのびをする。梅おかしそうに笑っている。照明F.O. (シーン3 珍客) 客 おじゃまー。 の声と共に照明C.I.。客が入ってくる。松の顔を見て。 梅 雅さん、毎度っ。 梅。お菓子を取りに奥に下がる。 松 毎度。 雅 明後日なんだけど、竹さん借りていいかな。 松 もちろんそれが仕事だからな。 竹吉出てくる。 雅 あっども。 竹 おっ、どうもっ。どうっすか調子は? 雅 どうもこうにも、まあ。景気悪いですな。 松 さすがに世の中も変わると、腰の物も必要なくなるっちゅーことかい。 雅 うわっ。何てことを、松っつあん。うちの家族を路頭に迷わす気かい? 竹 今や洋式鉄砲の時代だもんな。“ずどーん”とうったら。あっちの人間ひっくり返るってな。すげー世の中だ。何もかもが新しい物と取ってかわっちまう。俺らもそのうち取って代わられるんだな。これは。 雅 そんな悲しいこと言いなさんな。竹吉っつあんがそんな弱気でどうすんだい? 竹 俺はいつも強気だぜ。ただ、このせちがらい世の中が俺を弱気に見せるのさ…。 梅、皿に入れた煎餅を持ってくる。 竹 で、何だっけ? 雅 竹さん。明後日、わりーんだけど。ちょっと体貸してくれよ。 竹 えっ……。あっ、ちょちょっと。ちょーーっと待ってくれよ。雅さん。ぽっ。 梅。持ってきた煎餅を皿ごと落とす。 梅 ごめんよ悪いところに居合わせたね。いくよ松っつぁん。 松 おうよっ。 竹 おいてかねぇでけれーーーっ。 雅 そうじゃなくて。車!車出してくれよ。 竹 なーんだそうならそうと早く言ってくれよ。なー松っつあん。 松 ホントですよ。また、新手の仕事考えついちゃいそうだったじゃないですか。 梅 よかった竹吉があっちの人じゃ無くって。 雅 全くここの連中はちょっと調子に乗せるとすぐだからな。全くよく商売成り立ってるよな。 竹・松・梅 悪かったね。出ていきなっ。 雅 いやちょっと待ってくれよ今回のは、すげー大事な客なんだよ。何かあったらこの、雅のクビが50本くらい飛ぶってなぐらいの。 竹 うちはいつでもお客様第一でやらしていただいてますが。おい松っつあん。うちの経営方針読んで差し上げろ。 松 梅っ。持ってこい。 梅 はいはーい。 と、梅、懐紙の巻物を取ってきて、松に手渡す。松、経営方針を読む。 松 経営方針その一。「客は仏様であり分け隔てなく接すること。」 雅 まいったなぁ。もちろん分かってるよ。竹吉っつあん。いつもながら仕事には厳しいね。 松 いや、男に厳しいんですよ。 竹 こらっ、松っ。 松 で、どんな仕事だい? 雅 それがな。ちょっと一言ではなかなか言いづらいんだけど…。 竹吉・松、雅を見つめる。つぶらな瞳でじっと見つめてる。 雅 なんだよ止めてくれよ。さらに、言いづらいじゃねえか。普通にしててくれよ普通に。 竹吉・松。普通にする。と、言っても、竹吉。腹筋をしながら右手と左手でじゃんけんしてあっちむいてホイを一人でやる。松イスに座り。何か紙をじーっと見る。何を思ったかその紙で折り紙を始める。梅、竹吉の腹筋にあわせて、何かをたたく。金属音がいいなぁ。 雅 ごめん許してくれ。 竹 なんだよ早くいわねえからだ。 松 竹吉に引けない客なんてねえんだよ。 雅 本当かい。 竹 っていってもリキシャに座れない奴は困るぜ。力士とかな。「力士はリキシャに乗れるのかな?」「ああ、その話なんだがな。こないだ、力士がリキシャに乗ったらリキシャが音を立ててつぶれたらしいぜ。」…リキシャっ。ぷぷぷっ。くっくっ。 雅 異人さんなんだ。 竹・松・梅 いじ―ぃ―ん―っ? 雅 ほら驚いた。やっぱりなー。そうだろそうだよなそうに決まってるよな。あったりめーだよ。異人さんだぜ異人さん。アーメンそーめんひややっこの異人さんだぜ。 梅 ごめん雅さん言ってること分かんない。 雅 とにかく、そういうことだ。えーと、12時にここを出て新宿の宿に3時に着くようにお願いな。あ、そうそう、いきなりの対面じゃおっかねえだろうから、これでとりあえずちょっと勉強でもしてくれよ。 と、雅。本を一冊竹吉に渡す。本には「えいごであいさつの本」と書かれている。 3人で本をのぞく。 雅 役に立つかわかんねぇけど。なんせ相手は鬼のようなおっかねぇ形相に毛むくじゃらで言葉が通じねえっつうんだからな。あーこわ。それじゃ頼んだよ。明後日12時。 と、雅逃げるように立ち去る。照明セピア色に変わる。その本を見てごくりと息をのむ。松・梅。本からおそるおそる手を離す。竹吉すごい不安そうな顔で二人を見比べる。松、竹吉の肩をたたく。梅、竹吉の頭を撫でる。照明F.O.。 (シーン4 脱兎山英会話教室) 松 はーぁろう。 梅 はろぉーう。 竹 はろっ。 照明C.I.。 竹 こんなんでいいのかよ? 松 いいんでねぇか?しょせんは鬼の言葉よ。 梅 ホントに鬼なのかな? 松 雅が言ってただろ。 竹 でも鬼は言葉はしゃべらんだろ。 松 頭が良い鬼なんだな。 梅 そっかー。頭は良いんだ。でもね。やっぱり人は食べるんでしょ? 竹 人?食べるのか?まさか。 梅、本を1冊取りだす。タイトル「よいこのむかしばなし」 梅 だってこの本に「おじいさんは鬼に頭からむしゃむしゃ食べられてしまいました。」って書いてあるよ。 松 うわっ。頭からかよっ。ひでぇな。 竹 ちょっと待てよってことは俺は食われんのか? 梅 いや、分かんないけどやっぱり色んな鬼がいるんじゃないかな?優しい奴とか。凶暴な奴とか。 竹 ちょっとかせ。 と、竹、梅の本を奪う。 竹 どれどれ…「その優しい気持ちをもぅった鬼はおじいさんに涙を流して言いました。」 梅 やっぱり優しい鬼もいるのね。 竹 「ごめんなさい。ごめんなさい。といいながら、目の前のおじいさんを頭から一飲みにたいらげてしまいましたとさ。」何だこれ!! 松 そうだ!!(まじめな顔して)鬼ってなんだ? 竹 鬼は鬼だ。決まってんだろ。 松 そうじゃ無くて。鬼は生き物だろ。動物だろ。 梅 決まってんじゃない。 松 ふふふふふ。ぐわっはっはっはっ。君たち大切なことに何も気付いていないな。そうだろそうだろ鬼は生き物だ、動物だ。と、言うことは動物を貫く普遍の原理を使えばいいんだ。君たちこの私が賢い頭を持っていると言うことにまだ気付いてなかったようだな。 竹 何だよ急に気持ち悪いな。 梅 何よ普遍の原理って。 松 普遍の原理それは「腹が減っては戦は出来ぬ。」 梅 何だよパクリじゃない。 竹 腹一杯にして鬼と戦えってかい? 松 ちげぇよ。言葉はそうだけど。よく聞けよ、鬼は生物だ動物だ腹も減れば飯も食う。その食い物が人間だって言うだけだ。ってことはだな。食われる前に奴を腹一杯にするんだ。奴だって動物だ必要以上に飯を食おうとはしないはずだ。 梅 何だそんなことか。 松 分かってくれたか? 竹 あーそうかそういうことか。嬉しいよ松っつあん。松っつあんがそんなに俺のことを思っていてくれたなんて。 松 いや、そんな。なんかうれしいな。そんな言われると、今までの扱いがウソみたいじゃねぇかよ。おっ何か、今日は良い日だな。 梅 松っつあん。 松 何だ? 梅 何か食べたいものある?私、松っつぁんのために腕によりをかけて作るから。何でも言ってね。 竹 あー松ともこれでお別れか。 松 お別れ? 梅 最後の晩餐って奴ね。出来るだけおいしい匂いを発するように今日は良いものをたっぷり食べようね。 松 え?なに?最後? 竹 お前歴史に残るよ。友人をかばって人柱になるんだもんな。「友人を食うなら俺を食って腹一杯になってくれ。」美談だよな。後世に残るよ。いや俺が残す。 松 いや、竹吉っつぁん。それは違う。 竹 何が違うんだよ。鬼は人しかくわねんだろ?ってことは誰か食われなきゃいけねえだろ。結局。 松 いやちょっとまて。それが俺ってか? 梅 そう言ったじゃない。 松 言ったか? 竹 (梅に)言ったよなぁ。 梅 言った。 竹 巻き戻してお見せできないのが残念だがなぁ。 松 いや言ってねえ。 竹 言ったと思う人。 竹・梅 はーい。 竹 2対1。松っつあんの負け。おとなしく食べられなさい。 松 ちょっと待てよ。いや、鬼だろ。色んなもの食うよ。だから、多分おにぎりとか、ほら、そういうのをな、先に渡すんだよ。そうすれば何とかなるだろうって。 梅 そんなこと言って。竹吉が食われたらどうするのさ。あんたが食われても脱兎山運送はすぐにつぶれないけど。竹吉が食われたら一瞬でつぶれるよ。車夫のいないリキシャ運輸なんて。こしのないうどんと同じよ。 竹 なんだよ。そんなもんかい。 梅 じゃあ…。 松 そんな、俺だってリキシャぐらい引けるぜ。 竹 なにぃ。リキシャぐらい?もっぺん言って見ろ。 松 いやごめんよ売り言葉に買い言葉だ。それくらいの気持ちでがんばってるってことだよ。 梅 ま、それじゃ。明日は2人で、おにぎりどっさり持って行きな。私がたんと作ってやるから。で、もしやばそうだったら、逃げて帰っておいで。 松 でもそんなことしたら信用が。 竹 なんだ?やっぱり食われたいか? 松 信用なんて知ったことか。逃げましょう。竹吉っつあん。 梅 それじゃ、役に立つか分からないけど、もう少し鬼の言葉でも練習しましょうか? 竹 そうだな。 3人本を再びのぞき込む。照明セピア色に変わる。 松 はーぁろう。 梅 はろぉーう。 竹 はろっ。 松 ぐど、もーにん。 梅 ぐっどナイト。 竹 はうあゆ。あーあ。もう寝るか。 梅 そうね。 竹 「お休み」はなんて言うんだ? 梅 ぐどないとよ。 竹 それじゃ。ぐどないと。 松・梅 ぐどなーいと。 松・梅去る。竹舞台上で横になる。照明F.O. 竹 ぐっどないと。か。お休み。(と眠る)…うわーやめてけろ。ごしょうだからやめてけろー。そんなとこいや。やめて。ちょっとーーーっ。おっかーちゃーん。 虫の音。 (シーン5 そして…対面) 舞台中央奥に梅。少し上手側の前に竹・松。松はおにぎりの風呂敷を首から下げている。人力車もそこにある。 梅 行っておいでー食われそうになったら逃げるんだよーー。 竹・松 イエース。 梅 おにぎり持った? 松 持ったよ。 梅 それじゃ行っといでー。 松 じゃあなぁ 竹 行って来る。 梅 死ぬんじゃないよーーー と、梅のサスが消える。竹・松その場で移動する演技。すると下手の前に外人登場。 松 おっいるぜっ。 竹 最初が大事だ。挨拶行くぞ。 松 せーのっ。 もちろん。ポーズを取って。 竹・松 グッドモーニーィングッ。 松 …きまったっ。 外人にっこり笑って。 外人 (すごいスピードで)オラ、コモエスタ。ムチョグスト。メジャモ マリオ。アブラ ハポネス。「すき焼き」「芸者」「寿司」「武士どー」。 ちなみに訳…「はーい。調子はどお?始めまして。僕の名前はマリオだよ。日本語だって話せるんだ。」 竹・松お手上げポーズ。…暗転。 (シーン6 後日談) 雅、暗転中に出てくる。 雅 そんで、どうだったよ。竹吉っつあん。 明転。竹、松、梅がいる。 竹 いやーもうばっちり。ばっちり。 雅 本当かい。そりゃさすがだな竹吉っつぁん。 竹 なあ、松っつあん。 松 あ、ああ。俺は最初見ただけで帰ったから。あれだけど。 竹 何か良くわかんねえ言葉喋ってたけど。ま、何とかなったぞ。 梅 そっかーすげえな。外人と話したんか? 竹 話したぞ。もうばっちりだ。ハロー。レッツラゴー。ってなもんだ。途中で食われそうになったけど、おにぎり口に詰め込んでふさいでやった。 雅 へー。 梅 でもそんな奴らが続々と日本に入ってくるかと思うとおっそろしいなぁ。 松 ホントおっそろしーな。あんな奴らが沢山か。 雅 そうそう、おっそろしいっていや。うちの女房が、こないだおか蒸気って奴に乗ってきたとかでえらいご満悦なんだよ。 松 おか蒸気ってか。いったいどんなんだい。 雅 なんか、おっそろしく速えってよ。 竹 なに?はええだと。俺とどっちがはやい。 雅 いやそれは、分かりませんけど。 竹 なにぃ!?俺より速い。 雅 いや、だからわかんねえけど、かなり速いとか。 竹 (胸ぐらを掴んで)もういっぺん聞くぞ。雅。 雅 は、はいよっ。 竹 そいつは、この脱兎山リキシャ運送筆頭幹部竹吉とどっちが速いって?ああっ? となぜかポーズを取っている。 雅 (梅に)どうしちゃったんだよ。竹吉っつあん。 梅 竹吉。速い遅いの話になると人が変わるんだ。いっつも。 竹 ええっ?どっちだ! 雅 (試しに)おか。 竹 なに。 雅 竹吉っつあんに決まってますよ。 竹 そうだろー。 雅 おもしろいね。竹吉っつあん。 竹 ま、その。かなり速いらしいけど、俺には及ばないリキシャ引きの丘ジョージが何だって? 雅 それに…でかいらしいですぜ。 竹 ちょっーと待て。そりゃー眉唾ですぜ雅さんよぉ。「でかい奴に早い奴無し。」これ、竹ちゃん一家、先祖代々の家訓ですぜ。 雅 それに、煙を吐くらしいですぜ。 松 煙かい。ほー人間離れした奴だな。 竹 「煙を吐く奴に長生きは無し。」 雅 それも、家訓ですかい? 竹 いや、思いつきだ。そっかー丘ジョージか。いつかあいまみえるときが来るだろう。あーちょっと便所行ってくらぁ。 などと言って、袖に去る。 雅 だから、おか蒸気は人間じゃないって…。 松 でも、時代が変わってからこの方、色んな物が出てくるよな。 梅 リキシャも無くなるのかな? 松 まさか、それはないだろ。 梅 そうだよね。リキシャの無い町の風景なんて考えられないもんね。 雅 いやーそれにしても竹吉っつあんはたいしたもんだ。異人さん相手に。立派にリキシャ引いてくるんだからな。 竹吉何かを手に戻ってくる。 竹 おい。これなんだ? 梅 異人さんからもらったやつだろ?自分で貰ってきておいて忘れたんかい? 竹 何だ早く言えよ。 松 何だろ? と、松手に取る。が、竹吉取り返して。 竹 俺が貰ったんだから俺が開ける。 松 何だよ忘れてたくせに。 竹 黙ってろ。 松 人間の干し肉だ。 竹 やる。 と、竹吉、松に渡す。松、開ける。コカコーラである。 松 何だこりゃ? 竹 肉じゃねえじゃねえか。 松 当たり前だろ。 竹 ちゃぽちゃぽいってる。 松 何だろ? 梅 何だろうねこれ。あっ。飲んでる絵が描いてある。飲み物だ。 と、梅、思いっきり缶を振りまくる。 竹 冗談きついぜ梅ちゃん。こんな真っ赤な飲み物があるかい。 雅 (まじめに)毒だ…。 竹・松・梅 は? 雅 毒を飲ませて死んだところを喰いに来るんだ。 梅 誰が? 雅 鬼が。 竹・松・梅 まさかぁ。 雅 でもな、…毒を喰らった人間の肉なんてまずいよな。 竹 なんだ?雅、人肉を喰ったことがあるのか? 雅 まさかぁ。 梅 そういや、最近この界隈で行方知れずがおおいよねぇ。 竹 隣の華婆さんも行くえ知れずだそうじゃねえか。 松 そういうことだったのか、雅。 雅 ちょいと待ちなよ。そんなわけないだろ。 竹 こんなに鬼の事情に詳しいんだもんな。 梅 いくら何でもおかしいわよね。 松 灯台元暗しとはよく言ったもんだ。 雅 だから違うって。 松 どうしてもしらをきるんだなぁ。 梅 じゃあそれ飲んでみなさいよ。飲めるでしょ?違うと言い張るには。 雅 ちょ、ちょっと待てよ…。わーった。しゃーない。やるだけやる。 竹 よしそれでこそ男だっ。 雅 女でも良かった。 梅 何? 雅 何でも。…でも。これどうやって開けるんだ? 松 ちょっと貸してみな。 と、松、手に取り。床にたたきつける。空かない。 松 ちょっと待ってろ。 と、奥に引っ込む。しばらくして効果音。「ぷしゅーっジュバジュバジュバー」 松 うわー。何じゃこりゃーーー。 竹・梅・雅 大丈夫かーーっ? して、松、出てくる…。 松 やっぱり悪魔の毒液だった…。ばた。 と、後ろでなにやらいじっていた梅が、缶を開けてしまう。 梅 開いたよ。 松 なにぃ?何ともないか梅ちゃん。 梅 何ともないよ。…へっへっへっそれじゃあ雅さん。飲んで貰おうかぁ。 竹、雅を押さえる。松。口を開けさせる。梅。コーラを投入。雅、コーラのしゅわしゅわ感にやられる。 竹 大丈夫か?雅? 雅 竹吉っつあんも、飲んでみなよ。 竹 いや、俺はいいや。 雅 おっ、それが誰よりも速い男が言う言葉か? 竹 なに? 雅 見損なったよ、竹吉っつあん。あーあ、あの頃の鬼を相手に走り抜けたあの、竹吉っつあんはもういないんだねぇ。 竹 なぬっ。 と、竹、コーラをおもむろに掴みぐいっと飲む。結構な量を飲む。見つめる3人。 竹 げふっ。からっ。人間の飲むもんじゃねえ。 松 どれ。 と、ちょっとなめる。 松 うわ。爆発してる。 梅、指にたらして。なめる。 梅 甘ぁい。 竹 辛いだろ? 梅 甘いよ。 と、ちょっと口に入れる。 梅 うぎゃっ。何これ辛ぁい。 雅 さすが鬼の飲み物だ。 竹 もういいわ勘弁だ。 松 何か、一日の力使い果たした。 梅 もう一本どうするの? 竹 お前飲んでいいぞ。 梅 要らないわよ。ねえ、飾っておこうよ?いいでしょ? 松 いいけど。 梅 どこがいいかなー と、梅、色々見てるが思いついて。 梅 じいちゃんの仏壇にかざろーっと。 と、奥に下がる。と、それを見はからったかのように。竹。 竹 ちょっと、出て来るわ。 雅 なんだい?藪から棒に。 竹 ちょいと野暮用だ。 松 あ、雪んとこか? 雅 あれ?聞き捨てならないなぁ。雪ちゃんのとこが野暮用だ? 竹 うるせえな。じゃあな。 雅 早く所帯持って田舎の母さん安心させろ。 竹 うるせえ分かってるよ。 と、竹行く。そこに梅戻ってくる。 梅 誰か所帯持つって? 雅 誰かって竹吉っつあんだよ。 梅 ……。 雅 それじゃ。また来るわ。 松 もう二度と来んじゃねえぞー。 雅 それが客に言う言葉か。じゃあな梅ちゃん。 梅 あ、……はい。 松 毎度っ。 雅、去る。 (シーン7 梅の気持ち) 松 ったくいいなぁ。竹吉は。花形車夫、もてるし。梅も早くいい人作りな。 梅 うるさい。 松 そうやっていつまでも生意気な口きいてっと。だーれも貰ってくんねえぞ。 梅 そんなこと無い。 松 あーあ。今日は。リキシャの泥よけでも直すか。どこが調子悪いんだ? 梅 知らない。 松 何ふくれてんだ? 梅 ふくれてないもん。 松 ふくれてる。 梅 ふくれてない。 松 あー分かった分かった。俺もちょっとでてくるわ。 松でていく。照明セピア色になる。梅、しばらく立ちつくす。泣いているようだ。 そこに。梅の想い出の中の竹吉が出てくる。 竹 これ。 梅 なに? 竹 そこにいっぱい生えてたからとってきた。やるよ。 梅 うわーきれい。 竹 好きか。 梅 大好き。ねえ、花占いって知ってる? 竹 知ってるよ。「好き」「嫌い」「好き」って花びらを1枚ずつむしっていくやつだろ? 梅 やったことある。 竹 あるかばかばかしい。 梅 私もやらない。…だって花がかわいそうだもん。 竹 ふーん。 梅 竹吉ぃ(…好きな人いる。)←言えない。 竹 何だ? 梅 何でもない。 竹 それじゃ帰るわ。 そこに、松が帰ってくる。 松 ただいまー。 照明元に戻る。梅、顔を隠す。 松 何だ梅ないてんのか? 梅 うるさいっ!! 梅、奥に行く。 松 何だ?……女心と秋の空ってか。 竹、帰ってくる。 松 お帰り。 竹 ただ今。 松 早かったじゃねえか。 竹 ああ。 松 何だこっちも元気ないな。 竹 こっちも? 松 何でもない。 竹 仕事行くか。 松 あー。泥よけまだ直ってない。 竹 あ。 松 10分したら直るから… 竹 いいわ帰ってからで。 松 怒った? 竹 いや。…行くわ。 と、竹去る。 松 なんじゃ?今日はみんなして。 暗転。 (シーン8 竹欠場の巻) 雅 てーへんだー。竹吉っつあんがぁ。 S.E.「風鈴」♪チリンチリン。明転。松が、人力車を引いて仕事に出ていくところである。 梅が人力車に乗っている。竹、松葉杖を1本持っている。足には包帯。でも、これといってそんなに重傷じゃないらしい。 竹 わりいな。 松 ま、たまには休んでおとなしくしてな。ま、俺が戻ってきたときには。お前の仕事はなくなってるけどな。 竹 ったく、何とでもほえとけ。 松 にゃおーん。 竹 帰ってきたらかつぶし削ってまっとくわ。 松 楽しみに頑張るわ。 竹 くれぐれも客の機嫌を損ねるなよ。車夫はなぁ。引きが上手いだけじゃダメなんだ。車夫には哲学がいるんだ。車夫にはなぁ。車夫にはなぁ… 松 はいはい。梅ちゃんおりてね。おっとうは、仕事に行って来るぞ。 梅 はーい。おっとう。竹兄ちゃんとおとなしくお留守番してるから。 竹 ふんっ。はよ行け。 松 はいよっ。じゃあな。うまい飯つくっとけよ。 梅 へい。だんなっ。 竹 せいぜいケガすんなよ。 松 誰かとちげーよ。じゃーな。 竹 へっ。けーってくんな。 と、松出ていく。 梅 それにしても、災難だったね。 竹 まあな。 梅 でも恥ずかしいわね。 竹 ああ、惚れた女にさされるならまだしも。ほれたリキシャにつぶされてりゃ世話ねーわ。 梅 でも良かったね。大変なことにならなくて。 竹 まあ、普段から鍛えてるからな。 と。竹吉腕をだすが。梅、腹をつまむ。 竹 こらっ。 梅 お茶入れてくる。 と、梅去る。竹吉、イスに腰かける。ふんぞり返ってじっと座っているが。じっとしていられず。玄関の方を見に行く。で、戻ってきて。座る。また、玄関の方に行く。で、なぜか、腕組みをし部屋の中をぐるぐる回ってしまう。いつの間にか梅が戻ってきて。見てる。お茶のお盆には、小さな花瓶に野の花が生けてある。 梅 なに?そんなに気になるの。 竹 (かなりびっくりして)そ、そんなことねぇよ。あいつは殺したって死なないようなやつだ。うん。そうだ。 お茶を飲む。が、竹吉。お茶を持ったまま。また、玄関の方をのぞきに行く。 梅 行ったばかりじゃない。 竹 そうだな。…ちょっと出てくるわ。 梅 じっと待ってりゃ帰ってくるって。 竹 そうだけど。 梅 だけど何よ。 竹 ほら体動かしとかないと、なまるだろ。だから…なっ。 梅 行って来な。 竹 おし。ひとっ歩き行ってくらぁ。 梅 行ってらっしゃーい。松っつあんの仕事ぶりちゃんと見ておいでね。あとで反省会するんだから。 竹 それじゃ。 と、竹吉出ていく。照明かわる。梅、あきれ顔で。梅、座り、花を手に取り。一枚一枚ちぎって落とす。最後の一枚が床に落ちて。暗転。 (シーン9 竹吉の決心) 松 ただいまーー。 明転。 松 いやー疲れたぜ。今日は。腕いた腰いた肩いたーぁ。 竹 …悪かったな。 松 いや、別にいいってばそんなの。楽しーなぁ。 竹 何が? 松 リキシャ引いて走るのも。 竹 じゃ代わるか? 松 勘弁してくれよ。俺が引くってことは、竹吉っつあんが整備?それだけは勘弁だな。 竹 何だよ。俺の整備じゃ走れねえってのかい? 松 あったりめえじゃねえか。折り鶴もまともにおれない奴の、整備したリキシャなんて乗れねえな。 竹 何で折り鶴が出てくんだよ。かんけーねーだろ。 松 関係大ありだ、整備はなぁ。手先が器用じゃなきゃ一流にはなれないんだよ。しかも。お前みたいな荒っぽい車夫の元には、俺みたいな一流が必要なんだよ。 竹 俺だって器用だ。かぶとなら折れるぞ。 松 お前が器用なら、世界中みんな器用だ。 竹 うるせーな。 松 …でもその不器用なとこがいいんだぜ。 竹 何だよ気持ちわりい。 松 おうっ。竹吉っ。お前の整備ができて俺は幸せだぞ。 竹 何だよ。気持ち悪いな。 松 なんか、なぁ。難しいなぁ。リキシャって。 竹 ああ。 松 俺らって最高の組み合わせだとおもわねえか。 竹 おもわねえ。 松 ったくこれだもんな。けがしたときくらい素直になれっつんだよ。 竹 いっつも素直だ。 松 あーあ。腰いてぇ。腕いてぇ。足いてぇ。 竹 もんでやるか? 松 男に体触らす趣味はねえ。 竹 何だよせっかく優しくしてやろうと思ったのに。 松 結構です。優しくするなら雪ちゃんにしてやりなさい。 竹 うるせえ。いつもしてるよ。 松 うわー。焼ける体が焼けるぅ。 竹 うるせえな。 松 うるせえなぁじゃなくって、早く雪ちゃん貰ってやれよ。かわいそうだぜ。あれじゃ生殺しだ。あんな良い子いないぜ。 竹 貰えるもんなら貰ってるよ。とっくに。 松 何だよそれ。 竹 そういうことなんだ。 松 なんだよ?どういうことだよ。 竹 くんねえんだよ。 松 何が? 竹 とっつあんが。 松 何だよ。そんなことかよ。 竹 そんなことじゃねえだろ。大事なことだ。 松 簡単だよ。奪って逃げればいいんだよ。自慢の足なら逃げきれんだろ。 竹 逃げ切ったって雪がかわいそうだろ。 松 かわいそうなもんか。好きな男と逃げれるなんて幸せだろ。 竹 みんなに祝福されてえだろ。それが、一番の肉親に祝福されないんだぞ。 松 でも一番一緒に居たい奴と一緒じゃねえか。 竹 それとこれとは別だ。それに、脱兎山運送はどうなるんだよ? 松 そんなの知るかよ。江戸っ子は宵越しの金はもたねえって相場は決まってらぁ。 竹 ゴメン松言ってることがわかんねえ。 松 竹吉。お前の悪いところだ、威勢はいいのに考えすぎる。人間考えてたってはじまんねえんだ。やりたいことを存分やる。 竹 そんなこと、…できねえだろ。 松 お前みたいな人間は、物事を勢いでやろうとした方がいいんだ。そうしたら100勢いでやれる奴らの100にひとつくらいはできるから。 竹 とっつあんに言われたんだ。 松 雪はやらねえってか?はよ死ねあのもうろくじじいっ。 竹 そうじゃねえんだ。 松 なんだよ? 竹 一流にしか雪はやらんって。 松 なっなんだとぉっ?竹吉が一流じゃねえっつーのか。 竹 一流だったら証明してみろって。 松 証明しちゃればっちりと。 竹 そうなんだけど。 松 そうしたらくれるんだろ雪を。 竹 そうだけど…。 松 何だよ。簡単なことじゃねえか。 竹 それが…。 松 何だよ竹らしくねえ。 竹 …。 松 どうやって証明しようか? 竹 おか蒸気と走れってさ。 松 何だそんなことか?余裕じゃねえか? 竹 おか蒸気って雅が言ってた奴だろ。 松 ああ。そういや言ってたな。ま、竹の敵じゃないな。 竹 …。 松 何だよ。雪が欲しくないのかよ。 竹 欲しいよ。 松 だろ。やろうぜその勝負。なっ。 竹 うーん。 松 なっ。 竹 おうよっ。 松 ほら来た。見てろよ丘ジョージ。悪いが竹の引き立て役になってもらうぜっ。 竹 よっしゃ。行くぜ。 松 おうっ。 (シーン10 対決前夜) 音楽 竹吉。松の乗ったリキシャを引いて走ってくる。おりると松の手に「果たし状。」後ろから梅が追っかけてくる。 梅と竹吉競争をするらしい。松がルールを説明する。向こうに行ってこのリキシャの所まで戻ってくるらしい。 松の“よーいドン”。でスタート。竹早い。梅も遅くはない。走る走る。竹吉。舞台袖に消える。しばらくして、梅が先頭をきって戻ってくる。竹吉戻ってくる。2人に笑われる。片手に、鼻緒の切れたセッタを持っている。まじで悔しそう。2人励ます。竹吉。梅を乗っけたリキシャを引いて帰る。 竹吉走ってくる。梅、後から走ってきて。竹吉の汗を拭く。松も後ろから走ってきて、コーラの缶を差し出す。竹吉飲もうとするが。缶を見て放り投げる。松キャッチして逃げる。 梅 ようやるねぇ。 竹 あー疲れた。 梅 そんなに一生懸命に頑張って負けたら悲しくない? 竹 俺は負けねぇんだこれが。 梅 この自信。 竹 おう。雪は俺のもんだぜ。 梅 でも万が一負けたら? 竹 万が一でも負けない。 梅 じゃ億が一。 竹 負けねえの。 梅 じゃ…。とにかく負けたら。 竹 負けねえっていってんだろっ。 梅 もし負けたらさ。 竹 負けねえって。 梅 もしもしさ。負けたら。 竹 負けねえの。 梅 梅をもらうってのはどう? 竹 何それ? 梅 …冗談。 竹 罰じゃねえかそれじゃ。 梅 え?なに? 竹 何でもございません。 梅 ね、竹吉は、何で車夫になったの? 竹 何でって…。足早いからかな? 梅 ね、何で飛脚にならなかったの? 竹 疲れるからかな? 梅 でも、リキシャだって疲れない? 竹 そうだな。 梅 飛脚やりなよ。 竹 何だよ?いきなり。 梅 死んだばあちゃんがさ、 竹 惚れた相手が飛脚か? 梅 違うよ。遺言でさ。 竹 飛脚と結婚せいってか?さっきも言ったけど、俺には雪と言う・・・ 梅 違うよ。もー何でもない。 竹 はいはい。なんだい。死んだばあちゃんが? 梅 飛脚のふんどしにさわると幸せになれるっていってたから。 竹 何だ俺のふんどしにさわりたいのか。だったらそうとさっさと。 梅 もー。 竹 じゃ、何でお前はリキシャ運送ではたらいてんだ? 梅 なんでって。別に。 竹 だろ。いちいちそんなこと考えちゃいねぇんだよ。ま、走るの好きだし。できるだけ人より優れたもので身を立てたいじゃんよ。自分がこれだと思ったらその道で努力するんだよ。それが男ってもんだ。 梅 偉いね。竹吉は。自分のやりたいことが分かってて。 竹 お前だってあるだろ? 梅 お嫁さんかな? 竹 だからさっきから嫁嫁言ってんだ? 梅 言ってないよ。 竹 ま、いいや。でも。そんなんすぐだろ。 梅 えー。難しいよ。 竹 何で? 梅 何ででも。ねえ、覚えてる? 竹 なに? 梅 私が七五三の時のこと。 竹 なんかあったっけ。 梅 私がさ。神社にお参りした帰りに、竹んちよってさ。竹があまりに私が来ていた着物を気に入って私を帰そうとしなくてさ、しまいには、齢(よわい)10歳にして私を脱がしにかかったの。 竹 誰が? 梅 竹が。 竹 まさかぁ。 梅 そしたらさ。親戚中で、梅の婿に竹をって決まってさ。竹もまんざらじゃない顔してたじゃない? 竹 えー俺がか? 梅 そう竹が。でも今となっては… 竹 え? 梅 何でもない。さ。もうひとがんばり。 竹 おう。今日は興奮して眠れねえな。 梅 雪ちゃんいいお嫁さんになるだろうね。 竹 当たり前だ。俺が惚れた女なんだから。 梅 ああ、そうですね。 竹 ああそうですよ。 梅 ま、せいぜい勝ってください。 竹 何だその言い方。 梅 失礼しました。勝って一流の車夫になった暁には素晴らしい婦人をめとってさらなるご活躍を期待しております。 竹 うむよろしい。では。用意にかかる。 と、舞台から去ろうとする。梅後ろ姿に、あっかんべーをする。と、竹吉立ち止まって。振り向かず。 竹 すまんな梅。 梅 何が? 竹 ほんとゴメンな。 竹吉去る。 梅 いいよ分かってるから。 暗転。 (シーン11 対決) 明転 竹吉が、リキシャを引いて舞台に出てくる。松が心配そうに見ている。梅もいる。 松 さあいよいよだ。 竹 いよいよだ。 松 分かってるな。おか蒸気の音が聞こえたら、走り出すんだ。 竹 ああ。あとどれくらいだ? 松 もうすぐだ。 竹 よし乗れ。 松 おうっ。 と、松。リキシャに乗り込む。 梅 私も乗りたいなぁ。 竹 また今度な。 松 残念だな。 梅 いいなぁ松は。 竹 遊びじゃねえんだ。 松 そうそう、大事な大事な雪ちゃんのためだ。 梅 大好きな、雪ちゃんのためですか。 松 そうそう。 竹 行くぞ。松。 松 また照れてぇ。 竹 うるせぇ。 梅 何にしても幸せだよね雪ちゃんは。 松 でも、負けたら最悪だよな。 竹 こら。 松 負けねぇけどな。だろ。 竹 そうだ。……そろそろだな。 と、竹吉。何かに向かって決意の表情。 梅 …頑張ってね。 竹 ああ。 おか蒸気の汽笛の音が響き渡る。竹吉スタートを切る。竹吉とリキシャがサスに残る。竹吉走る走る。 松 行けぇ竹吉っ!!はええぞ。そうだ。そうだ!! 梅にサスが当たる。 梅 竹吉のスタートは、素晴らしく、ぐんぐんとおか蒸気を、突き放していきました。その時、悔しそうなおか蒸気の汽笛が響き渡った。その時、私は竹吉の勝利を確信し一生懸命祈った。竹吉は走った。「一生懸命」この表現でしか表現できないくらいに。その姿は、まちかい無く勝利の2文字に続いているはずだった。わたしは。わたしはその時、竹吉の頭の中でしっかりと息づく雪ちゃんの姿を竹吉の走る姿に見てしまった。気がつくと、私は竹吉の勝利を祈りながらさらに大きな祈りをおか蒸気の勝利に捧げていた。今考えるとおかしなことですが。あり得ないことを祈っていました。この祈りがかなえば、私たちにはまた元の通りの生活が帰ってきてくれると、帰ってくると信じていたから。本当に強い祈りとして。竹吉の走る姿で頭がいっぱいになりました。その時おか蒸気は、力強く竹吉を…。 おか蒸気の汽笛が大きくなり遠くに離れていく。竹吉はそれでも走っている。動きがスローモーションになり。サスが静かに消える。 梅 …抜き去り。一瞬で全てが終わりました。そして、全てまた元の生活に戻るのだと密やかに私の心は華やいでいました。でも竹吉は自分に真っ直ぐで、雪の父親と交わした約束。…その時は私たちには知らされていなかったのですが。約束に従って私たちの前から姿を消しました。本当に男ってのは、バカなもんで。自分の信念がいつでも女を幸せにするとでも思っているのでしょうか?正直が正しく、嘘つきが間違い。そんなかっこいい言葉じゃなくて。そこにしがみつきがむしゃらに生きる。男はバカですよ。それができないんですから。 松、が舞台に出てきてサスにてらされる。 松 なんだ。またこんなところで油を売って。 松。コーラの缶を出し飲む。 梅 あ、コカコーラ。不思議だったよね。あの頃。 松 ああ。 二人笑顔。 松 竹吉の野郎。ほんとに煙のようにいなくなっちまいやがったなぁ。 梅 その速いことと言ったら。おか蒸気なんて目じゃないね。 松 ほんとだ。何やってるんだか。 梅 松っつあんが竹だったらどうした? 松 さぁ。謝って許してもらったかな? 梅 笑ってごまかすんじゃなくて? 松 そうかもな。 梅 でも、案外同じことしたかもね。 松 とにかく迷惑な奴だ。 梅 そう思うの? 松 そりゃ思うさ。思わない奴いないだろ。最悪だあいつは。 梅 最悪だ。あいつは最悪の男だ。 松 今度合ったらお仕置きだな。 梅 お仕置きよね。絶対。 松 お仕置きだ。 梅と松の照明が消える。 (シーン12 そして…。) 亀衛門(竹)が、照明に照らされる。 亀衛門 のろくてうまいかめのこ煎餅。のろくてうまいかめのこ煎餅。うちは一枚一枚手で焼き上げるってーのが、ポリシーでして。そうポ・リ・シー。せんべいは人生のごとし。強く優しく確実に。でも、決してあせらず。 梅 あれだけ町を賑わわせていたリキシャも、潮が引くように時代の波にさらわれてしまい、馬車や車とか言う鉄のかたまりに取って代わられてしまいました。何ともあっけないことですが。その早さといったらもうなんだかもう、何かにこだわるのがおかしくなってしまうほどです。あの時は感じませんでしたが、時代は流れています。竹吉。元気に過ごしてるみたいで安心しました。私は…ちゃんと夢を叶えました。思ってたのと少し違いますが。竹吉もどうやら新しい大地にしっかりと根を張っているみたいですね。ちゃんと毎日どこかにいる竹吉に「バカ野郎」と恨み言を言ってます。でも今も好きなことやってると聞いて嬉しい想いでいっぱいです。 松 まさかあいつがせんべいやとはな。しかも、今度はのろいのが売りとはな。 梅 あんなに速いことにこだわっていたのにね。 松 時代の流れ。ってやつか? 梅 その服似合うよ。 松 だろ。 梅 元気かな?竹吉。 松 そりゃ間違いない。 梅 だよね。 松 行くか。 梅、頷いて去り際に。 梅 おーい。今日も大好きだぞ。 竹吉、その声に気付いたように顔を上げる。そしてにっこり微笑む。 (幕)