『極!!兄弟達の家庭の事情』   作・甘夏ドリンカー -------------------------------------------------------------------------------- 【登場人物】  唯:長女・高校一年  海:長男・中学三年  愛:次女・中学二年  泪:次男・中学一年  舞:母 ・年齢秘密 --------------------------------------------------------------------------------  唯   時にはくじけそうになったけど、私今まで生きてきて良かったわ。  海   俺、この日のために生まれてきたのかもしんねーぜ。  愛   あたし、泣いてなんかないわ。だってこれは、心の汗だもの。  泪   こんな事があるなんて。奇跡って、本当にあったんですね。       唯、チャブ台の上の紙を掲げる  唯   隣の山田さんから、『バーゲンゲッツアイスの無料券』を、いただきましたぁ!!         一同、拍手  海   山田さん、ありがとう!!「あの人の髪の毛ってぇ、なんかバナナの茶色い部分みたい      じゃねぇ?」とか言ってごめん!  愛   「あの人ってぇ、壊れかけのレディオみたいだよねぇ」とか言ってごめん!  泪   今までずっとサラニューナさんと間違えていてごめんなさい。  一同  ……誰。  泪   ペコリ。(頭をさげる)  唯   (咳払い)さあ、さっそくこの無料券で、バーゲンでゲッツなアイスを無料でもらいに      行きましょう。無料で。  海   はいはい!俺、チョコミント!  愛   あたし、ストロベリー!  唯   えーっとねぇ、私はねぇ、迷うわぁ。       3人、わいわいと盛り上がる 泪、無料券を見る 何かに気付く  泪   あの。  唯   なぁに、泪ちゃん。わっはっは。  愛・海 わっはっはっはっは。  泪   絵に描いたような幸せの有頂天の中、申し上げにくいんですが。      一個です。  3人  (あんま聞こえてない)わっはっはっは。  泪   ちゃんと聞いてください。この、無料券でもらえるバーゲンでゲッツなアイスは、      たった一個ですよ。  3人  わっはっは……はああああああ!?  海   ちょ、ちょっと待て聞いてねえぞ!  愛   お客様のご希望の数だけもらえるんじゃないの!?  唯   (無料券をよく見る)『本券一枚で、バーゲンゲッツアイス1カップと交換いたします』  泪   ただし、安心してください。この券でもらえるバーゲンでゲッツなアイスはファミリー      サイズですから、皆さんの口にはまわってきます。  唯   あ、ホントだ。ファミリーサイズって書いてあるわ。  海   じゃあ、残る問題は。  愛   バーゲンでゲッツなアイスの、  一同  味。       一同、不敵な笑み  海   大丈夫だ、皆。みんなの気持ちはよく分かってる。いいよ、そんなにチョコミントが      食いたいなら、俺は止めねぇ。  唯   ぜんぜこ(←全然)、食べたくないわ。  海   強がるな、唯。「あたしぃ、ミントの爽快感の中に見え隠れするチョコの甘味がたまら      なく好きなのぉ」って、足の裏に書いてあるぜ。  唯   うっそ、マジで!?(足の裏を確認)  愛   唯姉ちゃん!だまされちゃダメ!足の裏に書いてあるわけないじゃない!!だって足の裏は、      くすぐったいもん!!  海   どんな理屈だ…。  泪   ああ、なるほど。  海   納得すんのかい!?  唯   そうよね、くすぐったいもんね。書いてあったら分かるわよねぇ。  愛   でしょ!?  泪   そもそも足の裏というのは、神経が沢山あるために…  海   (遮って)おいおいおいおい、チョコミントの話しはどこに行ったんだっつの!  一同  高田馬場へ。  海   イッツ山手線…ッ!!  愛   だってさぁ、あたしミントとかスースーするの食べれないもん。  海   そんなスースーしねぇよ、しょせんアイスだぞ。  泪   しょせんアイス、ですか。  海   んあ?  泪   海兄さんのアイスに対する価値観がわかりました。  唯   ぴどいわ海。あんた、顔と女の趣味は悪いけど、アイスに対する礼儀だけは忘れない      弟だと思ってたのに!  海   ツッコミ所満載で、何からどう言っていいのか…  愛   (遮って)頭が高いッッッ!!  海   はは〜ぁ(ひれ伏す)って、やるかアホ!  愛   今やったじゃん、ちょっと。  泪   とにかく、アイスをバカにした海兄さんの意見は採用できません。  海   ごご誤解だ。「しょせんアイス。たかがアイス」って言うつもりだったんだよ。  泪   それを言うなら「たかがアイス。されどアイス」です。  唯   「しょせんアイス。たかがアイス」ってどっちも最悪よ!!最悪よ最悪よ…(エコー)  愛   最低よ!!最低よ最低よ…(エコー)  海   グッバイフロム高田馬場…ッ!!(顔を伏せて泣く)  一同  楽勝。  愛   ほいじゃあ3:1で、ストロベリーに決定ってことで。  唯   愛ちゃん何言ってるの。お姉様、思わずフッツーにつっこんじゃったわよ。  愛   たっはー。流れで行けるかなぁと思ったんだけどなぁ、無理だったかぁ。  唯   そりゃあ無理よ。そこまでバカじゃないもの。  愛   そうだよねぇ、ははははは。  一同  はははははは。  愛   じゃあストロベリーに決定ってことで。  一同  ……。(一同、ピタっと笑いを止める。いやぁな空気)  愛   は、はは、無理だよねぇぇ。そうだよねぇ。ははは。      (コロリと豹変して)お願い!!!!ストロベリーにしてっ!  泪   すごい熱意ですね。  愛   あたし、アイスと言ったらストロベリーって決めてるの。バーゲンでゲッツなアイス      のストロベリーってすごいって聞いてたのよ。  唯   すごい?  愛   そう。なんと、なんとねっっっ!果肉の量が本来のアイスの10倍なのよ!!  海   カニクってなんだよ。カップラーメンのお湯入れる前に入れるやつか?  泪   それは『かやく』です。  愛   ストロベリー!  唯   ねぇねぇ知ってたぁ?『かやく』って、加える薬味って意味で『かやく』なんだってー。  愛   ストロベリー!  海   うえええ!?俺、ジジジジドッカーンていう『かやく』の事だと思ってた。  愛   ストロベリーゆうてんのがわかんねぇだか、コラァ!!いてまうぞ、ワレェ!!  唯   きゃーお代官様ー。  愛   おだまりッ!  唯   ぶ〜。  愛   いい?耳の穴かっぽじって良く聞きなさいよ。アイスはストロベリーが一番美味しいの。      淡いピンク色の中の、真っ赤な果肉。  海   なあなあカニクって…、  愛   (遮って)果実の肉の部分じゃい!!  泪   書いて字のごとしですね。  愛   そんなすっばらすぃ、ストロベリーアイスを食べてみたくない!?  一同  食べてみたくない。  愛   うそぉん!?  泪   愛姉さんの熱意は、イヤと言うほど伝わってきました。けど、  愛   けど!?  泪   食べたくない理由は単純です。  愛   さっさと申せ。  泪   僕は、苺アレルギーです。  愛   ピシャ――――――――――――――――――――ンッッ!!  泪   以上。  唯   愛ちゃん、知らなかったのぉ?  愛   だから泪ちゃん、ショートケーキ食べる時、苺だけキレーに抜き取ってから食べてた      のね…。  泪   あの作業もなかなか集中力が磨かれるので好きなんです。  愛   生クリームフェチじゃなかったんだ……。  海   んなわけねーだろーが。  愛   (号泣して)ごめんっごめん泪ちゃん!あたし、お姉ちゃん失格だよねぇ!!      泪ちゃんのダメな食べ物も知らないなんてぃ。ううう、ごめんねぇ。  泪   いえ、そんな。別にいいですけど。  愛   (コロっと変わって)じゃあストロベリーにしてもい?  泪   死んでください。  愛   はう〜〜〜ぅ。やっぱダメだったぁ。  唯・海 そりゃそーだろ。  愛   じゃあ泪ちゃんは、何味がいいのよぉ?  泪   僕ですか?  愛   くだらないの言ったら、ドタマかち割って富士山くらいの苺をそん中に詰め込むからね。  泪   お好きにどうぞ。      僕の場合アイスといえば、抹茶です。  海   渋すぎる!それはさすがに、愛にはキツイだろう。  愛   (うつむく。拳がプルプルしてくる)……。  唯   あ、愛ちゃん。何その静けさは。やめてよ、富士山苺を詰めるのはやめてよ!  愛   (満面の笑みで)抹茶もいいねぇ。  唯・海 うそぉん!?  愛   泪ちゃん、ナイス大和魂よ。  泪   愛姉さんこそ。       2人、ガッチリ握手  唯   な、なななな何!?二人の後ろに燃え盛る大きな夕陽が見えるッ。  海   な、なななな何だ2人のあの表情は!まるで死闘を繰り広げた後の侍の顔!  泪   さあ、唯姉さん。海兄さん。抹茶に二票入りましたよ。どうしますか?  海   いや、別に俺はチョコミントがダメな時点でもう何でもいいけどよ。  泪   唯姉さんは。  唯   私はねぇ、まあ特に食べたいのも無いしなあ。  愛   抹茶ってさ、なんか食べてる姿が様になるんだよねぇ。  唯   様になる…?  泪   ふと見た感じ、少々高級感があってオシャレな感じですよね。  唯   ふと見た感じ…。  海   俺、抹茶の味はあんま得意じゃないけど、外見が良いから好きだな。  唯   外見…。  愛   唯姉ちゃんも、特に食べたいのが無いなら抹茶でいいよね。  唯   ……。  愛   唯姉ちゃん、どしたの?  唯   …イヤよ。  愛   え?  唯   イヤよ。イヤよイヤに決まってるじゃないの、このウスラトンカチぃぃぃぃ!!  愛   う、うすら?    唯   (激怒している)はあ?何?やっぱ外見なわけ?抹茶の味が良いとか、感触がたまんない      とか中身の問題じゃなくて、見た感じが様になってればそれでいいわけえ?  海   なんだコイツ。ネジとれたか?  泪   理由はわかりませんが、噴火してます。  唯   私はそうは思わないなあ。だって、やっぱ中身が大事じゃない。見かけがどんなに      かわいくったって、性格ブスじゃ話しになんないと思うわあああ。  愛   あ。分かった…。  海・泪 え?  唯   何よ何よぉ!確かにあの女は私よりかわいいわよ!認めてやろーじゃんか。      でもね、私の方が数千倍、いや数万倍優しい性格の持ち主よぉぉぉ〜…。      うわああああああああああああん!!好きだったのにぃ、三井くん〜〜!!あんな顔だけ女      にもってかれたあ!!うびゃ〜ん!(泣き崩れる)  海   …やっちまったか。  泪   そうみたいですね。  海   失恋記録、また伸びたな。  愛   0勝22敗。  泪   ゾロ目ですね。  海   不吉な。  愛   唯姉ちゃん、落ち着いて。あたしらが悪かったよ。女は顔じゃないよね。  海   三井だか四井(よっつい)だか知らねえけど、男はそいつだけじゃねえ。五井(いつつい)      だって六井(むっつい)だって七井(ななつい)だっている。安心しろ。  泪   唯姉さん。元気だしてください。ほら、バーゲンでゲッツなアイス食べれるんですよ。  唯   そうだよね…。男はアイツだけじゃないし、バーゲンでゲッツなアイスも食べれるん      だものね。三井が何よねぇ。ヒックヒック。  愛   よし、いい感じよ。  海   最後のしめといきますか。  3人  (うなづく)  海   唯お姉様、  愛   大丈夫。  泪   だって貴方は  3人  美しい!!  唯   オーッホッホッホッホッホ!!三井の一人や二人何よねぇ!      おいっ三井!!(念を送るポーズをしながら低い声で)犬のウンコ踏み潰してコケろぉ。  愛   下品だ…。  海   低レベルだ…。  泪   僕らの平和のためには、それもありです。  唯   さ。バーゲンでゲッツなアイスを無料でもらいに行きましょう。無料で。  愛   え。でも、まだ何味にするか決まってないよ。  唯   愛ちゃん早口言葉は寝てから言いなさい。  泪   寝言です。  唯   寝言は寝てから言いなさい。  愛   はあ…。  唯   アイスのベースは全て、バニラ。バニラって一見地味でなんの面白みもないようだけど、      実はすばらしい可能性を秘めた中身をもっているのよ。  3人  はあ…。  唯   今日の格言。女もアイスも中身が命!  愛   唯姉ちゃん、貴方は立派な女になるよ。ある意味尊敬する。ある意味。  唯   さあってバニラアイス、もらいに行くわよ。文句ある人いる!?  3人  (首を横に激しく振る)  唯   よろしい。ほんじゃレッツゴー!  3人  ……おー。  唯   声がちっさい!もう一回。レッツゴー!       するとドコからともなく、声がする  母   のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!       叫び腹をおさえながら、母登場  母   ちょ、ちょっと、下痢止めどこやったっけ?  唯   はあ?  母   あいたたたた…。イタタ。やっぱアイス一気食いは、腹にくるわぁ。       母、そこら中をうろうろしながら下痢止めを探す  母   あんたたち!何ポヒャーっと立ってるの。さっさと下痢止め探しなさい!  愛   母さん、何を一気食いしたって?  母   いたたた。  海   おい、何を一気に食ったんだって!  母   いたたた。  泪   母さん、答えてください。  母   アイス。  4人  はあああああ!?  唯   まさかとは思うけど母さん。そのアイス、お金で買ったの!?  母   ううん。何かその辺に無料券落ちてたからさー。ラッキーって思ってぇ。でもスゴイの。      そのアイスったらこぉぉぉぉんなに大きいのよ。まるでファミリーサイズ。  海   一人で食ったのかよ!?  母   うん。3分45秒で。  唯   早っ!!  愛   でもどうして!?無料券はココにあるじゃん!  泪   (無料券を見る。裏返す)あ…。  唯   泪ちゃん?  泪   コレ、偽物です。ハズレって書いてあります。ホラ。      (と、裏を見せる。そこには、ご丁寧にもハズレとデカデカと書いてある)  海   なんだよハズレって!  母   ハズレはハズレよ。だってそれ、アタシが作ったんだもの。  4人  ぺ?  母   アタシねぇ、美術5だったのぉ。すごいでしょ。それも本物の無料券を見てぜ〜んぶ      手で書いたのよ。自分の技術にほれぼれしちゃう!あててて…。  泪   偽札ならぬ、偽無料券ですね。  母   ちょっと早く一緒に下痢止め探しなさいよー。  4人  そんな…。  母   下痢止め下痢止め…。  4人  そんなバナナッッッ!!!!!!  母   ぽ?  唯   バカバカバカバカ!母さんのカバぁぁ!  母   残念。アタシは人間よお。  唯   こうなりゃもう、いくしかないわよ。みんな、準備はい〜い!?  海   合点承知!  愛   全然オッケー!  泪   いつでもどうぞ!  唯   せーの!  4人  そんなんだから、お気に入りのスカートがはけないお腹になっちゃうんだぁぁぁぁぁぁ      ぁぁぁぁぁ!!!!       4人、走って退場  母   アイツら…。よくもまあ、人の贅肉ちゃんを馬鹿にしてくれやがったわね。      いててて。そんな事より、くおらああああ下痢止め探せって言ってるでしょぉ!      やばい、もれるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!       母、退場                               幕