『忘れ物』  作   SHIGE (原案 甘夏ドリンカー) -------------------------------------------------------------------------------- 【登場人物】 優子 (中学生) ストーリー (物語の精) 魔女 (物語の登場人物) シンデレラ (物語の登場人物) ウー (物語の登場人物) ピーターパン (物語の登場人物) -------------------------------------------------------------------------------- 1場 優子の部屋 ◆幕上がる。舞台下手に机に座って、物語を書いている優子。 なかなか、筆が進まない。 優子  あー、もう!(机を手で激しく叩いて立ち上がる。)ダメダメダメ!     なーんにも思い浮かばない。どうすんのよ、明日が締め切りなのに!     部長のあたしが書いていかなかったらカッコ悪いじゃない。だいたい、     お母さんがいけないのよ。あたしに優子なんて名前つけるから。お陰で、     「あーら、優子さんって優しい子って書くのね。童話クラブの部長さんに     ピッタリじゃない?」なーんて、アサコに嫌み言われるし・・・。     えーえー、どうせ私は名前負けですよ!あったかい物語なんて書けや     しませんよ。ほっといてちょうだいよ!・・・(ため息)ばっかみたい、     一人で何いってんだろ・・・。でも、楽しかったなぁ。ベッドの中で、     お母さんに絵本を読んでもらいながら、自分が主人公になって、王子様と     踊ったり、海賊と戦ったり・・・。(机に戻る。)書いてみたいなぁ、     あんな物語。でも、やっぱり、私には無理なのかなぁ。せっかく、柄でも     ない童話クラブにはいったのに・・・。(優子、眠りに落ちる。) ◆照明が消え、BGM。上手から登場するストーリーにスポット。 ストーリー  ありゃりゃ、寝ちゃった。でも、こんな子、久しぶりに見るなー、     えっ、私は誰かって?んーと、詳しくはいえないんだけど、ちょっと、     変わった仕事をしてるんです。最近忙しくって、手伝ってくれる子を     探してたの。なのに、なかなか条件に合う子が見つからなくて・・・。     でも、この子なら、きっと大丈夫。お願いしちゃいましょう。それっ! ◆効果音、暗転、BGM。 2場 シンデレラ ◆やや上手に、魔女とシンデレラがたっている。 魔女  シンデレラ、カボチャを持っておいで。そしたら、お城の舞踏会に     連れていってあげるよ。 シンデレラ  えっ、かぼちゃ?かぼちゃで舞踏会にいけるの?わかりました、     おばあ様。今、とってきます。 ◆シンデレラ、下手に走り去る。入れ替わりに、優子登場。 優子  何なのよ、これ!なんで、あたしがこんなところにいるのよ。     あっ、そこの人! 魔女  あたしのことかい? 優子  他に誰もいないでしょう。ねえ、ここはどこなの? 魔女  おまえさん、ここらへんで、見かけない顔だねえ。名前はなんて言うんだい。 優子  なんで、あたしが見ず知らずのおばさんに名前を教えなくちゃいけないのよ。     だいたい、人に名前聞くときは、まず、自分が先に名乗るもんでしょう?! 魔女  おやまあ、元気のいいお嬢ちゃんだこと。私にそんな口をきく者は、     ここ八百年ばかりいなかったね。 優子  八百年?!あなた、いったい・・・。 シンデレラ  おばあさまー!(下手から、走って登場。) 魔女  どうしたんだい、シンデレラ。 優子  シンデレラ? シンデレラ  それが、お姉さま達が出かけるときに、倉庫に鍵をかけてしまって     何にも取り出せないんです。 魔女  ひどいことをするねえ・・・。 優子  ちょっと、待って。一体、どういうこと?頭がおかしくなりそうだわ。 シンデレラ  あの・・・、あなたは? 優子  いいでしょ、そんなこと。とにかく、気がついたらここにいたのよ。     まったく、明日までに、しなきゃいけないことがあるのに! シンデレラ  お気に障ったら、ごめんなさい。どなたでも、お客様は大歓迎です。     あいにく、何にもおもてなしができないんですけど・・・。 優子  別に、あなたに怒ってるわけじゃないわよ。 魔女  それにしても、どうしたものかねえ。カボチャがないと馬車が出せないんだよ。 優子  カボチャの馬車?それに、シンデレラっていったわね・・・。     もしかして、あなた、魔法使いのおばあさん? 魔女  まあ、そんなところさ。 シンデレラ  やっぱり、私には舞踏会なんて無理なんですね。あきらめます。     おばあさま、ありがとうございました。 優子  もう、じれったいわね。そんなんだから、お姉さんたちにいいように     こきつかわれるのよ。あなた、ここで頑張れば、王子様と結婚できるのよ。     あきらめてどうするの! シンデレラ  王子さまって、それ、どういうことですか。 優子  今、説明してる暇はないわ。細かいことは気にしないで。     とにかく、カボチャを見つけることが先決でしょ。 魔女  何か、いい知恵はあるかい? 優子  しょうがないわね。シンデレラ、一人太ったお姉さんがいるでしょ? シンデレラ  ええ、下のお姉様がちょっと、ぷっくりと・・・。 優子  その人のベッドの下を探してみて、きっと、食べ物が隠してあるわ。     多分、かぼちゃもあるはずよ。 シンデレラ  わかりました、探してきます。(下手に走り去る。) 魔女  どうして、あんなことがわかるんだい? 優子  だって、あのデ・・・じゃなかった、ぷっくりしたお姉さんはきっと寝る前に、     こっそり何か食べてるはずよ。そしたら、ベッドの下が一番でしょ? 魔女  こりゃ、驚いた。随分、詳しいんだねえ。おまえさん、姉さんたちの     知り合いかい? 優子  昔、ちょっとね・・・。 シンデレラ  おばあさまー!(下手から走って登場)かぼちゃが見つかりました。 魔女  そりゃあ、よかった。 シンデレラ  (優子に向かって)えーっと・・・。 優子  優子よ。 シンデレラ  どうも、ありがとうございました。優子さん。あの、頑張って下さいね。 優子  えっ、何が? シンデレラ  だって、何か、明日までにしなきゃいけないことがあるんでしょう? 優子  忘れてたわ。それに、もう間に合いそうもないし・・・。 シンデレラ  あきらめてどうするの! 優子  えっ? シンデレラ  って、教えてくれたのは、優子さんでしょう? 優子  そうだったわね。でも、家に帰る方法がわからないわ。 魔女  大丈夫、それなら、私が次に送ってあげるよ。 優子  ちょっと、次って何よ。家に帰してくれるんじゃ・・・ 魔女  それっ! ◆効果音、暗転、BGM。 3場 三匹の子豚 ◆舞台中央にブタ(ウー)。下手に切り株。 ウー  あーあ、めんどくせーなあ・・・。家を造るっていったって、やったこと     ねえもんなあ。だいたい、材料は何使うんだろ。あれっ、くいもんじゃ     ねえんだから、材料とは言わないか・・・。まあ、なんでもいいや。     取りあえずちょっと寝てから考えよーっと。 ◆ウー、切り株に座って寝る。下手から、優子登場。 優子  まったく、今度はどこなのよ。(ウーにぶつかる。)うわっ! ウー  いってー。 優子  ちょっと、痛いじゃない。気をつけてよ。 ウー  だって、そっちからぶつかってきたんじゃないか。 優子  うるさいわね、ブタのくせに生意気に・・・。ブタ〜〜!! ウー  でかい声出さないでくれよ。だいたい、あんた、誰? 優子  あのねえ、人に名前聞くとき・・・。優子だよ。あんたは? ウー  俺の名前は、ウー。よろしくな。 優子  変な名前ね。 ウー  悪かったな。 優子  ちょっと、待って。ウーって、もしかしてブーフーウーのウー? ウー  えっ、何で兄ちゃん達のこと知ってんだ? 優子  細かいことは気にしないで。 ウー  ふーん、まあ、いいや。おやすみ。 優子  おやすみなさい・・・って、寝ちゃダメだよ。まだ、家作ってないんでしょ? ウー  ほっといてくれよ。ここはあったかいし、雨も降らない。家なんてなくても     へっちゃらさ。それに、俺は、「明日できることを今日やるな」がモットー     なんだ。 優子  このなまけブタ! ウー  ひどいこというなあ。 優子  オオカミが来たらどうすんのよ。 ウー  えっ、オオカミってほんとに来る? 優子  来るわよ。三匹の子豚って、昔、本で呼んだもの。 ウー  本って何のこと? 優子  細かいことは気にしないで。とにかく来るのよ、間違いないわ。 ウー  うわーっ、どうしよう。俺、オオカミって大大大っ嫌いなんだよ。     まだ、死にたくないよー。 優子  だ・か・ら、家を建てるんでしょう? ウー  ああっ、そうだった、そうだった。でも、何で造ったらいいんだよ。     俺、家なんて建てたことねえもん。 優子  お兄さん達は、わらと木で造ったんでしょ。 ウー  そっか、じゃあ、俺もそうしよ。 優子  ダメダメ!それじゃあ、オオカミに簡単に壊されちゃうよ。 ウー  じゃあ、どうすればいいんだよ。 優子  はーい、それでは、ここで問題です。堅くて、四角い、頑丈な家を造れるもの     は、次のうちどれでしょう。一番・トウフ、二番・スポンジ、三番・レンガ。 ウー  トウフ! 優子  そう!白くて、柔らかくて、この季節は、また、湯豆腐にすると、カー、     もうたまらないのよねー・・・って、んなわけないでしょ!(ウーをどつく。) ウー  すいません、すいません、じゃあ、スポン・・・(優子、殴るフリ。)     レンガです、レンガ。最初から知ってましたよ。 優子  あったりまえでしょ! ウー  でも、レンガなんて、どこにあんだよ。 優子  そこまでは、面倒みきれないわよ。 ウー  そりゃそうだよな、それにしても、おまえ、凄いな。 優子  すごいって、あたしが? ウー  何、驚いてんだよ。すごいじゃねえか、優子は。だって、俺の知らないこと     いろいろ知ってるし・・・。それに、話してるとやる気がでてくるっていうか、     なんかこう、おまえには、相手に希望を与えるパワーがあんだよな。 優子  思い過ごしよ、あたしにはそんな力はないわ。 ウー  もっと、自分を信じろよ。さて、そろそろ次の物語に行く時間だな。 優子  次の物語って、まだ、うちに帰れないの?それに、ここって何なの? ウー  はいはい、つべこべいわないで、あっちの方にいってみな。     (優子の背中を押す。)じゃあな、バイバーイ。 ◆優子、上手に退場 ウー  ストーリー、ストーリー!(ストーリー、上手から登場。) ストーリー  はいはーい、呼んだ、なまけブタさん? ウー  おまえまで、やめてくれよ。でも、あの子、思ったよりいい子だな。 ストーリー  でしょ?あたしの目に狂いはないわ。 ウー  自慢すんなよ。そんなことより、優子はもう次へいったぜ。道に迷わない     ように、気をつけてやれよ。 ストーリー  大丈夫、まかしといて。(照明消える。ストーリーにスポット。)     えっ、次の物語は何かって?それは教えられないけど・・・。     ヒントは、「私が、動けば」(股の間から、客席をのぞく。) ◆暗転、BGM 4場 ピーターパン ◆暗めの照明、暫く、ピーターパンが、何かを探すパントマイム。やがて諦める。 ピーターパン  ない、ない、なーい!おっかしいなー。一体、どこにいっちゃった     んだろう! ◆優子、下手から登場 優子  勝手に入って来ちゃったけど、不法侵入になるのかなあ。     でも、何か見たことある家なんだけど・・・。 ピーターパン  ウェンディ!そうか、君の仕業だな。 優子  ウェンディ? ピーターパン  頼むよ、もったいぶらないで、はやく返してくれ。 優子  ちょっと、待って。私は何にも知らないわ。それにウェンディって     名前でもないし・・・。ところで、あなたは誰? ピーターパン  失礼な奴だな。人に名前を聞くときは、まず自分が名乗るもんだろう。 優子  そりゃそうよね、ごめんなさい。あたしの名前は優子。ウェンディって     名前とは、似ても似つかないでしょう? ピーターパン  そうか、そうだよな。だって、ウェンディは、もっと美人だった     し・・・。 優子  ほっとけ! ピーターパン  ティンカーベル、ティンカーベル! なんだ、あいつもいないのか。一緒に探してもらおうと思ったのに・・・。 優子  ねえ、さっきから何を探してるの? ピーターパン  見りゃあ、わかるだろう。俺の影がどっかに消えちまったんだよ。 優子  ウェンディ、ティンカーベル、無くなった影・・・。わかった、     これって「ピーターパン」よ。間違いないわ。 ピーターパン  おい、優子!ぶつぶつ言ってないで、さっさと探してくれよ。 優子  大丈夫、影は子供部屋にあるわ。 ピーターパン  何言ってんだよ。子供部屋なら、とっくに調べたさ。 優子  おもちゃ箱の中も? ピーターパン  当たり前だよ、ベッドの下も、クローゼットの裏も隅から隅まで、     調べたんだぞ!ああ、俺、一生影なしなんて、カッコ悪くて昼間、外に     出られないよ。 優子  そんなこといったって、「ネバーランド」じゃ年をとらないんでしょう?     永遠に夜だけ出てくるなんて、それじゃ、吸血鬼じゃない。 ピーターパン  あれ?おまえ、何でネバーランドのこと知ってんだ? 優子  細かいことは、気にしないで。 ピーターパン  うっわー!気になるなー、その言い方。 優子  おかしいなあ、子供部屋にあるはずなのに・・・。 ピーターパン  だから、無かったんだって!さっきも言ったろう? 優子  じゃあ、一体どこに・・・。犬・・・?確か、この家に大きい犬いたよね! ピーターパン  ああ、そういやあ、大きくてふさふさしたのが一匹・・・。 優子  それだよ、それ! ピーターパン  犬がどうしたんだよ。 優子  きっと、影をおもちゃと間違えて、犬小屋にくわえていったのよ。 ピーターパン  そうか!それじゃあ、すぐに犬小屋へ(下手に走り出して止まる。)     って、言いたいところだけど、優子、そろそろ時間だろ。 優子  わかった。また、次の物語へ行くのね。(上手に歩き出す。) ピーターパン  ちょっと、待った!(追いかけて、引き留める。)絵本の中の物語は     もう終わりさ。これからは、優子が、自分の物語を切り開いて行くんだよ。 優子  えっ、私の物語? ピーターパン  できるだろ?優しい、優子さん。 優子  えっ、優しい?あたしが? ピーターパン  名前負けなんかしてねえよ。もっと自分を・・・ 優子  信じろよ、でしょ?わかったわ、そうだよね。私は優子でいいんだよね。 ピーターパン  ウェンディって名前とは、似ても似つかないんだろ?じゃあな、優子! 優子  あっ! ◆効果音、暗転、BGM 5場 優子の部屋 ◆優子、上手から登場。暗めの照明。 優子  ここ・・・私の部屋?私、戻ってきたの? ストーリー  (声だけ)まだ、戻ってきてはいないよ。(BGM、ストーリー、     下手から登場。)心だけがここにあるの。 優子  こころだけ・・・。どうして? ストーリー  体も戻ってくると、私たちと過ごした記憶が消えてしまうの。     その前に、みんながお礼を言いたいって。 優子  記憶が・・・消える?どういうこと、それに、あなたは誰? ストーリー  細かいことは、気にしないで。 優子  ずるいわ、それはあたしの台詞よ。 ストーリー  みんな、いいよ。 ◆下手から全員登場。スポットで追う。 シンデレラ  ありがとう、優子さん。あなたの言ったとおり、王子様と結婚して     今は、お城で幸せに暮らしてるの。 魔女  世話になったねえ。もし、困ったことがあったら、すぐに私を呼んでおくれ。     いつでも、飛んでくるよ。 優子  ほうきに乗って?それとも、かぼちゃの馬車かしら。 ウー  おまえのお陰で、俺達みんな、オオカミに食べられなくて済んだよ。     ほんとうに、ありがとう。 優子  どういたしまして。 ピーターパン  俺の影は、やっぱりあの犬が持ってたよ。サンキュー、優子。     お陰で、この通り。いつか、ネバーランドに招待するよ。 優子  楽しみにしてるわ。 ストーリー  ねえ、優子。あなたに言っておきたいことがあるの。 優子  なあに? ストーリー  あなたは、今日3つの物語を旅したでしょう。何か、気づいた     ことはない? 優子  そういえば・・・私が昔読んだ時とは、ちょっとずつ違ってたわ。 ストーリー  そうなの、この頃は、どういうわけか、みんなの心の中で物語がだんだん     くるって来ちゃってて・・・。それを、元通りに直すのをあなたに手伝って     もらったの。 優子  そんなことなら、お安いご用よ。でも、どうしてあたしを選んだの? ストーリー  普通の人に頼んだら、物語はもっとくるってしまうわ。これは、あなた     のような優しい心の持ち主にしかできないことなの。 優子  そんな・・・。少なくとも、以前の私は、ちっとも優しくなんかなかった     じゃない。 ストーリー  いいえ、あなたは忘れていただけよ。 優子  どういうこと? ストーリー  私たちは、絵本の中に住んでいるのよ。優子のことは、よく知ってるわ。     小さい頃のあなたは、とっても優しかった。 優子  じゃあ、もしかして、みんな私のために・・・。 ストーリー  あっ、そろそろ時間だわ。また、会いましょう。(下手に向かって歩く。) 優子  ちょっと、待って。どうしたらみんなに会えるの?それに、あなたは・・・     あれ、どうしたんだろう。 ◆優子、机に倒れ込んで、眠る。照明消える。ストーリーにスポット。 ストーリー  いつでも会えるよ。優子が優しい心を忘れなければ・・・。     (ノートに何か、書き込む。)じゃあね。 ◆ストーリー、上手に退場。ゆっくり、照明がつく。優子は机で寝ている。 優子  う、うん・・・。あれ、寝ちゃったんだ・・・。あっ!(立ち上がる。)     どうしよう物語、まだ、何にも書いてないよ。また、アサコに嫌みいわれ     ちゃうー。あれ・・・。何か書いてある・・・。「物語修理屋さん」     いつ書いたんだろ。きっと、アンナのいたずら書きね。でもこれ、面白い     題名ね。・・・そうだ、じゃあ、こんなのはどうかしら。意地悪な女の子が、     いろんな物語を直してあげるの。そして、やがてその子も、優しい心を取り     戻していく・・・。何か、イメージ沸いてきた。書くわよー。(BGM、     幕閉まり出す。)えーっと、物語の案内役が必要ね。そうだ、名前は、     ストーリーにしよう!で、最初はやっぱり、シンデレラよね・・・。 ◆だんだん、幕が閉まる。終わり。