『爆!!兄弟達の家庭の事情』   作・甘夏ドリンカー -------------------------------------------------------------------------------- 【登場人物】  唯:長女・高校一年  海:長男・中学三年  愛:次女・中学二年  泪:次男・中学一年  舞:母 ・年齢秘密 --------------------------------------------------------------------------------  唯    これは人権問題よ。  海    そうだ。「人が生まれながらにしてもっている当然の権利」の侵害と言っても過       言じゃねぇな。  泪    情報社会へと成長していく現代で、僕らだけが置いていかれています。  愛    思春期爆進中の子供4人もかかえる家庭に、どーして、なんで、  4人   電話が1個しかないのだあああああああああああああああああああああああ!!  唯    今時テレホンカードの使い終わったやつコレクションしてるのなんて私くらいよ       ぅ!  海    いいよなー。俺のクラスのやつ、授業中に「モー娘。」の「恋をしちゃいました」        の着メロ鳴って、携帯取り上げられてんの。うらやましーよなー…。  愛    そーそー!そんで「あーマナーモードにしとけば良かったー。もーあたしのバカ       ぁ」って悲しんでるのよ。幸せなミステイクよねぇ…。  泪    携帯電話を4人に持たせろとまでは言いませんから、せめて自宅電話を二つに        してほしいですよね。      ◆ 沈黙。すると突然すごい勢いで。  4人   最初はグゥ!    ◆ 沈黙。全員パーをだしている。イヤぁな空気。沈黙。  唯    汚いわよ!海!!  海    なんで、俺だけなんだよ!?   泪    ジャンケンはやめましょう。きっと一生決まりません。  唯    そうね。泪ちゃんの言う通りだわ。  愛    一番合理的じゃない方法だよね、ジャンケンって。  海    でもどーすんだよ。1個しかない電話四等分して一人ずつに配るか?  唯    ……もう、どーしてよりによって全員同じタイミングで電話しようとするのよ。       みんな、今かけないとダメなの!?  海    ダメだダメだダメなんだあああ!!  愛    なんでよ!くだらない事だったら、ゴマキのポスターを「おっとっとっと夏だぜ」        に変えちゃうわよ!  唯    あの兄弟似てるわよねぇ、私達と違って。  海    予約開始なんだよっ!!!  3人   …は?  海    モーニング娘。のコンサートチケット、電話予約開始なんだっつの、あとちょっと       で!!  唯    我が弟ながら、気持ち悪いわね。お姉様鳥肌たってきたわ。寒い…。春だという       のにとっても寒いわあっ!  愛    あーんな、オニャンコのパクリみたいな女達見て何が楽しいのよ!彼女と別れた       からって、そっちの道に走るのだけはやめて!  海    ウッセェ!!なんでウチの女どもはこんなに、かわいさの「か」の字もねぇんだ!       男のロマンってやつに理解が足りねぇんだよ!!  唯    安部なつみから後藤マキに乗り換えたヤツに「ロマン」を語る資格など無いっ!  愛    そーよ、かけらも無い!!  海    黙れ、ブス星人コンビが!  泪    お言葉ですが。  海    おお!泪、テメェは俺の味方だよな!  泪    昨日でした。  海    んあ?  泪    チケット予約、昨日でしたよ。ほら。      ◆ と、雑誌を見せる。確認する一同。倒れる海。  愛・唯  いよっしゃあ!自爆が一人ィ!!  海    俺の…、ロマンが…ぁ。  愛    残る敵は2人ね。  泪    俺は、ゆずれませんよ。唯姉さん、愛姉さん、あなた方は後でもいいんじゃない       ですか?   唯    泪ちゃんこそ…。亀の甲よりなんとやら、の精神はどーしたの?  泪    んふふふふふふふふふ。(不気味な笑い)  唯    おほほほほほほほほほ。(不気味な笑い)   愛    ヤッベ。バトルに入っていくタイミング逃した。  海    ロマンがぁぁぁぁああああ。  愛    ちょっと、いつまでやってんのよ馬鹿兄貴!  唯    (泪に)そーよ、いつまでやってんのよ!  愛    はい!?  泪    (唯に)何がです?  海    ロマンがぁぁぁあああああ!      ◆ 海以外の3人、海をにらみつける。海、つっぷしていてその視線に気づかない。   3人   (突然)あ!ドラえもんだ!!  海    うっそ狸!?(起き上がる)は!俺は今まで何を…。思いだせん……。  唯    さぁて、うるさいのが消えた所で、続きよ。       泪ちゃん、あなた理科の点数が悪かったんですって?  泪    …そ、それが?  愛    えー?泪でもそんなことがあんのー?何点何点!?  唯    はちじゅう……  泪    やめてください!忌々しいっ!!  唯    そうよねぇ、屈辱よねぇ。5教科平均98点を記録し続けている泪ちゃんにとっ       ちゃあ82点は赤点よ!いや、0点に等しいわ!!  愛・海  等しくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!  泪    負けましたよ、唯姉さん…。  愛・海  認めちゃうんだ!?  泪    このままいけば、理科の成績が危ないです。5丸から5に下がってしまう。そん       な事があってはならない…。そこで俺は考えた。理科の教師にこびておけば、も       しかしたら成績をキープできるのではないか、と。  唯    それがこの電話ね。  泪    (うなづく)理科の教師が何か困っていました。聞けば、ある生徒に連絡し忘れ       たことがあったそうです。これはチャンスです。俺は言いました。  海    任せてください。鉄腕アトムより速くかつ鉄人28号より正確に連絡しときます。  泪    主旨はだいたいそんな感じです。  愛    でもさー、連絡だけならいつでもいいじゃん。今じゃなくたって…  泪    今じゃなきゃダメです!もし後に回して俺が忘れてたらどうしてくれるんです!?  愛    メモすりゃいいじゃん。手に書いとくとか。  泪    そんなカンニングみたいなことは嫌いです。  唯    ねぇ、泪ちゃん。言わせてもらうけどさー。  泪    なんです?  唯    高校受験に必要になってくる成績って、丸とか三角とか関係ないのよ。  泪    え。  唯    だから、実際べつに5丸も5もかわんないのよね。丸が無くなったからって、成       績が下がったことにはならないのよ。それでも「今!」連絡したい?      ◆ 沈黙。  泪    しょうがないですねぇ。今回はお2人に譲りますよ。  海    わかりやすっ!!  愛    泪…。あんた絶対汚い大人になるよ…。  唯    おーっほっほっほほ!!正義は必ず勝つのよーぅ!!  愛    それじゃあ、電話はあたしが最初に使うわ。  唯    どこから繋がる「それじゃあ」よ!?  愛    正義は必ず勝つのよーぅ!!からにきまってんでしょ!  唯    わたし以上の正義が一体どこにいるってゆーの!?  愛    ここよ!目の前にいるじゃないの!  唯    あー、花粉症ってきついわぁ。目が霞むー。  愛    それじゃあ、電話番号も押せないわねぇ。  唯    全然余裕。視力0.8!  海    微妙…。  愛    唯姉ちゃんは、ただの長電話でしょ!  唯    ただのって何よ。重要な電話よ!あんたの方こそ「ただの」長電話じゃないの!?  愛    ちッが――――――――――――――――――――うっ!!!!  泪    いつも以上に長い否定ですね。  愛    違う違う違うちがーう!今日を逃したら、次いつ来るのかわからないチャンスな       のよ!  唯    チャンス?  海    なんだよ、チャンスって。  愛    星よ。星占い。「かに座のあなた。今日の星回りは絶好調!恋に仕事にパーフェ       クトな一日!ラッキーポイントは……電話!!」  唯    ピピン!(←女の勘レーダー受信)恋?  愛    ヤベッ。  泪    今言いましたよね。確かに。  海    言ったな。言ったよな。ハッキリと言ったな。  愛    ……うぐいすの声と聞き間違えたんじゃない?  唯    いいのよー。ごまかさなくて。証人はこ〜んなにたくさんいるもの。  愛    たった2人じゃないのさ…。  唯    愛ちゃんっ!あなたっ  3人   「恋をしちゃいました」なのねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!  海    どんなヤツどんなヤツ!?まぁ、俺よりイケてるヤツなんて世の中にいねぇけどよ。  泪    そういえばこの頃やけに髪型とか化粧とかがんばってましたよね。  唯    んもー!なんでお姉ちゃんに相談してくれなかったのん!?兄弟水入らずじゃない       のぉ!?  愛    くわばらくわばら…。なんみょーほーれんげ〜きょーう(手をスリスリ)  唯    よっしテメーら!愛ちゃんの恋を応援しちゃうぞぉ!  海    まかせろって!俺に不可能はねぇんだよ!!  愛    (ポツリと一人で)あんた今まで3人に告白して3人ともフラれてんじゃん…。  泪    やっぱり定番は電話で呼び出し、星の見えるブリッジで電撃告白パターンですよ       ね。  愛    (一人で)どーしてブリッジって英語で言うのよ。橋でいいじゃん橋で…。  唯    愛ちゃん!お姉ちゃんは、お姉ちゃんだから今日の所は電話譲ってあげるわ!!あ       なたの一世一代の決心からすれば私の用事なんてしょせん「ただの」長電話よ!!  愛    今頃気づいてるし…。  唯    泪ちゃん!!  泪    了解しました。(といって退場。すぐに子機電話を持ってやってくる)  唯    さあ!おかけなさい!愛する君へ!!  愛    ゴクっ。  3人   さあ!  愛    (うなづく)  3人   (うなづきかえす)  愛    ピポパポポ……はぁはぁ。(疲れてる)  3人   負けないでぇもーお少しー♪(手拍子&歌う)  愛    (最後のボタンを押そうと頑張るが……、出来ない)  唯    ファイトよ!愛!ある偉い人が言ったじゃない……。          ◆ 唯と泪用意。  唯・泪  炎!!(T〇Mの炎をやる)  海    関係ねぇじゃん!!  愛    勇気でたわ!ラストッエイ!!(最後のボタンを押す)  海    出たのかよ勇気!?      ◆ なんだかんだ言って、愛のもとへ3人集まる。耳を傾ける。  唯    かかった?かかった?  海    親が出てもビビんなよ。  泪    さも普通に。何事もないようにですよ。  愛    出たぁ!!  3人   ぃよっし!!  愛    ん?「お客様のお電話、使用中。お電話、使用中…」  唯    は?  泪    お電話使用中?  海    別に誰も使ってねぇぞ。  愛    ……まさか。  4人   まさかっ!!    ◆ 母、登場!!  母    (電話中)うんそうそう。安かったのよー。でもーぉお一人様1個限りでぇ。  4人   あああああああああ〜〜〜〜〜〜!!  母    あ、ちょっと待ってねぇ。保留ーぅピッ!       あら、愛する我が子よナイスチューミーチュー。   愛    分かってたわよ!所詮世間はこんなもんよー!!  母    愛。そんなに簡単に世間あきらめちゃダメダメよぉ。  海    おめーのせいだおめーの!!  母    海。そんなこと言っていいのかしらねぇ?  海    うっ。  唯    お母さん…。誰に電話してたの…?  母    みのもんた。昼はまるまる思いっきり生電話。  泪    嘘丸見えじゃないですか…。  母    きょほほほほほぉ。で、みんなは何をバトってたの?       まさか、電話の取り合いとかしてないわよねぇ?そーんなことないわよねぇ?       きょほほほほぉ。  愛    絶対ワザとだあ!この人絶対ワザとだよぉぉぉ!  泪    この人ほど汚い大人はきっといません。  海    親父が逃げ出す気持ち、理解できるな。  唯    みんな、準備はい〜い!?  愛    もちろんオッケイ!!  海    合点承知!  泪    いつでもどうぞ!  唯    いくわよ!せーのっ  4人   そんなんだから、うちだけ回覧版回ってこないんだああああああああああああ!!    ◆ 4人走って退場。残る母。  母    アイツラ…。アタシが近所の皆様から評判よくないの知ってたのね。       何気に気にしてるのに。       まあいいわ。じっくぅりゆっくぅりコトコト煮込んだスープのようにお返しして       あ・げ・る・わよー。ケヘヘヘヘヘ〜。       あぁ、もしもし?うん、そうなの〜        とか電話の相手にホザきながら、退場。     こうして兄弟達の家庭の事情は深刻化していく―――――…。                       (終わり)