「Beyond the door」 作 岩川 光一朗 ------------------------------- <登場人物> チハル ミツコ じじい マユミ 黒ずくめの男 サトシ君 -------------------------------- シーン1 (チハルの死) (音楽。緞帳が上がる。薄明かりのなかに後ろ向きに6人が立っている。) 3人 イノチはある。 4人 イノチはない。 5人 イノチはある。 全員 イノチはない。 1人 イノチはある。 全員 といえばある。 1人 ない。 全員 といえばない。 2人・ ここにある。 2人・ そこにある。 2人・ あそこにある。 全員 そしてどこにもない。 チハル こんにちは 全員 私のイノチ。 こんにちは。 (黒ずくめ・サトシ君・じじい・ミツコ去る。) チハル 死んだ。簡単に。すごく痛かった。あいつ胸にナイフ刺すんだもん。ちくっ、じゃなくって「ぐさ」だもん。信じられる?でもすぐに痛みはなくなって、気付いたらこうやって立ってた。なんて簡単なんだろ。死ぬって。 (放送室のドアノブが動く。それを見て、マユミ、放送ブースに隠れる。そこに、ミツコが何かに追われるようにして放送室に入ってくる。カギを閉め、椅子に座る。舞台が明るくなる。) チハル あれ、ミツコ! ミツコ 誰っ? チハル チハル。 ミツコ チハル・・?え、どーして? チハル どーしてって・・・ ミツコ どーして、いるの? チハル 今朝死んだの。 ミツコ 学校は? チハル たどり着けなかった。 ミツコ え、なに。 チハル はらたつ! ミツコ なに。 チハル もー、はらたつ。 ミツコ (わけがわからず)何?ごめんね。 チハル あ、ミツコじゃないの。あいつが悪いのよ。 ミツコ 誰? チハル あいつのおかげで終わったのよ。 ミツコ だから何が? チハル 私の人生が。私の一生が! ミツコ なに?また振られたの?チハル、いつもそうなんだから悲しくなったら人に頼るのいい加減やめたら? チハル (前のセリフを遮って)違うの!私死んだの。 ミツコ あっそう。かわいそうに。 チハル あれ。あっさりしてるなー。 ミツコ 不満? チハル 不満。 ミツコ じゃあやり直そう。 チハル やり直すって? ミツコ ほらもう一度。 チハル え、あ・・・。 ミツコ さっき言ったこと。 チハル あれ、あっさりしてるなー。 ミツコ じゃなくてその前。 チハル 私、死んだの。 ミツコ (めちゃめちゃわざとらしく)えー、なんだって?死んだ?チハルが?おー、なんてことだそんな突然に死んでしまうなんて、なんて、なんて、なんてー。 チハル (さめて)ありがと。 ミツコ もー、男に振られたくらいで学校さぼらないの。ま、私のところに来てくれたのは嬉しいけど。 チハル あの、ほんとに死んでるんですけど。 ミツコ でもチハルいつも突然なのよね。 チハル ほんとに突然なのよね。・・・・ねえミツコ。 ミツコ なに? チハル (真剣に)死ぬってあっけないんだよ。すごく簡単。 ミツコ どうしたの死ぬ死ぬってチハルらしくない。 チハル らしくない? ミツコ そうよ。 チハル (周りを歩きまわり見回して)ところで、ここ、どこ? ミツコ どこって私の学校よ。何言ってるのよ、自分できたんでしょ。 チハル そっか。でも、私気付いたらここにいたのよね。 ミツコ 私の学校の放送室。分かった? チハル 虫の知らせってやつかな? *ミツコ は?虫の知らせって物が壊れたりするやつでしょ。本人が堂々と来て虫の知らせなんかないわよ。本人が来るのはユーレイ。 チハル そっか、私ユーレイなんだ。 ミツコ 何言ってるのチハルは「ユーレイなんかいないっ!」っていつもいってたじゃない。 チハル ユーレイなんていないと思ってた。でも、(真剣に)ユーレイはいるんだよ。ミツコ。 ミツコ もーどーしちゃったの。 チハル じゃあはじめからわかりやすく説明するね。あんたいつも人の話しよく聞かないんだから、よーく聞いてね。 ミツコ (うなづく) チハル 説明しよう! (音楽) チハル 今朝の出来事です。ここまでいい? ミツコ いいよ。 チハル (早口で)朝起きて、歯磨いて、ゴハン食べて、トイレに行きました。ここまでいい? ミツコ 少し長いけど何とか。 チハル ここまでは前置きなんだけど。家を出て、バス停まで歩いていきました。OK? ミツコ OK。 チハル ちょうどまんぷく商店街にさしかかったところで、その男はやってきた。 ミツコ その男はやってきた! (音楽。ミツコ舞台からはける。または、全く聞いてないことが分かる演技。黒ずくめの男、舞台のはじから出てくる。チハル振り向く。男なぜかびびる。苦し紛れに妙な踊りを踊る。) チハル このときに気付いていれば良かったの、しかし! (チハル歩き出す。男、チハルについて歩く。男、おもむろにナイフを懐から取りだし、ナイフをなめる。至福の表情。チハル振り向き、男の異常な行動に気づく。男チハルに襲いかかる。チハル・男スローモーションになり、チハル、恐怖の表情。男チハルを刺す。男走って去る。) チハル わかった? ミツコ え、なに? チハル ミツコ何してるの? ミツコ ごめん。聞いてなかった。もう一度。 チハル しょうがないなー。 ミツコ いつもすまないねえ。ごほごほ。 チハル 結構疲れるんだから。いい?一回だけだからね。 (ミツコ、チハルの話を聞くために舞台後ろ向きに座る。拍手。音楽。巻き戻しで、男戻ってくる。) チハル しかし、のたっかよばれいていづきにきとのこ (踊りのところぐらいまで巻き戻ったら。早送り再生。) チハル このときに気付いていれば良かったの、しかし! (チハル歩き出す。男、チハルについて歩く。男、おもむろにナイフを懐から取りだし、ナイフをなめる。至福の表情。チハル振り向き、男の異常な行動に気づく。男チハルに襲いかかる。チハル・男スローモーションになり、チハル、恐怖の表情。男チハルを刺す。男走って去る。) ミツコ 誰よ今の? チハル (とぼけて)誰かいた? ミツコ 誰かって、今出てきたでしょ。ちょっとほら(と男を引っ張ってくる)。 チハル もー説明でしょ。分かりやすく説明しただけでしょ。分かった? ミツコ 分かった。 チハル と、いうことでチハルはいとも簡単に死にました。ちゃんちゃん。 ミツコ そんなことあるの? チハル 「事実は小説よりも奇なり。」 ミツコ 言うと思った。そっかー。いまいち信じらんないけどね。 チハル そうだよね。 (2人見つめ合ってほほえむ。) ミツコ ね、これからどうするの? チハル 「どうするの?」か、どうしよう、ミツコ。 ミツコ じゃ、とりあえずここでゆっくりしていきなよ。 チハル いいの? ミツコ いいに決まってるでしょ。 チハル でもミツコ、授業は? ミツコ (あせって)な、ないよ。きょ、今日はね。 チハル そっか。じゃあゆっくりしていく。 ミツコ ・・・ねえ、死ぬってどんな感じ。痛かった? チハル 痛いの痛くないのって、でもそれほどじゃなかったかな。 ミツコ 苦しかった? チハル 助かったほうが痛くて苦しかったかもね。 ミツコ そうだよね。ねえ、ここまでどうやってきたの? チハル 分かんない。気付いたらここにいた。 ミツコ 瞬間移動だ! チハル 瞬間移動か?そういうことかな? ミツコ でもほんとに突然だよね。 チハル どんな感じ?親友の突然死。 ミツコ 別に。なんも。 チハル 突然死だよ。「物語は突然第三者から・・・」 ミツコ (無視)ね、チハル。死ぬってどういうこと? チハル え、あの、えー。 ミツコ 分かる?。 チハル 死ぬってことは分からない、でも、死んだってことは分かる。 ミツコ (何故か中国人風)でも見た感じ私とチハル全く一緒。 チハル チハル死んでる。ミツコ生きてる。なるほど。 ミツコ 全然、全然、違わない。 チハル あっ、そうだ。足。 ミツコ 足? チハル そう足! ミツコ (連想ゲーム)足?足、足、臭い。 チハル そうじゃなくて、見える?私の足。 ミツコ なんで?見えるよ。いつもと同じ太くて短いチハルの足。 チハル もー(怒)。 ミツコ 何が? チハル ユーレイは足がないっていうでしょ。 ミツコ そうだ。ね、チハル「一生のお願い。」 チハル ね、話聞いてよ、何でミツコいつもそう唐突なの?なによ? ミツコ 触らして。 (間) チハル なにいってんのミツコ?もーやだー。エッチ。 ミツコ あほ。変態。 チハル だ、だって。 ミツコ ユーレイって触れるのかなと思って。 チハル あ、そっか。 ミツコ いい? チハル いいよ。何か緊張するなー。(深呼吸なんぞして。)いくよ。 チハル・ミツコ せーの。 ミツコ (手を握って)・・・・・・(気を失う。) チハル 大丈夫! ミツコ はっはっはっ。びっくりした?(と復活。) チハル もうユーレイをからかうんじゃない! ミツコ ユーレイってさわれるんだ。いたって普通だよ。やっぱ生きてるわ。 チハル なんか変な感じ。私は、さわられてる感じ無いや。 ミツコ チハルたまに変なこと言うからあわせるの大変。 チハル なに? ミツコ いや、別に。 チハル そう。ねえミツコ。 ミツコ ん? チハル ミツコ冷たいよね。 ミツコ なんで? チハル だって友達が死んでまで来てるのに、悲しんでくれないんだもん。 ミツコ ちょっと待ってよ。悲しんでもらおうと思ったらね。ちゃんと死にましたって一目でわかる登場の仕方しなきゃダメだよ。 チハル 私ダメだった? ミツコ もーぜんぜんダメ。 チハル じゃあどうしたらいいの? ミツコ そーね。まず、血みどろ。もー目鼻口から血だしまくり。いい? チハル あ、うん。 ミツコ で、服は血まみれ。 チハル 血、出しまくり。服、血まみれ。 ミツコ そうそう。で、顔はこけて、青ざめて、かすれた声で、「ミツコ、た・す・け・て・・・そこで、刺された、もう、だ・め・うっごほごほ、ばたっ。」こうじゃなくちゃ。 チハル そっか。 ミツコ そーだよ。それがさ、いきなり現れて、顔元気。つやつや。肉付きまくり。張りのある発声。で「ミツコ!元気だった?」だもん。 チハル イケてると思ったんだけどなー。 ミツコ だめだめ。絶対ダメ。 (そこに放送が入る。ピンポンパンポーン「次の一年生の生物の授業は、生物化学実験室で行いますので、教科書、ノートと筆記用具をもって時間までに来て下さい。」) チハル あれっ、ミツコ今日授業はー?無いっていってたよねー。 ミツコ あ、あ。 チハル そりゃたまには、授業出たくないときはあるけどね。 ミツコ あ、え、と。 チハル いかんぞ。 ミツコ あ、う。 チハル 何故私に嘘ついた。 ミツコ ごめん。 チハル そうそう、そうやって素直なミツコでいなさい。 ミツコ ・・・はーい。 シーン2(ミツコの恋) チハル あれから3年だね。 ミツコ 3年か。早いような遅いような。(と、操作卓のところから1本のテープを取り出す。)じゃーん。これ覚えてる? チハル あー、そのテープ! ミツコ 懐かしいよね。 チハル うん、懐かしい。持ってたんだ。 ミツコ もちろん。 チハル ねえ、聞こう! ミツコ 聞こうか。ちょっと待って。(ミツコ、カセットテープをセットする) (音楽。光りの中、サトシ君が出てくる。ミツコ振り返る。サトシに話しかけようとするができずにチハルにすがりつく。チハル、ミツコを押し出す。が、ミツコ、サトシの前を通り過ぎる。) チハル 思い出すなー。 ミツコ 今思い出すとはずかしいなぁ。 チハル なにいってんのよ。いい思い出でしょ。 ミツコ 音楽って不思議だね。あの頃に戻った気分。 チハル あのころか。・・・ミツコ一生懸命だったよね。 ミツコ 自分でもビックリするくらい。 チハル 勉強もあれくらい頑張ったらね。 ミツコ うるさい。 チハル でも全然だったよね。話しかけられなかったもんね。 ミツコ そんなこと無いよ! チハル 「そんなことないよ」って。そんなことあったっけ? ミツコ 1回あったよ。 チハル あったっけ? ミツコ あったもん。 チハル あーあの時? ミツコ そう、あのとき。 (音楽。サトシ出てくる。ミツコ、チハルに押し出されて、サトシの前に出る。) ミツコ あ、あの・・・・・・・・・。 サトシ え。 ミツコ ごめんなさい。(ミツコ走り去る) サトシ あ!(サトシ去る。) ミツコ これだけだったけどね。・・・・・ねえ、チハル。 チハル ん? ミツコ (思い切って)彼氏できた? チハル (ぷっ)なに聞くのいきなり。 ミツコ 照れるところがあやしい。いたの? チハル いないよ。 ミツコ 本当に? チハル ほんとよ、そういうミツコは? ミツコ ・・・いないよ。 チハル やっぱり? ミツコ やっぱりってなによ、もー(怒)。 チハル だってサトシ君の時もああだったもんね。 ミツコ 人間は一日あったら変わるんだよ。 チハル じゃあミツコの一日は何年かな? ミツコ ひどいなー。 チハル でも、高三になって彼氏の一人もいなかったんだよ。しかも不慮の事故で死んでさ。もー踏んだり蹴ったり。彼氏でもいればさ。「何故、死んだんだチハルーーぅ。それならおれも、後を追う!」とかいっちゃってさ。もーはらたつ。 ミツコ 悲しい話だわ。でも、チハルって実は男きらいでしょ? チハル そんなことない・・・ケド。 ミツコ ケド何よ? チハル くだらない男は嫌い。 ミツコ あーそーやって「周りの男がくだらなかったから」とか言うんでしょ? チハル どーして分かったの? ミツコ もてない女はそういうの。 チハル そんなこと無いよ。本当のことだもん。(ムキになる) ミツコ ウソよ。じょーだん。チハルかわいいからいいよってくるのいっぱいいたでしょ? チハル え?いないよーそんなもの好き。 ミツコ いや、いたはず。でもチハルのことだからよせつけなかったんだよたぶん。なんかオーラを発して。 チハル オーラって。そんなこと無いよ。 ミツコ 絶対そうだよ。だってチハルすごくかわいいもん。周りの男はほっとかないよ。 チハル (ミツコをたたいて)そんなー、やめてよ。でもそんなこと言ったらミツコだって。 ミツコ わたしは、ブスだから。 チハル かわいい女はみんなそういうのよ。「私ブスだからーぁ」ってね。 ミツコ でもチハルのほうが、かわいいもん。 チハル えーミツコのほうがかわいいよ。 ミツコ そんなことないよー。 (マユミ、放送ブースの陰から出てきて2人の話を聞いている。) チハル 世の中の男は、みんなクズだわ。ミツコが見えないなんて。 ミツコ 何でチハルのこと見えないんだろー。ばかやろー。 チハル ばかやろー。 ミツコ・チハル 世の中の男の、ばかやろー。 チハル あー、すっとした。 ミツコ でもなんかむなしいね。 チハル はたから見たら馬鹿だよね私達。 ミツコ そうだね。 シーン3(もう一人のユーレイ) マユミ ふにゃー。 (チハル・ミツコ振り返る。) マユミ やあ。 チハル・ミツコ や、やあ。 ミツコ なに? チハル どこから来たの? マユミ あっち。 チハル あっち!? ミツコ なにこの子? マユミ ぼく、マユミ。よろしく。(と、手を差し出す。) ミツコ ねえ来たよどうする? チハル どうするって・・ ミツコ 近づいてくる、握手求めてるよ。 チハル そうだ!!!(ミツコに耳打ち) チハル よろしく。(握手をして、気を失う) マユミ 大丈夫? チハル 復活!! マユミ ・・・。(チハルがユーレイだということに気づく) チハル ごめん冗談だよ。 マユミ ・・・。 チハル ミツコどうしよう。この子、冗談通じないよ。 マユミ 君、ユーレイなんだ。 チハル あ、そのこと。そう、今朝から。 ミツコ 自称ね。 マユミ ということは、君も(とミツコに)ユーレイ? ミツコ いえいえ、私は違いますよ。 マユミ 違うの?え!なんで?ぼく、見えてるの? ミツコ 見えるよ。ばっちり。 マユミ 何で? ミツコ 私に見えぬものはない、なぜなら私は両目2・5。 チハル え、ミツコには見えないの? マユミ 普通はね、だってユーレイ見えたら大変でしょ。 ミツコ (チハルを指して)でも、こやつも自称ユーレイですぜ親分。 チハル 親分。どういうことです? チハル・ミツコ おやぶーん。 マユミ お前はもうすぐ死ぬのだ。残念だがな。 ミツコ え、(まじめに戻る) チハル そうだったのか、お前までも死んでしまうのか。 マユミ 残念だがな。 ミツコ どうして(そんなことまで知ってるの)! マユミ 私には何でも分かる。 チハル 悲しいじゃろうがそれが真実じゃ。 マユミ 死、それは突然訪れる。 チハル それは誰にも避けられぬ。 マユミ 誰にもな。 チハル・マユミ はっはっはっ。 ミツコ ・・・。 チハル あ、ミツコ。ごめん悪のりしすぎたよ。 ミツコ 勝手に人を殺すな。もう。 マユミ でも何で私見えるんだろ? ミツコ 何で?(チハルに) チハル 何で?(マユミに) マユミ 何でですかねー?(と、誰かに) ミツコ おいおいおい。 チハル 誰よ。 マユミ うにゃ?(とマユミ、部屋の端のほうにいく。) ミツコ 逃がしたか。 チハル あ!分かった!ミツコ、今まで金縛りにあったことは? ミツコ え、ないよ。 チハル じゃあ、自分の寝姿を空からながめたとか。 ミツコ ない。 チハル こーやって(と写真を撮るふり)「はい、チーズ」(マユミが変な姿で後ろに写る)って写真を撮ったら見知らぬ人が(と、マユミをさして)写ってたとか。 ミツコ ないです。そんなこと1度もない。 チハル おかしーなー。ユーレイが見えるってことはやっぱり。「あなたの知らない世界」だと思ったんだけどな。 ミツコ (マユミを見て)待って!! マユミ ふにゃ?(とミツコに近づく) ミツコ ストーップ! チハル ミツコどうしたの? ミツコ ほら見て、この子の体透けてるよ。 マユミ 透けてますか? ミツコ ほらほら、向こうが見える。 チハル 見えないよ。(とマユミに近づく。) ミツコ 見えるってば。・・あれ見えない。 チハル なに言ってんのよ。 ミツコ おかしーな。 チハル (マユミから離れながら)もーミツコったら。 ミツコ あれ、やっぱり透けてるよ。 チハル もー、いーかげんにしてよ。(とマユミに近づく) ミツコ 透けてない。・・・あー! チハル 「あー」ってなに? ミツコ この子チハルのそばにいると見えるのよ。 マユミ あ、そっか。チハル、ねえ、チハルって呼んでもいい? チハル いいよ。 マユミ チハルっていつ死んだんだっけ? チハル 今日の朝。 マユミ やっぱりね。 ミツコ やっぱり? マユミ 私、前に一度あったんだ。事故だった、10歳くらいの男の子が飼い犬を追っかけて、車にひかれたの。即死だった。そのとき、周りでみてた私に、隣のおばさんが話しかけてきたの。「かわいそうにね」って。 チハル それで。 マユミ びっくりしたの覚えてる。「何でこのおばちゃん私が見えるのーっ」ってね。なるほどね。「死にたて」の命のそばだと見えちゃうんだ。 チハル 「死にたて」か。なんかやだな。 ミツコ (冷やかして)死にたてのほやほや。 チハル うるさい。 マユミ ほやほやか・・いいなー。 チハル よくないよ。 ミツコ これだけ若い『お化け』もなかなかいないよね。 チハル 『お化け』じゃないよ。ユーレイ。 ミツコ あ、そうか、でも不思議ユーレイによって見えたり見えなかったり。 マユミ それは簡単なことだよ。 チハル どーゆーこと? マユミ 人の死って他の人の心をゆさぶるでしょ。たとえばチハルの彼氏が・・ チハル あ、えーと。 マユミ いないんだったよね。知ってたけど。 チハル なんだよー。知ってるなら言うなよ。 マユミ ごめん。実はさっき話聞いてた。 ミツコ たち悪いなー。 マユミ まあとにかくチハルが死んで悲しむ人がいるよね。 チハル そりゃ、少しはね。 マユミ 若くして死んだんだから少しじゃないはずよ。例えばこんなふうに。 *(音楽。黒ずくめの男とサトシが出てくる。) 黒ずくめの男 チハルぅ、なんで死んじまったんだー。 サトシ やりたいこともせず。 黒ずくめの男 彼氏の一人もつくらずに・・。(ストップモーション) マユミ こんなふうにね。 チハル っておい! マユミ こういう人たちのイノチは、チハルのイノチに反応できる。 チハル どういうこと? マユミ チハルがもし近づけば。 黒ずくめの男 チハルぅ、なんで死んじまったんだー。 (チハル近づく。) 黒ずくめ・サトシ え!げぇーーー、お・ば・けーーー。(と舞台から去る。) マユミ こんなふうに、チハルに会いたいと思ってる人のそばにいけばね。チハルの存在を感じることができる。 でも、時間とともに他の人はチハルのイノチに反応しなくなるの。良い意味でも悪い意味でも。 チハル なんか淋しいな。 マユミ そうね。 ミツコ 分かったけど、マユミはどうしてチハルのそばだと見えるの。 マユミ 簡単なこと。チハルのイノチのフレッシュな光を受けてるから。 ミツコ チハルはフレッシュなんだ。 マユミ ヒトのイノチってそれだけ強い光りを持ってるの。 ミツコ 「太陽と月」みたい。 マユミ 太陽と月か。 ミツコ チハルが太陽で、マユミが月。太陽の強い光があって、月の美しい姿を見ることができるの。 マユミ 美しい?てれるなー。 (間。ミツコ・チハル凍る。) マユミ 分かってるって。でも太陽じゃなくって、星じゃないかな。 ミツコ どーして? マユミ だってヒトのイノチは、たくさんあるもの。そして、様々な光をもってる。 ミツコ 強い光に弱い光。はたまた光ってないものまで。 マユミ そんなことないよ。 ミツコ なんで? マユミ 人のイノチの光って全部がすごく強いの。 ミツコ そうか。私の光も? マユミ そうだよ。 ミツコ 「でも私の光は、あの人に届かない。」 チハル ま、よくあることだ。 ミツコ なに。 マユミ 曇りの日に星は見えないもんね。 ミツコ 私の人生。曇りばっかり。 チハル そんなことないでしょ。 ミツコ 人生には曇りの日もある。ってこと? マユミ そう、曇りの日でも雲の向こうにはいつでも星は光輝いてるの。 ミツコ でも、年中晴れ女みたいなのもいるけどね。ね、チハル。 チハル え、なに?それってどういうこと。 マユミ あほってこと? チハル・ミツコ え?! マユミ なんでもない。 ミツコ 星はいつでも光輝いている。か。 チハル でもみんながみんな光り輝いていたらまぶしいね。何か、はげのおやじが並んでるってかんじかな?うーんなんかやだな。(と一人で訳分からぬ感慨深げ) シーン4(扉) ミツコ ねえ。2人ともずっと立ってて疲れない? チハル そういえばさっきからたちっぱなしだよね。 マユミ 私そうでもないわ。ユーレイになってから疲れとか感じないし。 ミツコ ユーレイって疲れないの? マユミ つかれないし、寝る必要もないの。 チハル すごい。寝なくていいの? ミツコ えー私は、寝てる時が一番幸せなんだけどな。 チハル だって寝なくていいんだよ。勉強だって遊びだってし放題。 ミツコ あのね、チハル。 チハル なに? ミツコ 今、あなたどういう立場? チハル 立場って? ミツコ チハル、ユーレイなんだよ。遊びはともかく勉強はいらないでしょ? チハル いらないの? マユミ いらないんじゃないかな? チハル そうか。 ミツコ ちょっと待って、今イス出すから。 (ミツコ、放送室奥の倉庫の扉に手をかけ開ける。風の音。チハルその扉に吸い込まれそうになる。) チハル 閉めて!! (ミツコ閉める。) チハル なに、今の? マユミ おめでとう。 チハル おめでとうって、何が? マユミ 次の人生への扉なの。 チハル 次の人生? マユミ イノチには終わりがないんだって。だから、また次の人生を始めるための入り口を見つけるの。 ミツコ じゃあこの扉をくぐれば次の人生なの。 マユミ そういうこと。 ミツコ 「Door to ザ・成仏」って感じかな。 チハル あんたね。 ミツコ チハル。 チハル なに? ミツコ ホントに死んだの? チハル だからさっきから言ってるでしょ。「死んだ」って。 ミツコ だって嘘っぽいんだもん。 チハル 誰がこんな手の込んだ嘘つくの? ミツコ そうだよね。 チハル まだ信じてない? ミツコ いまいち。 チハル マユミ。私死んでるんだよね。 マユミ 今はね ミツコ 今は? マユミ この扉をくぐるまでは。 ミツコ この扉って、これ倉庫の扉だよ。 マユミ でもチハルにとっては、次の人生への扉なの。 ミツコ そっか。 チハル 分かった?ミツコ。 ミツコ なんとか。へー、おもしろいなこの扉。 (とミツコ扉に興味津々。) ミツコ ねえ。チハルちょっと離れて。 チハル 何で? (チハルはなれる。) ミツコ おもしろいなーと思って。 チハル おもしろいなーって、ま・さ・か! ミツコ それ。 (扉を開ける。風の音。チハルふんばる。ミツコ閉める。) チハル やめてよ。 ミツコ それ。 (扉を開ける。風の音。チハルふんばる。ミツコ閉める。) チハル ミツコ!! ミツコ おもしろいね。 チハル いい加減にしてよ! ミツコ でも何で、チハルだけこんなふうになるの? マユミ これはチハルの扉だから。 ミツコ チハルの扉って。じゃあ、マユミの扉もあるの? マユミ あるはず。 チハル はずって? マユミ まだ見たことないの。 ミツコ 見たことない? マユミ そう。扉は、その人のイノチが終わりに近づくと見えるの。 チハル 待ってよ。マユミってもう死んでるんだよね。 マユミ 自殺なの。 チハル・ミツコ え? マユミ 私、自殺したの。 チハル ごめん。聞いちゃいけなかったよね。 マユミ 気にしないで。自殺したイノチって、体が死んだだけでイノチは続いているの。 チハル 体は死んでいる? マユミ そう。でもイノチは続いているの。 ミツコ イノチは続いてる? マユミ だから、こうやってふらふらしてるってわけ。 ミツコ ふらふらしてていいの。 マユミ そう、やることないから。 ミツコ いいなー、私もふらふらしたい。 マユミ いいのは最初だけ。夏休みだってそうでしょ。 ミツコ 夏休み? マユミ 思い出してみて、夏休み。 ミツコ 楽しいことばっかりだよ。蝉の声、プール、かき氷、花火、浴衣、夏祭り! マユミ そう。夏休みは楽しい。でも、お盆をすぎる頃には? チハル そうか。「早く学校始まれ!」って思う。 ミツコ でも、でも、でも。宿題が終わってないと、「夏休みよ。終わるな。」って思うよ。 チハル でも友達には会いたくない? ミツコ そうだね。今はそうでもないけど。 マユミ 私も死んですぐは、何ともなかった。でも、そのうち淋しくて淋しくて、周りの人に話しかけたわ。でも、誰も相手にしてくれなかった。だから、チハルやミツコとこうやって話せてとても嬉しいの。 ミツコ え、マユミっていつ死んだの? マユミ えーとね。5年かな。 ミツコ 5年間何してたの? マユミ うーん。特に・・何も。ふらふらかな。 チハル これからは? マユミ やっぱりふらふらかな。あと、430年くらい。 チハル・ミツコ 430年!! チハル 何でそんな長いの? ミツコ 長すぎでしょ。 マユミ しょうがないの。今思うと、これが罰なんだろうなって思う。 チハル・ミツコ 罰? ミツコ 何の? チハル ミツコ。(それは聞いちゃダメだよという風に。) マユミ 自殺した罰。 ミツコ 自殺したらいけないの? マユミ いけなかったみたい。 ミツコ そんなの自由でしょ。 マユミ 自由。そうかもね。 ミツコ そうだよ。そんなの自由だよ。 マユミ でも、自殺するとその人のイノチの1日は、体があるときの10日と同じになるんだよ。 チハル 10日って・・10倍。 ミツコ 10倍も長く生きるの。 マユミ 私、17歳で死んだの。人生が60年として残り43年でしょ。 チハル で、10倍して430年ってわけか。 ミツコ 短くできないの? マユミ 私の寿命が20歳位だったら、あと30年かな。 ミツコ それでも長いな。 マユミ イノチってそれだけ重いの。 チハル でも何でそんなこと分かるの?10倍だとか、寿命だとか。 ミツコ そうだよ、だまされてるんだよ。 マユミ だといいね。 ミツコ そんなのウソに決まってるよ。だって430年だよ。死んだ方がましだよ。 マユミ 死んだうえにさらに死ねたら楽なのにね。 チハル でも、マユミ。何でそんなこと知ってるの? マユミ おじいさんに聞いたの。 チハル・ミツコ おじいさん? マユミ やっぱりユーレイなの。 チハル その人も自殺した人? マユミ 自殺・・じゃないの。 チハル じゃあ・・。 シーン5(マユミとじじい) (音楽。サスが落ちる。マユミその中に座る。じじいが舞台後方中央からでてくる。照明、薄明かりになる。) マユミ (座っている。) じじい お、こんなところに娘が。 マユミ (振り返って。) じじい おおっっ!かわいいのお、こりゃビックリじゃ。わしがあと40若ければ嫁にもらってやるんだがな。ホッホッホッ、ハッハッハッ。うっ、げほげほ。 マユミ おじいさん、誰? じじい (ぴたっと止まる)なに?聞こえんのお。 マユミ おじいさん誰? じじい なになに? マユミ おじさん誰? じじい なになになに? マユミ (大きな声で)おにーさん。 じじい なんじゃ? マユミ 誰? じじい わしか。ひろし、佐藤ひろしじゃ。 (間) マユミ そうじゃなくて・・。 じじい 冗談の通じぬ子じゃ。わしか?聞いておどろくな。 マユミ わお。 (間) じじい おもしろい子じゃ。お前と同じユーレイじゃ。 マユミ あそ。 じじい 「あそ」ってつめたいのお。 マユミ ユーレイだから。 (間) じじい おもしろい子じゃ。 マユミ でも、私、他のユーレイに会ったの初めて。 じじい そうか。わしが記念すべき第1号じゃな。 マユミ うれしくないけど。 (間) じじい きつい子じゃ。 マユミ 私、死ぬまでは、この世はユーレイであふれてると思ってた。 じじい なぜじゃ? マユミ だって、毎日毎日人って死んでるんでしょ。生まれてくるのと同じくらい。 じじい 良く知っとるのぉ、賢い子じゃ。 マユミ 何かの本で読んだ。 じじい そうかそうか。じゃがのぉ、ユーレイになるのはわけありのみじゃ。 マユミ わけあり? じじい そうじゃ。嘘つき盗人自殺に殺人。そういう連中がユーレイになる。そういうものなのじゃ。 マユミ 嘘つき盗人自殺に殺人。 じじい そうじゃ。おまえはどれじゃ? マユミ わしは、自殺じゃ。 じじい なぜ「じゃ」なんじゃ? マユミ なんとなく「じゃ」なんじゃ。 (間) じじい おもしろい子じゃ。そうか自殺か。わしは何だと思う? マユミ (即答)嘘つき! じじい そんなに元気に答えられると否定できないのぉ。 マユミ 嘘つき、嘘つきぃー。 じじい ええい、やめい。わしは・・・ マユミ 嘘つき。 じじい ちがう。殺人じゃ! マユミ うそ。(と、しりもちをつき後ずさる。) じじい 何じゃそのリアクションは。 マユミ やめて。来ないでー!(とものを投げる。パントマイム。) じじい 待て。 マユミ いやー。ぜったいいや。 じじい 待てといっておろーに。 マユミ やめて人殺し!来ないでーー。 じじい すとーっぷ。 マユミ はー疲れた。 (間) じじい 愉快な子じゃ。 マユミ 何で人なんか殺したの? じじい お前と同じじゃ。 マユミ 私は殺してないよ。 じじい 殺したじゃろ。・・自分を。 マユミ 自分は殺したって言わないよ。 じじい 確かにいわんかもなぁ。 マユミ でしょ。 じじい だが、自殺も殺人も同じじゃ。残りあるイノチに手をかけたのじゃ。お前は自分のイノチを。そしてわしは他人のイノチに手をかけた。イノチに手をかけたんじゃ。 マユミ でも。 じじい それぞれ理由はある。そうじゃな。 マユミ (うなずく。) じじい 娘よ。 マユミ なに? じじい 名は? マユミ マユミ。 じじい 良い名じゃのぉ。マユミ。何が見える? マユミ 空。 じいい そうじゃ。きれいな空じゃ。あの日もこんなきれいな空じゃった。 マユミ あの日? じじい 空はいつもそこにある。空はいつも変わらない。それに比べてわしの心などすぐに変わってしまう。 マユミ 心? じじい イノチと言った方が良いかのお。わしの中には、この美しい青空に感動する心と、人を殺す心が一緒にあるのじゃ。そして、一瞬に入れ替わる。わしの中にはいったいいくつの心があるのかのお。 マユミ きれいな青空だね。 じじい そうじゃのお。 マユミ 不思議。 じじい 何がじゃ? マユミ 空っていつも上にある。 じじい そうじゃの。 マユミ 空ってどうして青いんだろう。 (間) マユミ 空ってどこからが空なのかな。 じじい そうじゃのお。どこまでも続いてるのお。 マユミ 続いておる。 じじい 続いておる。イノチもそうじゃ。 マユミ イノチも。 じじい いつまでも、わしはわしでマユミはマユミじゃ。 マユミ わたしはわたし。 じじい そうじゃ。 マユミ そっか。 じじい 分かるか? マユミ 何となく。 じじい 何となく。そうか。 マユミ おじいさん。 じじい 何じゃ。 マユミ 私、あの青空になりたい。 じじい そうか。そうじゃのぉ。 マユミ いつまでも変わらない。いつでも優しく包んでくれる。そんなあの空になりたい。 じじい お前にとって大事な人はおるか? マユミ いるよ。 じじい そうか。 マユミ おじいさんは? じじい おったぞ。 マユミ もういないの? じじい そうじゃもういない。ずっと前に死んでしまった。 マユミ 悲しい? じじい そうじゃのぉ。だが、しょうがない。 マユミ しょうがない? じじい 居残り勉強と同じじゃ。 マユミ どういうこと? じじい わしはイノチに手をかけた。だからその代償としてそのイノチの10倍は生きないといけない。これが決まりじゃ。なにものもこの決まりから逃れることはできない。お前もな。 マユミ 私も?なぜ? じじい 言ったじゃろ。お前は自分のイノチに手をかけたのじゃ。 マユミ ・・・どうしようかな。これから。 じじい わしらのようなわけありには、生きることは死ぬまでの暇つぶしじゃからのお。 マユミ 暇つぶし。なんかや。 じじい 何もできないのじゃからな。わしらには。 マユミ 私、決めた。あの空になる。決めた。おじいさんは? じじい わしか・・それじゃ雲にでもなるかの。空にぽっかりと浮かぶあの雲に。 (と、去ろうとする。) マユミ おじいさん。 じじい じゃあな。 マユミ どこへいくの。 じじい さあどこへ行くのかのぉ。行くあてなどない。だが進むのじゃ。イノチある限り。 (舞台中央の扉を開く。風の音。風の音大きくなる。扉閉まる。) シーン6(ミツコの現在) (誰かが、放送室の扉をたたく。照明落ちて、サイドライトがミツコを照らす。「1ミツコどこいったんだよ!」「2出て来いよ!殺すぞ。」「3どこ行ったんだよ!」 チハル ミツコ、何、今の? ミツコ 何だろ。私のことさがしてるのかな? チハル さがしてるってかんじじゃなかったよ! ミツコ そう・・かな? チハル だって今の・・。 ミツコ いつものこと。 チハル いつものことって・・なんか変だよ。 ミツコ 変かな? チハル 変でしょ、だって・・・ ミツコ だって何? チハル だって、普通じゃないよ「殺すぞ」なんて。 ミツコ そう? チハル そうだよ。 ミツコ でも別に何も・・・ チハル 何もないわけないでしょ。ねえ、ミツコ! ミツコ いいのよ、いつものことだから。 チハル 「いつものこと」ミツコ、そーやっていつも大事なことは何も言ってくれない。 ミツコ そんなことないよ。 チハル いつもそう。あとから「あの時はさあ」とか言って。 ミツコ そうだっけ? チハル そうだよミツコ。私、寂しかった。 ミツコ そんなこと言わないでよ。 チハル 言うよ私死んじゃってもう言えなくなるんだから。 ミツコ ・・・いじめられて、苦しくなって、授業が終わるまで放送室に閉じこもってた。はい終わり。それだけ。 チハル ・・・。 ミツコ やっぱり言わないほうが良かったよね。 チハル 許せない。何でミツコが! ミツコ 私が悪いの。頭悪いし、スポーツダメだし、話し下手だし。みんないやがるよね。 チハル 何言ってんのよ! ミツコ だから、死のうと思ったの今ここで! チハル ミツコ・・。 ミツコ ・・そんな勇気なかった。思いつきは良かったと思ったんだけど。 マユミ 死んじゃダメだよ。 ミツコ (うなずく。) マユミ 死んだ人間に言われたくないと思うけど。 ミツコ 分かってる。死ぬよりも生きるほうがいいに決まってるもん。誰だって。でも死にたくなるんだよね。ねえ、マユミ。 マユミ 何? ミツコ イノチは続くんだよね。 マユミ うん。 ミツコ 今の私のイノチ、千年後も二千年後もあるの? マユミ そうだね。 ミツコ ずっとあるんだ・・私のイノチ。「死ぬ勇気を生きる勇気に。」でも明日の今頃また「死にたい」って思ってるわ私。 チハル じゃあ私がずっと見張ってる! ミツコ 見張られるの?なんかやだな。 チハル 死にたいって思ったら。首締めて気付かせる。 ミツコ 死んじゃうよ。 チハル そっか、じゃ見つめてる。ストーカーのようにいつまでも、いつまでも、いつまでも。 ミツコ いや、それも・・ チハル 何でよ。 ミツコ それって、 チハル それって? ミツコ とりついてるでしょ。 マユミ ご飯を食べててもチハル。 ミツコ トイレに入ってもチハル。 マユミ どこへ行っても、何してても、 ミツコ・マユミ 振り向けばチハル。 ミツコ たち悪いなー。 マユミ 最悪。ユーレイの風上にもおけない。 チハル なにさ、この善良なユーレイをつかまえて。 ミツコ 善良?一番タチ悪いでしょ。親友にとりつくなんて。 チハル ひどいな。 ミツコ ・・ありがとう。 チハル え、何? ミツコ 来てくれたこと。 チハル タイミングが良かったね。 ミツコ バッチリだよ。 チハル 偶然だけどね。 ミツコ 偶然ってすごいね。 マユミ 人って偶然の連続で生きてるんだよ。 チハル へえ。 マユミ そして偶然の連続のことを必然っていうの。 ミツコ じゃあ今日チハルが来たのは? チハル もちろん必然よ。傷ついた友人のために死んでまでやってきた。「傷だらけの天使」ってとこ? ミツコ 死んでも死にきれなくって「友人にとりつくユーレイ」じゃないの? チハル げー。「偶然の連続を必然という」それって、あのおじいさん? マユミ ちがうよ。 ミツコ じゃあ? マユミ 私、何となく思っただけ。だってどんなことでも偶然と思えば偶然だけど、やっぱり起こるべくして起こってるんじゃないかな? ミツコ 今ここで3人がいるのも必然。だよね。 シーン7 ミツコ ねえ、気のせいかな?マユミの体透きとおってない? チハル え?そお? マユミ もう時間だね。 ミツコ 時間?マユミ行っちゃうの? マユミ 私じゃなくって、チハル。 チハル 私? マユミ そう。 ミツコ チハル、成仏するの? マユミ そう。成仏とは違う気がするけど。 ミツコ ・・・。 マユミ じきに私見えなくなるね。 チハル 何で? マユミ イノチの光が弱くなってるの。 チハル 光?私の? マユミ そう。だから私ミツコからもう見えなくなるの。 ミツコ じゃあ、マユミどうなっちゃうの? マユミ 見えなくなるだけ。 チハル ねえ、私、弱ってるの? マユミ チハルのイノチが弱ってるの。 チハル どうしたらいいの? マユミ 扉をくぐるの。 チハル 扉って、これ? マユミ そう。 チハル え、これ?・・恐いんだけど。 ミツコ 何いってんのよ。私が開けてあげるよ。(と扉に手をかける。) チハル ああ!やめてーーぇぇ。 ミツコ 開けてないんだけど。 チハル あ、そ。その気になっちゃった。 チハル ねえ、扉の向こうってどうなってるの? マユミ それはもう、恐ろしい世界が広がっているの。 チハル え? マユミ 扉をくぐると後ろから鬼に金棒で殴られて、針のむしろの上を引きずり回される。 チハル 痛い。 マユミ そして、大きな釜で煮られるの。 チハル 熱い。 マユミ そしてこの世での悪事をつぐなう。 チハル えー。 マユミ そして、きれいさっぱり次の人生! チハル やだ、そんなのやだ! マユミ でも行くしかないの。 チハル 行きたくない。ここに、ずっと居る。 マユミ 行かないの? チハル 行かないと? マユミ イノチはない。 チハル えーー! マユミ なーんちゃって。扉の向こうには、次の人生、ただそれだけ。私もそれしか知らない。 チハル 何だよ。 マユミ 私も次の人生を早く見たいなー。 チハル 次の人生か・・短かったな私の人生。何で死んじゃったんだろ私。 ミツコ・マユミ ・・・・。 チハル 何でよ私だけ。やだよ。そんなの。 ミツコ ・・チハル。 チハル ねえ、マユミ、私、ずっとここに居ちゃダメなの? マユミ ダメ・・だと思う。 チハル 何で? マユミ 分からない。前に向かって進むものだから・・人間って。 チハル あとどれくらいかな?私がここに居れるのって。 マユミ そのうち私、見えなくなると思う。それまでかな。 ミツコ でも、マユミ、もうだいぶ薄くなってる。 チハル ねえ、向こうに行ったら、やっぱり今のことって全部忘れちゃうの? マユミ たぶん。 チハル そうだよね。私何やってたんだろ。何もできなかった・・ ミツコ チハル・・。 チハル ねえ、ミツコ。 ミツコ なに? チハル 私のこと忘れないでね。私ミツコのこと忘れちゃうけど。 ミツコ 何よ、忘れるわけないでしょ。 チハル 忘れられたら、私何も無くなっちゃうから。お願い。 ミツコ 忘れないよ。 チハル 本当に私死んじゃったんだ・・・この扉の向こうに行くんだ。私無くなっちゃうんだ。おしまいなんだ。 ミツコ ・・・ マユミ おしまいじゃないよ。 チハル おしまいでしょ、どう考えても。 マユミ 始まりだよ。そう思わないと苦しすぎるよ。私、終わりに向かってるなんて。 チハル マユミ・・。 マユミ 私もいつも思うんだ、何で死んじゃったんだろって。 チハル・ミツコ ・・・。 マユミ でも、また、いつかやり直せるんだって、どこかに私の扉があるんだって、次の人生に向かってるんだって、始まりがまた来るんだって。そう信じるの、そうすると次の人生に向かって今がんばれるの。がんばるっていっても、何もできないんだけどね。 チハル マユミ。 マユミ なに? チハル がんばろう。何もできなくてもがんばろう。とにかく、とにかくがんばろう。 マユミ (うなづく。) シーン8(扉を開いて) ミツコ いかなきゃ。 チハル ミツコもね。 ミツコ チハルも透けてきちゃった。 チハル お化けみたい? ミツコ そうだね。 チハル 本物だよ。 ミツコ ほんとにお別れだね。 チハル お別れだね。 ミツコ もう会えないんだね。 チハル そうだね。でも、ミツコが会いたいと思ったら、思い出の中に私はいるから・・ ミツコ (鼻をつまむ。) チハル ミツコ。がんばってね。 ミツコ がんばる。すぐ、くじけるけど。でも負けない、絶対負けない。 チハル ミツコをいじめる奴には・・・ ミツコ 何? チハル マユミが化けて出る。ね、マユミ。 マユミ (微笑み、うなずく。) ミツコ マユミ?今どこにいるの? マユミ ここ。(ミツコには聞こえない。) チハル ここらへんだよ。 ミツコ ありがとう。これからもよろしく。 チハル それじゃ、いくから。 ミツコ 何か心の整理がつかないよ。 チハル 私も。 ミツコ 忘れないでね。 チハル 忘れない。私のイノチと、ミツコのイノチはいつも一緒だよ。 ミツコ 今日のこと、今までのことずっと忘れない。 チハル これからはマユミもいるから。 ミツコ これからはマユミがいる。 ミツコ 一人じゃないんだよね私。 マユミ そうだよ。(と、ミツコの肩に手を置き微笑む。ミツコは気付かない。) チハル (その様子を見て)行くね。 ミツコ ありがと、チハル。 チハル ん? ミツコ 私なんかと友達でいてくれて。 チハル 私も。ありがと。 ミツコ もう行かなきゃね。 チハル うん。やだなーこの扉。 ミツコ 早く行きなよ。 チハル でも何で倉庫の扉なの? ミツコ 深く考えないの。 チハル やっぱりやだ。恐い。 ミツコ じゃ。私がお祈りしてあげる。「神様だか仏様だか知らないけど、チハルにひどいことしたら許さないからね!絶対に絶対に許さないからな!」チハルは、・・・チハルは、誰よりもきれいな心を持ってるんだから。だから、次の人生でも私といさせて。・・お願い。 (チハル、扉のノブに手をかける。) チハル ありがとう。ねえ。ミツコ。最後に一言。 ミツコ なに? チハル ミツコは「ミツコなんか」じゃないよ。ばーい。あなたのことをよく知っているチハルより。行く。 (チハル、扉を開く、ライトの光が差し込む。風の音。チハル決意して飛び込む。開いた扉をミツコがしめる。) ミツコ ねえ、マユミ。 マユミ (ミツコの方をみる。) ミツコ 私、マユミの友達だから。マユミがいやがっても友達だから。 マユミ (うなづく。) ミツコ 寂しくなったら、近くにきて。 マユミ (うなづく。) ミツコ あと、私が死ぬときにもそばにきて。 マユミ ・・・。 ミツコ 一生分のお話がしたいから。 マユミ 楽しみにしてる。 ミツコ 私、生きるから。見ててね。たまには、泣いたり落ち込んだりすると思うけど。 マユミ 見てるよ、雨の日も風の日も・・ ミツコ ・・・行くね。 マユミ 私、ミツコの青空になる。いつまでもいつまでも変わらない。 (ミツコ、扉に手をかける。) ミツコ さようなら。 (扉を開ける。光が差し込む。ミツコ出ていく。マユミ、ミツコが行ったのを見届ける。そして、ゆっくりと舞台の階段を下り、客席に消える。舞台には何もない。幕。)